-GO-ON-









「しげな、ぜったいぜーったい『ごーん』まで起きてまってんねん!」

あわただしく暮れていこうとする年の瀬の最後の一日の朝しげがこう宣言したのは朝食
の時だった。
年代物で広いこの家の掃除の分担と買い出しと………そのどれをしげに手伝わせるか、
で無言の駆け引きの最中だった俺達は一様に声の主を振り返った。

「茂くん『ごーん』ってなんです?」


「『ごーん』は『ごーん』やん!?」

当たり前のように答えるしげはなんでわからへんの?そう言いたげだ。『ごーん』?
なんかの擬音だよな…ぁ。

「長瀬長瀬、鐘だよ、多分『除夜の鐘』」
「あ、そっかーそういえば聞こえますよね」
「でもなんでそんなのが聞きたいの」
「それきいて『ぼんのー』ゆうのんなくした方がええんやろ?こないだおひるテレビで
やってたやん」

「…あーやってたね。まったく妙なとこだけ記憶いいんだから。じゃあ『煩悩』の意味
もちゃんと覚えてんだろうね?」
「…知らん!」

胸を張って答えるしげに笑いを誘われる。しかし飯食いながら何見てんだよ、ふたりし
て…。

「ふーん除夜の鐘かぁ…でも絶対無理だと思うなぁ」
「なんで?なんでーな太一ぃ」
「だって茂くんいっつも9時頃にはもう『おねむ』じゃん」
「だ、だいじょうぶや!今日はしげ、がんばんもん!!」

むきになってしげが反論してる。
たしかに12時は難しいかもな………けど。

「ガキだった頃って大晦日だけは遅くまで起きてても大目に見てもらえなかったか?」

俺ん家はこの日だけは夜更かし解禁だったからなんだか楽しみだったわ大晦日。

「元旦はちょっとぐらい寝坊してもOKだったし」
「いつもなら『早く寝なさい!』って口うるさいおふくろも大晦日だけは何も言わなか
ったな、そういえば」
「ぇっ、いいなぁ。俺ん家は言って見てもだめだったっすよ?」
「それはそこまで起きてたらお前が元日の昼くらいまでどうやっても起きないからじゃ
ねぇ?」
「ひどいなあ太一くん」

新しい年に変わる瞬間、ってのを味わってみたくて頑張ったのに結局寝ちゃってくやし
かったな…頭をそんな記憶がよぎっていく。

「しげ、ほんとに起きてられるか?」
「うんっ!」

あまりに満面な笑みに苦笑。まあ寝ちまってもどうにかなるか。

「じゃあ頑張って見な?今日だけ夜更かしOKにするから」
「やったぁー!」

『大甘…』と顔に書いて太一がこっちをちらりと見たけど、喜んで万歳してるしげに何
も言えないみたいだ。

「茂くんじゃあ今日は一緒に夜更かししましょうね!」

何見ます?歌っすか?紅白?それとも…。

「格闘技に決まってんだろ!断然!!」

太一が燃えている。

「太一くん興奮するとリビングがプロレス会場になるからなぁ」

おせち詰めてる横でどったんばったんやらないでくれるといいんだけど…聞こえないよ
う小声で呟く松岡の顔はちょっと憂鬱そうだ。

「大丈夫、おせちは死守してやるよ、俺と長瀬で」
「それもちょっと怖いけどね…『守ってやったんだから分け前よこせ』とか言わないで
ね、結局は量が減るんだからさ」

俺らがやりあってる間にリビングのテレビのチャンネル権は大小お子様コンビが勝ち取
ったらしかった…珍しい。

「なら、しげは今日は松岡の手伝い。買い出しとか忙しいからお昼まで頑張って……そ
いでからいっぱい『お昼寝』」
「えーっ?!なんでぇしげ眠うなんかないでぇー?」

「『お昼寝』しとかないと24時までなんて絶対無理だって。起きとくんでしょ?
『ごーん』聞くんだよね?」
「う、うん…」
「なら決まり。な?」
「わかったわ」

しげが頷く。

「じゃあ分担はさっきの打ち合わせ通りって事で」

最後の一日が始まった。





+ + + + + + + + + + + + +



「あーあ…」
「爆睡だね。くたんくたん」
「手も足もぬくぬくだし」
「明日拗ねるんだろうね。『年越しーって』」

現在時刻は23:54。

ついさっきまで超ハイテンションでリビングの俺らと台所の松岡の所を行き来してたの
に気付いたらしげは俺の膝でぐっすり眠ってた。おとなしくなったなあと覗き込んだ時
にはすでに夢の中……どうやら電池切れらしい。

「でも念願の『ごーん』は聞けたから」

23時過ぎから聞こえだした除夜の鐘。意識した事なかったけどそんなに遠くない所に
寺があるらしい。

「ごーん!や、ごーん!…なむなむ、なくなりますように…『ぼんのー』…?」

目を輝かせてはしゃぐしげの声に手を止め表に出たら音と一緒に体にも波動が来てびっ
くりした。

「すげぇ」
「迫力ー」
「センサラウンドすね」

画面からはこの迫力は伝わらない。体が冷えるからといくら言ってもしばらくしげは家
に入ろうとはしなかった。




ポーン


「あ」
「明けたね」
「2006年すね」
「だな」

画面ではカウントダウンしてたアイドル達が口々に新年の挨拶を叫んでる。

「「「「…おめでと」」」」」

ぐっすり眠るしげを起こさないようにそっと声をかける。

「「「「あ」」」」


俺らの声が聞こえたのか、眠ったまんましげがこの上なく幸せそうに笑った。

                            end.




*********

新年スタートにあたってうかんだのはやっぱりちびシゲでした。
こんなサイトですが本年もよろしくお願い致します〜。



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