進化形進行形
【K 】
普段、弱い面を見せない山口くんの無意識だろうつぶやきにあの頃の記憶が甦ってきた。
***
俺には基礎がないから。
山口くんが城島くんとバンドをやってるってはじめて知った頃、そんなに昔から一緒にやってる訳じゃないはずなのにふたりがアイコンタクトしながら演奏してるその姿は息が合っていてカッコ良く様になって見えた。
もともと年も近く家の方向も似ててレッスンに待ち合わせて行ったりしてる山口くんもベースを抱いて城島くんの隣にいる時は俺が知ってるのとはなんだかまったく違う人みたいだ。
いいなぁ。
親と喧嘩し高校生活を蹴ってまで選んだこの道。事務所にもそこそこ慣れてそれなりに楽しく日々を送ってはいるけど、目標も具体的に見えて来ず(デビューって単語はきらきら眩しく光って見えるけど近いようで遠い)日々を過ごしてた俺には肩を並べ歩くふたりがなんだか柔らかなバリアに包まれているように見えて、あの輪の中に入れたら、そう思った。
……けど『いざ』となってみると。
俺もベースをちょこっとかじったりしてたけど、もうすでにバンドのギタリストとベーシストは不動のワンペアで最初っから存在してて、さらにはいつの間にか加わってたすきっ歯の賑やかで小生意気なドラマー見習いも修行中で。
俺がその空気の中に混ざるには未知の楽器にトライするしか術はない。
キーボード。
鍵盤自体小学校時代に『猫ふんじゃった』がクラスで流行った時以外触ったこともない、何もかも初めてのそれ。ドの音の位置くらいはわかるけど、そんなレベルのど素人だから先生についてまったくの基礎の基礎から。少しずつ楽しさもわかってきたけど思うように動かない指に凹むことも多い。始めると決めたのは自分だろ?!すぐにへこたれる自分に喝。
みんなの足を引っ張りたくない、もっともっと上手くなるんだ。
ただそれだけを願いながら俺は譜面にまた目を落とした。
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【M】
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