進化形進行形
【 J 】
「進化、か……俺、『あの頃』からちょっとでも進化できてんのかな」
山口から無意識に零れた言葉が胸に響いた。
***
ちょっとでも前を見つめ、ずっと走り続けるって決めたから。
「あかんなあ、めっちゃ練習してるつもりやねんけど、全然あかん…」
頭の中でずっと鳴っている音のイメージと現実のギャップにため息をつきながら鈍い痛みを感じる指先に右手でそっと触れる。もっと上を、と焦れる気持ちにテクニックが追いつかない現実。足掻いても足掻いてもなかなか思うようにはいかずため息。
昼下がり、皆出払って人の気配の薄い合宿所のだだっ広いリビング。誰もいないから西の言葉を取り繕う必要もない。
こういう時に限っていつもだいたい隣にいるベースのあいつは別仕事、ドラマーはまだ学校だしキーボードは取材だとかで姿を見せないから気分の切り替えようもない。
はぁ……。思わずまた。集中力が切れてしまったこんな日は練習を一旦切り上げた方がいいのかもしれない。
その時聞こえて来た複数の軽い足音、そしてドアの開く音とともにうつむいていた背中にいきなり加わった衝撃。
何や?誰や?!
「茂くんこんにちは〜!ね、またギター教えてね?」
「ぇ?ああ…」
戸惑う僕が答える間もなく先を行く友達の背を追い通り過ぎていったのは、太陽な笑顔、キラキラな目、キリリとした目鼻立ち、つながり眉毛がチャームポイントなボーイソプラノのあの子。
なにが気に入られたのかまったく見当もつかないけどなんだかえらく懐いてくれてる。一応先生役。
この間教えたとき、まだ小学生だというわりに大きな手が初心者の鬼門Fのバレーコードに四苦八苦しながらぎこちなくコードを押さえるのをたぶんこの子は大きくなるんやろうなぁ、とぼんやりと眺めた。
ギターに触るのが、練習するのが楽しくてたまらん、て言葉にはしなくても顔に書いてある。
まっさらなスポンジが水を吸い込むみたいにどんどん吸収してく、上手くなってく。
……『師匠』としてはこのまんまじゃあかんよな。
「あかん、あっという間に追い抜かれそうで洒落にならんわ」
前のめり、抱いたままだったギターを抱え直し脳裏で鳴る音をもう一度追いかけることに集中した。
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【K】
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