進化形進行形
【N 】
山口くんの言葉に考え込む。俺もちょっとでも進化できてんのかな。
***
俺はただ歌うことしかできないから。
事務所に入ってみんなに出会った頃、メンバーみんなもうすでにデビューした先輩グループのバックについたりバンドで演奏する以外にもそれぞれがそれぞれにドラマやバラエティに出たりJrとして活躍してて、俺にとっては遠い、憧れの存在だった。
普段は気のいい優しい兄ちゃん達でよく俺をからかって遊んだりしてるけど、ダンスでもバンドでもいざココってとこはびしっと決める、それがすごい格好良く見えた。
だからそんな人たちが作る『TOKIO』のボーカルとして俺が決まったって、ヒロムくんが別の夢を追いかけて抜けるかわりに俺が加わってバンド形式、5人でデビューだってはじめて聞かされた時の衝撃。
そりゃあしばらく前からサポートとかで結構参加させてもらってはいたけど……それとこれとは違うでしょ。いきなりポンと『明日っからセンターポジション、お前がボーカルだよ』って言われたって……素直に喜べやしない。だって今までだってずっとちゃんと歌ってたじゃん、みんな。
だから突然の指名にもデビューできるって嬉しさより、むしろ戸惑いや怖さの方が先に立った。
よく俺は天然だ、考えなしだと言われるけど、その時まだ15、中学出たてのガキな俺がフロントに立ってその『ずっと憧れてた』先輩達をバックに従えるって形でしょ?
みんなは優しかったし、それはデビューが決まる前も後もずっと変わらない優しさだけど、その分余計に感じる怖さも半端じゃなく。
人形みたいにただ突っ立ってるだけのボーカル、ビジュアルだけのフロントマン…聞きたくなくてもそんな言葉は耳に入る。
聞こえるたびに浮かぶ、訊きたかった、でも訊けずにずっと飲み込んでる言葉。
『ほんとに…ほんとに俺で良かったの?俺でいいの?』
でも、振り向いたらいつもみんなが笑っててくれるから訊けないし訊かない。
譜面に目を落とす。ちょこちょこ書かれている書き込みはほぼメンバーの字。茂くん得意のキャラクターの落書きが俺を応援してて、それを見ると笑顔になる。
だからただ俺はひたすら歌おう、そう思った。俺にはそれしかできないから。
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【Y】
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