進化形進行形
【The first step toward to 【T】】.
※このお話は【Y】の続きのシーンになります。もしまだお読みでない方はそちらから先にどうぞ。
心に湧いてきた思いを噛み締めてたら心配顔を向けられた。
「なあ、どないかしたん?」
え?今のって。
思わず疑問が顔に出たのか城島くんが俺を見て『しまった』みたいな顔になった。
思わずベースを脇に立てかけ、じっと凝視する。
俺の視線からまるで逃げるように視線を外した城島くんはしばらくギターに集中してるふりでかわそうとしてたみたいだけど、そんなのではぐらかされる訳もない。
尚も見つめ続ける俺の眼差しの圧力を感じたんだろう。あきらめたようにため息をひとつ零しうなだれた。
「…………………………あかん。あー、ミスった。せっかく東京出てきてここまで気ぃ張ってきたのに」
「え?」
目の前で彼の眉尻がへにゃりと下がる。
「もう、こうなったらしゃあないか。自分でボロ出してもうたんやし」
だいたいの意味はわかるけど、所々意味不明な単語と聞き慣れないアクセントが混ざってるんだけど。
ガリガリと頭を掻いた人は何かを吹っ切るかのように「ふぅ」と大きく息を吐いて顔を上げた。
「あんな?元々はボク関西の人間で、普段は西の言葉なんよ」
「え?……関西弁ってこと?」
「まあな。基本は奈良なんやけど、引っ越し多かったからいろんなところの言葉が混ざってて。東京に来たのを機に一所懸命標準語喋ろうって頑張っててんけど……………………けどアカン、しくじったわ」
一旦零れたら気が緩んだんだろう。ポロポロあとからあとから出てくる城島くん本来の?言葉。
たしかに誰かから関西の人だと聞いた気はする。だから俺らみたいに地元からは通えなくて高校の出席日数をもうクリアしてんのをいいことに合宿所の一室に居座ってるとも。
浮かんだ疑問を素直に口にする。
「なんで?別にそのまんまでいいんじゃないの?元々の言葉で」
一瞬目を見開いた城島くんは、けど笑った。
「やってそんな方言、誰も喋ってないやんココで」
「え、でも俺たまに埼玉の訛り出たりするよ?」
「あ、山口くんは埼玉なんや。けど、埼玉の言葉て言うたかてそんなん、わからんくらいのもんやん。やって今まで喋っててもまったく気ぃつかんかったしボク」
「そう?」
「それにアイドルを育てる事務所やろ?とりあえず、ここ。そんなとこで標準語もちゃんと喋られへんってのはもうそれだけでマイナス要素やん。田舎もんって舐められんのイヤやし。
漫才ブームくらいからこっちの人には『関西弁=お笑い』って図式が出来てもうてるから余計にな……そうやのうても周りみんな『だぜ』とか『じゃん』とか気取った言葉ばっかやのに。
やからこっち来てからずうっと一所懸命合わせてたんよ」
やのに。アカン、今までの努力が水の泡やん……ギターを抱えたままそう嘆く姿からはずっと気になってたよそよそしさが消えてる。それに気がついたら俺いつの間にかタメ口で喋ってるよ。
そっか、特段気にしたことなかったけど、たしかに今まで響きも語彙も標準語だったよね。あれは目一杯虚勢を張った姿だったんだ……なんだ、かわいいとこあるじゃん。
だから思いついたことをそのまんま提案してみる。
「じゃあさ、これからもみんなといる時には今まで通り標準語でいけば?関西弁が出そうになったらこっそり教えたげるし。で、俺と2人の時には元々の言葉で喋ればいいじゃん」
「ぇ?」
「そのほうが楽なんでしょ?どうせ俺はもうこれだけ話して本来の喋り方聞いて知ってるわけだし」
鳩が豆鉄砲をくらったような顔をしてちょっと間固まってた城島くんが何度か瞬きして「ほんまにええの?ありがとぉな、山口くん」とふわりと微笑んだ……その笑顔いいかも。
「ついでに、その『くん』もいらないから。俺のほうが年下なんだしさ」
「へ?」
「それからこの際だからついでに言わせてもらうんだけど、なんか苗字じゃない呼び方してもいいかな?『城島』ってなんだか発音しにくくって」
これは半分ホント、半分は言い訳。距離感を変えるならここで一気に、そう感じる本能に従う。
「……別にかまへんけど。
ジブン、そんなタイプやったん?なんか感じ違うわぁ、最初のあのスカした感はいったいどこいったんな。
まあ学年言うたかて一個しか変わらん言うてたし、別に敬語なんて必要あらへんけど」
「じゃあ遠慮なくこんな感じでいかせてもらうね、いいでしょ?
