- yoru wo hukitobase -
なんだかほぼ毎月曲をリリースしてる気がして去年との落差を感じる今日この頃。
ライブに向けての会議の後、いつになく真剣な表情をしたあの人を見掛けた。タバコを
スパスパすごい勢いでふかして難しい顔で一人きり。なにやら机上の譜面に目を落とし
鉛筆で書き込みながら眉間に皺を寄せてる。
次の移動まで余裕のあった俺はリーダーがなにをしてるのか気になってそーっと背後に
回りその譜面を覗きこんだ。
…あ、これ。
「何やってんの?リーダー」
「へ?…あ、太一」
俺の気配に気付いてなかったのかマジでびっくりした顔。俺ってそんな存在感ない?
「あ、太一…じゃねえよ。何やってんのさ」
隣のイスを引いてどかっと座る。
「んー?ひみつ」
ひみつ…だとぉ?のんきな口調…………………………なめてんじゃねぇぞこのジジイ。
俺は山口くんでも松岡でもないから小首を傾げて見たってなんの効果も生じねぇよ。
眉間に思い切り皺を刻んだ俺を見てちいさく肩をすくめたリーダーは『仕方ない』と言
う風に口を開いた。
「ちょうど時間あるからちょっとな」
「一人検討会?」
「…まあな」
入り込んでた訳ね。だから気付かなかったのか、いつもながらすごい集中力に心の中、
舌を巻く。もちろん気取らせたりはしないけど。
「…なぁ、譜面もろて太一も音入れしたやん、この曲。何感じた?…やられた、そう思
わんかった?」
譜面に視線を落としたリーダーの言葉がストレートに切り込んでくる…やっぱりどっか
似た感覚を持ってるらしい。
繕う場面じゃないから感じてるままを言葉に乗せる。
「うん。ていうかなんだかすげえ口惜しかった。なんでなんてわかんないけど」
鞄から自分の譜面を取りだす。
「口惜しない?……………ここの譜割りとか」
「やっぱ、リーダーも思ったんだ?」
「…ということは太一も、やねんな」
指先が譜面をなぞってゆく。リズムを刻む。
「曲調とかリズム、それに歌詞…今の俺らに宛てて書いてくれてんだから当然なのかも
しんないけど…なんか俺らの道を先取りされた、そんな感じ?」
新譜をもらった時はいつだって『へぇ、こんなふうに入るんだ』『うーん、こっちじゃ
なくそっちに転調するか』そんな感じで刺激受けまくりだけど『これをどうやって俺ら
のモノにしていこう』…そういう方向に刺激を受ける曲と、行儀悪い事この上ないけど
内心『…やられた!』って衝撃を感じる曲があってこの曲は間違いなく後者…って言う
か。この曲に音入れしてる間ずっとなんだか言いようのないもやもやと戦ってた。
俺の答えに頷きながらリーダーは言葉を重ねる。
「今の僕らやからちゃんと歌えるやろう…そんなおしゃれなコード進行、太一の鍵盤の
立たせ方、それに長瀬の声域の一番なめらかなところを存分に生かした曲調。なんや、 頭ガツンと殴られたみたいやってん」
やけに真っ直ぐな物言い…それはリーダーの感じた衝撃の証し?
「そっか…でも、やっぱり太一もおんなじようなインパクト受けてたんやね」
どこかホッとしたような表情……なんでだろ、俺も心のどっかで安堵してる。
スタッフが気をきかせて置いて行ってってくれたお茶をすすりながらしばし無言。
「どっちか言うたら太一と僕で作りたかったなあ、この曲…って。そない思わへん?」
余程この曲が気に入ったらしい、この人がこんなに俺に語るなんて。まぁ、文句なし満
場一致で選んだ曲だけどね、珍しい事に。
……ん?
