kouzy
時事ネタ2本目。出典はどこだったかなあ。
とりあえずぐっさんの弟さんのインタビュー記事が元ネタで出演はリセッタです。
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「公次くん、えらいでっかあ取り上げてもろてるやん」
シゲがタブレットを指差す。目をやるとそこに表示されてるのはうちの愚弟の記事。
「そう?」
取材されたってのはちらっと聞いてたけど内容までは知らないから横から覗き込んでざっと斜め読み。ありがちだけど刺激的なタイトルにおふくろが嘆きそうな煽りだな、と思いつつ写真に目を移す。得意な角度から写された表情。自信満々て感じかな、これは。
「まあこんな感じの見出しがつくんは不本意かもしれんけどな、本人は。けどカッコよう写ってるし自慢の弟やな」
そんな風に言われんのはくすぐったくて面映ゆい…あの頃はそんな風に素直に受け取れはしなかったけど。
「昔たまに遊びに来てた頃、公次くんって松岡にすごい懐いてたよなぁ、たしか。僕はなんやめっちゃ距離置かれてたけど」
なんでやろおかしいな、あの頃結構年下ウケ良かったのに、とぶつぶつ言いながら首を捻ってる…ええもうアナタの年下ウケの良さには手を焼かされてますよ、昔もそれから今も、ね。
「たしかに。実の兄貴である俺より松岡に懐いてたところあったよね、まあ年も近かったし。それにアナタと公次にそんな距離あったっけ、気のせいなんじゃない?」
当たり障りのない言葉を選んで返しながらまったく別のことを思う。
ごめんね、あいつがアナタから距離を置いてたのはあのとき俺があいつを思い切り牽制したからなんだよ、多分。
決して口にはのぼらせない心の中だけでの懺悔。
俺はまだデビュー前、初めて弟をメンバーに会わせた日のことを思い出していた。
「君が公次くん?」
「やっぱり兄ぃと似てるね」
主に太一と松岡が話しかけてんのを(長瀬はまだ時期的にいたりいなかったりした頃だ)スタジオの隅でギターを爪弾きながら茂くんが遠巻きで見守る、そんな感じで眺めてたから(まあ元々積極的に話の輪の中に入ってくタイプの人じゃない)、俺もベースを抱きながら横に陣取って一緒に傍観スタンスを取る。
親と衝突して18で家を飛び出したとき弟はまだ小学生で。だから兄弟だといっても接点は実はそんなに多くもない。
「7つ違いやったっけ」
「うん」
「ちゅうことは長瀬とかジュニアのチビっこ達とおんなじくらいかな」
「それくらいかな」
「ええなあ、弟て…かわいいし、カッコええし。あんな弟欲しかったわ。これからもっともっと男前になんで」
じゃれる弟と太一、松岡を眺めながらの会話。
茂くんが弟をべた褒めすんのがなぜか引っかかるってか癪にさわる、手放しで喜べない。弟相手にそんなこと思ったって仕方ないのに。
だから殊更軽い口調で口を開く。公次をじっと見つめてる横顔と意識をこっちに向けたくて。
「じゃあ俺がお兄ちゃんって呼んであげようか?俺だって年下だし。『茂お兄ちゃ~ん』」
甘ったるい声音で小さく囁き上目づかいで見上げると茂くんがこっちを振り返って露骨にイヤな顔をした。
「うわ~、見てこの鳥肌。全然似合ぉてへんわ。それにこんな態度でかあて、ふてぶてしい弟要らん」
「なんでよ、こんなにかわいい年下に向かって。俺だってかわいいでしょ?」
『かわいい』を強調すると茂くんの唇が笑いを含む。
「かわいいて自称してええんはせいぜい十代までや」
「ええ~?俺ギリでまだ十代だよ?」
「やから、ジブンみたいにもうじきに二十代突入するようなんはかわいいとは言わんの。それにまだ十代なんやったらあの子らみたいに酒も煙草もどっちもまだ当分お預けやな。それでええんか?」
「それはヤだ」
酒や煙草もだけど……それ以上にせっかくの『子』扱いされないポジションを返上するのだけは死んでも嫌だ。
