進化形進行形


【Y 】
***

隣を歩くのは俺、そう決めたから。


事務所に入ってちょっとたった頃社長に城島くんを紹介されて、成り行き上しばらく一緒に楽器をやることになって……それから十日ちょい。
元々ざっくばらんにやりたいほうな俺はなかなか縮まらない相手との距離にちょっと苛々してる。だけど中高のクラブで体育会系思考が染み付いてもいるから一個といえど先輩な相手にこっちからいきなりそう馴れ馴れしくも出来ない。

お互いBOOWYが好きだってこと、共通点がこれだけじゃこれから先が思いやられるよな……ほんとにやってけるんだろうか。
ダンス中心のアイドルを育てるところだと思って事務所に入ったのに、もちろんダンスもやってはいるけど、この先しばらくメインに据えるのはベースとギター、これで本当に大丈夫なのか?そんな不安も頭をよぎる。
だいたい、『しばらく』って、いったいいつまでだよ。

そんなことを考えながら歩いてたら俺の斜め前を行く城島くんを誰かの声が呼び止めた。

「ジョー!」
「え?あ、こんにちは」

声の方向に振り向いた彼は先輩の顔を認め笑顔を浮かべる。

「久しぶり、元気か?あれだけ言ってんのに、やっぱり今日もギターしょってるんだな」
「あ、ええまあ。持ってないと落ち着かないんです」
「まあいいや、なあ今度また遊びに行こうぜ、あいつらも一緒にさ」
「あ、はい、また今度。お願いします」
「……相変わらずだな、まあそれもお前の良いところだけど」

「じゃあまたな」先輩が笑いながらヒラヒラ彼にだけ手を振って遠ざかってった。

入ったばかりの俺と違って長期休み中心だとはいえすでに2年を越すキャリアがあるらしい彼にはそれまでの交友関係がある。『ジョー』とか愛称(略称?)で呼ばれて楽しそうに会話する姿を目にするたびに、だからこそ俺との距離をいっこうに縮めようとしない城島くんにもどかしさが募る。

……にしても隣に立つこっちはまったく眼中にないのかよ。

まだよくわからないところも多いけど、城島くんはとりあえずとてもおとなしい人だ。だけど、自己主張激しい奴らが揃う事務所の中でその静かさに逆に惹かれるのか、放っておけない気になるのか、彼を気にかけ、構いにくる人は結構多い。

その中にはすでにデビューしてる先輩や次のデビュー候補だとか有望株なんて言われてるのもいて、そいつらは突然共に行動するようになった俺をあまり快く思っていないようだった。





そんな11月のある日。やっと学校の授業を終え、練習のためベースを担いで城島くんの部屋に急いでた俺の耳に飛び込んできた会話。

立ち聞きするつもりなんかなかったけど、それは目的地のドアの向こうから聞こえて来て、そしてそこから聞こえてくる声には聞き覚えがあった。バックの仕事の話やら社長がああ言った、こう言ったなんて話やらが聞こえてくる。
どうしよう、このままノックしていいもんだろうか、躊躇してるうちに会話のトーンが変わった。

「なあ……考えてくれた?」

「ああ、うん。とりあえず一応」

ぼそぼそ答えてんのは城島くんの声だ。そして相手は……多分俺に一番喧嘩腰なガンを飛ばしてくるあいつ。
入るに入れずにいる俺の耳が勝手に会話を拾う。

「で?」
「ありがたいと思ったよ、誘ってくれて」
「だろ?ジョーなら今からでも絶対大丈夫、みんな大喜びだって。バンドなんて芽が出るかどうかもわかんねえことばっかやってるより絶対いいよ」

「……そうかもなぁ」

「な?それがいいって。第一まだメンバーっていってもベースのあいつと2人しか居ねえんだろ?」

あいつの言葉は彼を自分の属するグループに誘うものだ、そう悟った瞬間全身がカッと熱くなる。
城島くんはいったいなんて答えるんだろう……………。

考えてみれば俺たちは社交辞令にも似た『一緒にバンドをやろう』ってそんな頼りない約束で繋がってるだけ。
入ったばかりの頃教えてもらってびっくりしたんだけど、状況の変化や心変わりなんかで今現在組まれてるグループの面子がある日いきなり変わったり、いつの間にか消える奴がいたり、それはこの事務所では結構当たり前のことらしい。

そりゃまだ形すら出来上がってもないあやふやなバンド、今なら白紙に戻すのは簡単だよな……………………心の中でそうつぶやいて、はじめて自分がショックを受けていることを自覚する。

別にバンドをやりたくて事務所に入ったわけじゃなかったし、今もまだ打ち解けてるって言えるほど気を許してもらってるわけでもない。だけど、ちょっとの間にいつのまにか城島くんの隣は俺にとって大事な、失いたくない場所になってたみたいだ。

部屋に乱入して『一緒にバンドするって約束したよね?そうだよね?!』そう言い募りたい衝動を懸命にこらえる。

合宿所、人の気配のない昼間、縫い付けられたようにドアの前から一歩も動けなくなってる俺。

「誘ってくれてありがとう」

そう声が聞こえた時には一瞬目の前が真っ暗になった。
嘘?!

「……でも今は自分達の決断をもう少し信じてみたいから。気持ちだけ受け取るな、誘ってくれてさんきゅ」

ぇ?

その後もあいつはなんだかんだ食い下がってたみたいだったけど、結局それから5分くらいで引き揚げて行った。

俺はそれをようやく動くようになった身体で滑り込んだ死角から見送る。そして一度体勢を整え、一呼吸置いてから改めてドアを叩く。

「ああ、山口くん。どうぞ」

迎え入れてくれた城島くんは変わった様子もなく、いつも通りギターを抱えてた。

「もう一度音微調整するから。一息ついたら始める?」

頷いて自分もいつもの場所に座りベースをケースから取り出してチューニングを確認、指慣らしをしながら彼をこっそり見つめるけど、穏やかな表情からさっきの出来事は微塵も窺えない。

芯の強い人だな。
一心に楽器、そして音と向き合う姿から彼のこの道の先への覚悟が伝わる。
この人とならやってけるかもしれない。



これからこの人と歩いていこう。『自分の』じゃなく『自分達の決断』と言ってくれた人と一緒に。その横顔を見て俺は再度覚悟を決めた。




      → 【The first step toward to 【T】】








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