〜gravity OFF 04〜

4.対面







「おはよぉ山口。ごめんな、呼びつけて」
「おはょ………ぇ?うそぉ?」

オレにいつもの挨拶を掛けた声はいつもと違う高さから降ってきた…そう、まさに
『降ってきた』。
あのひとは馴染みある部屋の中、空中にふわふわ浮かびながらオレを見下ろしていた。

「………………………………………………………………………」

声が出ない。思わず後退ったオレはさっき閉めたドアにぺたりと背を預ける事で辛う
じて立っていた。



「やっぱり太一呼んだ方が良かったかなぁ」

オレのこの状態をも予測してたらしいシゲが苦笑いしながら溜め息まじりに溢した言葉
にやっとすこしだけ我に返る。




「…ねぇ、ちょっといったいぜんたいどうなってんの?!」

やっとのことで絞り出した声は何だかか細くて裏返ってたけど、そんな事この際どうでもいい。

「わからへんねん」

情けない表情で首を振るシゲの右手は本棚につかまってる。

「朝起きたら、もうこんな感じやってん」

そう言いながら首を傾げる仕草はいつもと同じなのに。なのに…いったい何が起こった
って?
『昨日は何ともなかったの?』『いったい昨日何やったの?』『なにか心当たりは?』
『カラダ全体はなんともないの?』…聞きたい言葉が渦を巻く頭の中は目の前の現実
を現実として捉えきれなくてショートしそうだ。


だけど、今は……。




「…自力じゃ降りられないの?」
「……うん、やってみた。つかまってやったら降りられんねんけど…」
「…けど?」
「地に足が着いてへん、言うんかな…手ぇ放したらまたちょっとずつ浮いてく感じ」

うん、確かにそんな感じ?

「ごめんなぁ朝から呼びつけて…けど、こんな状態でマネのクルマになんかよう乗ら
んしやぁ」

気ィついたらおまえ呼び出しとってん…そう言ってポケットから出した携帯を弄びな
がらすまなさそうに笑うシゲ。

「………………」

ホントに今パニックしてんのはこのひとのはず。オレがオタオタしてる場合じゃない。
こんな時こそ支えなきゃ。

「いいって別にお互いさまだし」

水臭いじゃん?あなたとオレで…。
最初に頼られたらしい事に誰にともない優越感を感じてるオレを見てちいさく頷いた
後にシゲが続ける。

「…ウチの鍵、マネ以外やったら山口しか持ってないやろ?」

こんな状態でリビングとか玄関まで鍵開けになんてよう行かんし…なんだか情けなさ
そうな声。

「…それもそうか」

引っ越したり鍵を替えたりしたときには、『非常事態』(んなもんあったら困るんだ
けど)に備えて事務所のチーフマネに一組鍵を預け、もう一組をオレはシゲに渡す。
シゲからも預かってる………………いつの頃からかだったのかもう覚えてない、いつか
らかの習慣。ふたり同時に動けなくなる、なんて事まずないだろうから互いが互いの
フォローにまわる、それが暗黙の了解。






「とりあえず、このまんまじゃ動けないよね。どうしたらいいんだろ」

オレの目線の先はちょうどシゲの腰辺り。おそるおそる手を伸ばして側面から抱き
締めてみる……と。

「ゎ!」

シゲの体は浮力を失ったかのように、いきなりオレの上に落ちてきた。
とっさに受け留められた自分の反射神経に感謝する。

「うそぉ!?」

呆然として呟いてみるけど腕には間違いなくシゲの重み。目をパチクリさせてるシゲ
の顔が間近でオレを見詰めている。

「良かったじゃん」

ぎゅっと一度抱き締めてから地面に下ろす。ガテンがいかないらしいシゲはしかし確
かめるように床を踏みしめてやっと笑った。

「なんで下りられたんやろ」
「さぁ?オレの愛の力じゃない?」
「…………わかったわかった。ありがとうな。なぁ山口、すまんけどギターとって?」

軽口に返すだけの余裕が出てきたのを確認してギターを取るためにシゲから手を放し
背を向けたオレの背後で焦り声。

「え?なんで?せっかく降りられた思たのに!!」

急いで振り向くと…。またシゲはちょっとずつ浮かびはじめてた。なんで?
慌ててギターのネックを掴んでシゲの元へ走る。
さっきはちゃんと地に足が着いてたよな?

シゲが一所懸命差し延べた指先にオレも手を伸ばした。

***
中途半端な所で切ってすみません…捧げ物と交互に書いてたら収拾がつかなくなってきたので一旦切ります。
つづき、なるべく早くアップしますので。



良ければ拍手等でご意見をお聞かせいただけると嬉しいです。 お読みいただきありがとうございました!





































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