「やろ?それに山口は部類で言うたら『かわいい』言うより『男前』やろ」
「ぇ」
茂くんの言葉のいきなりな方向転換について行けない。今何てったこの人。
「はいはい、カッコよくてかわいくて男前な山口くん、とりあえず俺らだけでも変更点確認して合わせ出しませんか。結構時間経ってもうてるで」
間抜け面をさらしてる俺に向かってさらに駄目押しのアイドルスマイル。顔が熱い。絶対赤くなってるわこれ。ちらり、時計に流した視線はたしかに1時間近く進んだ時計の針をとらえる。
「…了解」
完敗、お手上げ。完全に一枚上手な茂くんに白旗を掲げながらさっきのささくれ立った気分がどこかに行ってることに気づく。現金だなあ俺。
そんな会話を交わしてふと気づけば弟たちの団子が静かになっていた。
「?」
公次が(松岡そして太一もだけど)呆けたようにこっちを見てる。その視線をたどって行き着いた先にあるのは茂くんのキメ顔。山口家の血筋はどうやらあの笑顔に弱いらしい。
その夜、しばらくぶりの実家でこれまたしばらくぶりな兄弟喧嘩。
ガキならではのストレートさであの人のことを知りたがる弟に最初はあれやこれや話してやってたんだけど。
「俺もあの人とバンドやりたい!」
子ども特有のわがままさで主張する弟に苦笑。そんなに簡単じゃねえぞ、この世界は。
それでもまだその時は笑って会話を続けられる余裕があった。
そしたらあいつはさらに調子に乗ってとんでもねえことを言い出しやがったんだ。
「だからベース教えて!」
それまで微笑ましく感じていた気分が一変する。
「なあ公次、それは…ゆくゆくは俺を蹴落として自分があの人のベーシストの座につくってことか?」
どこから出たんだと自分でも思うような低い声。俺の口調が変わったことに気づいた弟が怯えた顔になった、けどその言葉だけはいくら弟と言えども聞き捨てなんねえ。
だから弟と目を合わせ焼き付けるように言葉をぶつけた。
「あの人の、TOKIOのベースは未来永劫俺ひとりだ。ガキが調子に乗ってんじゃねぇぞ!」
教育的指導という名のプレッシャー。だけれど、これだけは譲れない。
あの後おふくろから『達也、あんた公次になんかしたでしょ。達也の話が出るだけでなんだかあの子青ざめるんだけど』なんて苦情めいた指摘があったけど、それ以降弟は茂くんに近づかなくなった。
「…ぐち、山口、って」
ふと気づけばシゲがギターを抱えなおしてどこか心配そうにこっちを見てた。アナタいったいいつの間に音楽モードに戻ったの?
「どないしたん、ぼーっとして」
「ぇ?ああ、ちょっと考え事してた。それから晩飯まだかな、腹減ったな~って」
いつの間にかスリープ画面になってたタブレットを取り上げ、復帰させて弟の写真をもう一度眺めてから画面を閉じ電源を落とす。
そしてぬるくなったコーヒーを飲み干しシゲの左隣、俺の場所に戻った。
「…とりあえずこの曲だけでもしっかり合わせてからな。そのためにぐっさんの部屋来てんのやし。これ終わらんかったら永遠に晩御飯はお預けやで」
「ええ~っ?」
半日だけ重なったオフを共有する相棒は束の間探る目をしたけどそれ以上追及してはこず、俺はそのことに心の底から安堵して楽譜にまた目を落とす。別に知られても笑い飛ばされて終わりだろうけどやっぱりあまりにも格好悪い。
あれから20年ちょい、公次にベーシストの座を譲ることなく俺たちは俺たちのまま走り続けてる。今までも、たぶんこれからもずっと。
『悪りいな、公次』
目に残る弟の残像に断りを入れてからシゲの音に耳を澄ました。
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似たシチュエーションはじまりでかき分けられたらな~と思いつつ書いてみましたが実際かけ分けられたかは謎。でも書いてて楽しかったです。