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             05 傍観









「シぃ〜ゲぇ〜」

低いトーン、呆れたような響き。だけどその呼び掛ける声の端にも、それから力を抜く
ことを忘れたみたいにギュッと前に回されたまんまの腕にも『間に合った…』そんな安
堵が見える気がする。

掛けられた声にようやっと我に返ったらしいその人は声で誰かわかったんだろう、非常
に気まずげな感じで小さくなりながら背後の気配を窺った。

「すまん……ほんでからいっつもおおきに」


ごにょごにょぼそぼそうつむいて告げる声。




「ふぅ……ねぇ毎度毎度言ってる気がするんだけどねぇ、シゲさん。資料をいちどきに
運ぶんなら俺が居る時にしなさいって」

俺の寿命を縮めるのもほどほどにしてよ…そのままの姿勢で力を抜いてうつむいたまま
のもう一人の頭に顎を乗っけて喋ってる人。

「…やって、そう思てたけど次のコマ概論入ってるし待っててもお前なかなか会議から
戻ってこぉへんし。帰り着くん待っとったら締め切り間に合わへんやん」

「だからってね…あのまんまここですっ転んでたら流血の大惨事でそれこそ原稿どころ
じゃなくなってるじゃん、横着せずに何往復するかそれかせめて学生使いなよ。くそ長
い会議から戻って来て頭から血を流して冷たくなったアナタを発見すんのなんかまっぴ
らだからね」

「流血の、ってなぁ…そこまで鈍ないわ、それに学生言うたって今みんな出払っとるや
んか…お前の現場に」

ん?なんだかどこかで聞いたような声。
けどさっき遭遇したあの人のイントネーションは標準語だったよな…。


螺旋階段の下に居る俺になんかこれっぽっちも気づかないまんま会話するふたり。

お助けマンがその腕の囲いを解いて上に積み重なった本をどける。
下から現れた華奢な感じの人に手を貸して立たせるとスーツの埃まで払ってやって……
面倒見のいい人だなぁ。


                       06 逡巡→


***

心配のあまり小言?を言い出したら止まらないNo.2(苦笑)

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