頭の中、リーダーの言葉がグルグル回る。『太一と僕で』『太一と僕で』『太一と僕で』『太一と僕で』 …………………………………そうか。
何だかモヤが晴れた気分…………そういうことだったんだ。
『腑に落ちた』感に目を見開いてる俺に対峙してリーダーは吸い殻をギュ、と目の前の
灰皿に押し付け、体ごと捻ってこっちを向いた。
「なぁ、太一」
そんなところで言葉を切るなよ!改まって、なんなのさ。
「1曲、記念に作らせてもらいました…僕らが望むんはそこやないやろ?」
「!」
ニヤリ、そう表すしかない笑みをたたえた強気な目が俺の目を覗き込んでる…その顔を
茶の間ののほほんリーダーファンに見せてやりたいよ。
ホント、食えない人だよね、あんた。
「無論。もちろん。当たり前じゃん」
だから、思いっきり目に力を込めて見返してやった。
「コンスタントに俺らのうち誰かの作品でシングル、でしょ。目標は」
俺の言葉と表情に満足したのか、リーダーは目許を緩める。
「1回きりやったら『まぐれ』とかでもありえるやろ?穿った考え方したら『話題性』
の一言で括られる可能性もあるし。けど、2作目3作目ってそれが普通になってったら
…世間の目も変わってくるかも知れんやん?その為には日々勉強、よ…ってことや」
そう言いながら譜面をギターのリズムで動く右手。
何格好つけてんの。
……で、これが今日の教材な訳?
アルバムにはメンバー曲を何曲か(俺か長瀬かリーダーの場合が多いけど)は入れる…
……これは、はじめてセルフプロデュースさせてもらった前の会社のアルバム以来の俺
達のポリシーでファンの子にはその意気込みはそれなりに認識して貰えてる、と思う。
けど、やっぱり世間一般の俺等を見る目は『バラエティタレントの俺等』がベースだか
ら。『いつかメンバー曲でシングルを!』は口には出さずとも俺等の念願だった…それ
が。去年は番組の企画で1曲、タイアップで1曲実現できたんだ……俺のじゃない、っ
てのが癪だけど。
今でもタイアップの方はメディアから結構流れてるし、みんなちょっとした達成感を感
じてた…………でも、あんたはもうすでに『その先』を見据えてるんだ。
「また遊ぼぉな〜〜太一」
のほほんと放つセリフがどれだけ俺を煽るか、その効果すら織り込み済みで。
ほんとに、あんたって人は…………。
「あぁ」
あんな楽しい遊び滅多にない。異種格闘技戦さながらのスリルとサスペンス…脊髄を駆
け抜ける興奮。極上の時間…だって相手はコンピュータじゃなく臨機応変、千変万化、
とにかく一筋縄じゃあいかないこの人だし。
気がつけばさっきからマネが時計を気にしながらこっちを見てる。リーダーのマネも。
話の腰を折るのは憚られたらしい。
そろそろ時間切れ、ですか。
「タイムリミット、だね」
「しゃあないわなぁ」
おまんまの種やからねぇ…そんなことを呟きながら立ち上がるリーダー。なんか脱力す
るんだけど、この人のセリフ。
「まぁ、いっぱい働いてこそライブが楽しめるんだから」
「『仕事の後のビールはうまい!』とおんなじかぁ。頑張ろっかぁーもうちょっと」
俺の方のが時間的におしてたらしい。マネにせかされながら小走りに移動する俺に背後
から声がかかる。
「とりあえず、ライブまでに10曲な〜〜」
じゅ、10曲っ?
振り返ればいつもの笑顔と両手を出して『10』を表してるつもりなんだろう両手。
でも、目は真剣な光をたたえてる。
こと音楽面に関しては妥協しない人だから俺に『10曲』と言ったからにはあの人も作
るんだろう。
俺はエレベーターに乗り込みながらOKの代わりに親指を立てて見せた。
負けねぇからな!
end.
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開設1周年記念企画第2弾!……ぶっちゃけると、ほんとは4人分考えるつもりだった
んですが時間切れ;;
もっと早くから準備しておけよ<セルフツッコミ。
『夜を吹き飛ばせ』が題材です……この曲を作ったのがあのふたりだったらブラボーと
拍手するのに、という私の妄想をそのまま映した産物。
このふたりだと、どうしても音楽ネタで書きたくなるんですよねー。
難しさもその度に痛感しますが。
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