-焼肉事変-



『こんばんは、例の店にいます。情報サンクスでした、めっちゃ美味しいっす。さすが…』

そこまでメールを打った時後ろから伸びてきた腕に抱き込まれて僕は驚いて振り返った。

 

「長瀬」

 

そこにはご機嫌でニカニカ大きく笑ううちの最年少。

結構飲んでるなあ、お前も。

見回すとすでにいつものように絶好調で説教モードに突入しているど真ん中とその正面に
今日のターゲットに定められたらしいあきらめ顔のドラマー。

その横で自分に火の粉がかかるはずがないと思うからかそれに茶々を入れながら相変わら
ずのペースでグラスを傾けてるベーシスト。

確かにシャンパンで乾杯してからもう結構経つ。生放送のベストアーティストの仕事終わ
り移動してだから疲れもあるのかなんだかみんなハイペース、ハイテンションだし。

 

「なにしてるんすかぁ?」

 

ニカっと陽気な問いかけに口を開く。

 

「ぁ?ああ…みんな結構ここに満足してくれてるみたいやし、結局この店がええんちゃう?
て教えてくれた主にありがとう、てメール打っとこ思って」

「「「「誰に?」」」」

 

長瀬以外の声にびっくりして顔を上げたら残り三人が揃ってこっちを見てた…いったいいつ
から聞いてたん?みんな。

 

 

「シゲが探して来たって割にはオシャレだしそこそこの予算でうまいなとはたしかに思った
けどさぁ」

 

俺の懐のことも考えてくれてんのかな、なんて思ったのになんてぶすくれ顔…うまかったん
やろ?ならええやん、なんでそう言いながら睨むんな、ぐっさん。

 

「なんだ、やっぱりネタ元がいんの?あーあ、感心して損した。タヒチに書いちゃったのに」

 

そのくっきり刻まれた眉間の縦皺は…なんなん?太一。

 

「焼肉屋なのにシャンパンで乾杯って辺りはリィダァぽかったけどね…まさかそれも入れ
知恵だとか言わないよね?」

 

なんでそんなんまでレクチャーされなあかんねんな…なんでや?これ以上ないってくらい口
アヒルになってんで松岡。

 

あきらかにどんよりした場の空気、なんだか不機嫌なみんなの表情と話の風向きにどう答え
たら丸く収まるか頭をめぐらしてたところに着信音。

画面を確認すると発信者は…今話題の主。

一瞬躊躇したけどこうなったらラインの向こうの相手にもこの雰囲気を共有して貰おう。

 

「もしもしtetsuさん?お疲れさまです…そろそろそっちおひらきっすか?うちもです
…あ、結局この店にして当たりでした、下見付き合うてもろた甲斐ありましたわ、やっぱりさすが
ですね…お礼に今 度またおごらせてもらいますから何にするか考えといて下さい」

 

この雰囲気から逃げるように一気にそこまで喋ったあたりで気付く。

もしかしてここでこの選択は僕のミスか?

tetsuさん、って呼びかけたあたりからみんなの空気がなんだかさらにどんより度を増
しておどろおどろしくなったような…気のせいやとええけど。

しかし、これじゃあ丸く収めるどころか下手すると薮蛇?

 

メンバーはインタビューやコメントなんかでなにかにつけて僕を話の引き合いに出しては嬉々
として話のオチに使う…その割に他の人間が同じようにいじったり僕をオチにしたりするのには
どうしてだかものすごく敏感で。

そんな時には僕が反応するより前、へこむ間もないくらいのスピードで切り返したりさらに上
にコメントをかぶせたりする…どうやら他人にいじられっぱなしは性に合わないらしい。

そしてそんな時に発揮されるチームワークはそりゃあもう鮮やかなもので。

 

けど、今話してんのは僕の仕事仲間で友達なtetsuさんなんやしそんな警戒せんでも…。

 

やっぱりアルコールが回ってるのかぼーっと聞こえる声に耳を傾けてるうちに話は飛んでて。

 

「ぇ?二次会?

合流してこれから幹事お疲れさま会、すか?…」

 

明日そんな早ないしかまへんけど新婚の奥さんほったらかしといて大丈夫なんかいな……そんな
こと考えてたら横から伸びてきた手に携帯を奪われた。

 

ぇ?

 

「ちょっと電話代わらせてもらいました、松岡です。今日は共演させていただいて楽しかった
です。それにいつもうちの城島がお世話になりまして…」

 

え、なんで…返してえな話の途中やったのに、とか思うけどいくら伸ばしても僕の手は空を切る。

それどころか僕と松岡の間に太一とぐっさんが割り込むみたいに移動してきた、まるで僕とラ
インの向こうのtetsuさんの間に立ちふさがるように。

なんやねんな…。

 

「ええ、肝心の城島なんですけどね、これが幹事のくせしてなんだかもうかなりの酔っ払いで
…ええ、もう年ですかね〜年々酒弱くなってきてて」

 

そんなに酔っ払ってへんわ!そう言おうとしたら太一にぎろり睨まれた。

 

「ええ、だからたぶんこれからさらに移動して合流、なんてことになったら絶対tetsu
さんの手に余ると思うんですよね…」

 

ぐっさんは努めて表情を消そうとしてるんやろう…けど。

 

そして…。

 

「余所さまにそこまでしていただくわけには……ぇ?俺らっすか?大丈夫です、俺らみんな
この人の扱いには慣れてますから。

また今度放送日にでも構ってやってください…はい、じゃあ失礼します」

 

松岡が話は終わった、って顔で僕に返してよこす。

 

「あ、もしもしtetsuさん?すんません、やっぱり今日は…」

 

そう言いかけた時後ろからの力が強くなった。そんなしがみつかんでもみんなの言いたいこ
とはわかったから、長瀬。

 

「ええ、やっぱり幹事が一ぬけすんのもあかんやろしまた今度…ぇ?ちゃいますよ、そんな
んやありませんけどね…じゃあ失礼します」

 

終話ボタンを押して僕は首に回ったまんまの長瀬の腕をポンポンと叩いてその髪を撫でた。

 

「そろそろここおひらきにしてどっか移動しよか…どこがええ?長瀬」

 

情けないくらい歪んでた顔から眉間の皺が消え長瀬が『まぼ飯〜!!』と叫んだと同時に
僕に後ろからくっついたまんまの長瀬の腹がぐう〜と鳴った。そりゃあもう計ったかのようなタイミングで。

思わず顔を見合わせて吹き出してしまった僕らは目に涙が浮かぶまで笑い続けた。

横で「安心したらまた腹減りましたぁ」なんて情けない顔で腹をさする長瀬。

「しゃあねぇなぁ、うち来いよ」そんな一言で二次会は松岡のうちに決定。

「あれだけ食って飲んで挙げ句に腹鳴らされちゃあなぁ…やっぱり一番の貧乏くじは俺だ
よな」

なんてぶつぶつ言いながら会計に向かう山口に「後出しで負けたんだったよね山口くん」
「そうそう、めったにいないよ後出しで負けるやつ」なんて松岡と太一が傷口に塩を塗り込んでる。

僕はのんびり後に続きながらtetsuさんに最後にしみじみ言われた『愛されてるんやねぇ』
なんて言葉を反芻してた。

たぶんそんなんやないと思う、けど…久々『5人が5人でいるのに何の制約もない時間』
をもうしばらく堪能しよう、これからのタイトなスケジュールを乗り切るためにも。

それがみんなが望むこれからの時間の使い方…そう思うとくすぐったくて笑う。

 

そしてみんなが手招いてるドアに向かって歩き出した。

 


                                           end.

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