普段使い慣れてないから敬語使うのって肩凝るばっかだし、これから先ずっと一緒にやってこうってんなら堅苦しいまんまじゃしんどいでしょお互いに。
だから、俺のことはもういっそのこと苗字をすっ飛ばして『達也』呼びでもいいよ」
戸惑いを映した目が丸くなって、瞬き一つ後には弧を描くように細められた。クスクス笑いだす。
「了解。僕のことはそやな、『茂』やから『茂』でも『しげちゃん』でも好きなようにどうぞ。僕は……そやな、とりあえずしばらくは『山口』ってことで」
「えーっ?それじゃあ『くん』が取れただけじゃん!」
「この事務所の呼び方って基本『くん』づけやろ?それが染みついてもうてるからなあ、やから『くん』を外すだけでも結構なかなか大変なんよ。あとはまあ時とともに追々に、ってことで」
「仕方ないなあ。じゃあ俺は……たしかにいきなりそのシステムからあんまり外れんのはまずいのかな、まだ俺入ったばっかだし。んー、なら『茂くん』ってことでよろしく」
「何がよろしくなんかイマイチようわからんけど、まあええわ」
一旦口を閉じたじょうし……茂くんは抱えたままだったギターをそっと優しい手つきで脇に置き、こちらに体ごと向き直ったかと思うとすっと背筋を伸ばし俺の目を見据えた。吸い込まれそうなくらい真剣な光を宿す大きな目に見つめられる。
「さっきあんまりさらっと言うから思わずスルーしかけたくらいやったんやけどほんまにええの?ボクとこの先もやってくってことはこの事務所の主流から思いっきり外れて脇道にそれるってことやで?山口くんまだ入ったばっかりでピンと来てないんかもしれんから言うけど」
ボクは覚悟の上やけどな、そう言葉ではなく告げる瞳に揺らぎはない。さっき聞こえたやり取りを脳裏に描く。うん、ぶれてないね。だから笑って見返した。
「山口でいいって。別にいいよ、いっつも王道路線ばっかだとそれはそれで飽きるだろうし、たまには毛色の違ったのがいてもいいんじゃない?」
「こないだ男闘呼組さんがデビューしはったとこやから、たぶんしばらくはバンドデビュー自体もあらへん思うで?」
たしかにジャニーズ初の本格派ロックバンドというふれこみの男闘呼組がデビューしたのはこの8月のことだけど。つまりは何?ここから先の道のりは予想以上に険しいぞって?
「そんなのやってみなけりゃわからないでしょ。それに、そこまで予防線張らなくてもうまくいかないからって別に責めたりしないよ」
「いや、そうやなくて。ジブン、ダンスも得意で事務所入ってすぐにもうバックに抜擢されてるくらいやろ?事務所の人にも期待のルーキーて言われてたから。やから楽器よりそっちメインの方が道が拓けるんやないかと思って」
それでも敢えて茨の道を選んでくれるん?最後は言葉にせず問い掛けてくる目に頷いた。
立ち聞きはほめられたことじゃないし告げるつもりはないけど、さっき聞いた茂くんの言葉にこれから一緒に歩いてくって決意を固めたばっかなんだよ。意識してのことかはわからないけど『自分』じゃなく『自分達』って俺のことを数に入れてくれたアナタの隣を。
「決めたんだ。だから先輩のクリスマスコンのためってだけじゃなくちゃんとやってみようよ。考えるのはそれからでも遅くないでしょ。それに、王道にはそれなりの楽しみもあるだろうけど脇道でしか味わえない景色や喜びもきっとあるんじゃない?」
あいつも言ってたとおりまだギターとベース2人しかいない、芽がでるかどうかもわからないまったく未知数のバンド。むしろここがやっとスタート地点だ。
俺の言葉にじっと耳を傾けてた茂くんが口を開く。
「ありがとぉ。ほんならこれから末永ごう、よろしゅうに」
下げられた頭に慌ててこっちもぺこりと頭を下げたけど、そのうちになんだか可笑しくなってきて揃って吹き出す。
「なにやってんだろうね、狭い部屋で向かい合って」
「ほんまや。それに『末永ごう』ってなんにも考えんと言うたけど、別に嫁に行くわけでもないのに大げさすぎるわな。けどな、それくらい、ほんまにうれしかってん。ありがとぉ山口く……もとい、山口」
こうして俺らは一緒にやっていくことになった。
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これが現時点への縁(えにし)への一歩目だとはお互い知る由もない二人。
当サイト的、TOKIOの一歩目。お読み頂きありがとうございました。
そして、JさんHappy 43st birthday!
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【J+K+M+N+Y=T the present time M】
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