『ゆめのあと、ゆめのさき』
「…やっぱりここにいた」
後ろからかかる声。
同時に、いつもなら力強い腕が今に限って羽根のような軽さで後ろから僕の肩を包み込んだ。
「………終わってまうんやなぁ」
「…………………………………そだね」
いきなり、な僕の言葉に驚いた様子もなく返されるちいさないらえ。
ライブツアーも後半。公演回数も残すところもう一桁になってしまった。
「いっつも前半二日目、の解体はこうやってみてるよね」
「気ぃついてたん?」
とりあえず聞いてはみたけれど、驚きはしなかった。
辛辣なキーボーダーも饒舌なタイコ叩きも真っ直ぐな歌唄いもきっと知っている。
知りながら見逃してくれているのだろうとそう思っていたから。
「知らいでか…って、ね」
わざとおどけたふうに耳元に囁かれる言葉はけれどひっそりひそめられて静けさを
壊すことはない。空気を読むのが上手な彼に感謝しながら僕は、包み込まれたこと
で寒さにはじめて気がついて背後からの体温にすこしだけ体を預けた。
僕らのライブは2回東京に帰ってくる。東京4Days、ではなく2日×2の4回公演。
さっきいわゆる『武道館前半』の二日目が終わったところ。
見下ろす先には一時間前にはメンバーが駆け回っていた舞台を慌ただしく、でも手際
よく解体していってくれている裏方のスタッフの姿。
「なんでいつもこんな場所からみてんの?」
アリーナ席の撤収もすでに終わり客電の落ちた二階の客席通路。
「なにを」でなく「なぜ」「ここから」を聞く彼のもう片方の手が僕の手を戯れに
つつきに来た。
「ゎ、冷た………あなた末端冷え性っていっても『限度』ってもんがあるでしょ?
こうなんのわかってんじゃん」
「やって…」
もう、自分の体もうちょっと労ってやったら……ブツブツ言いながら彼はポケット
から缶を取りだした。僕の好きなミルクティ。そしてそれを僕の手に握らせ、外に
自分の手を重ねてサンドイッチにしながら擦ってくれる温かい掌。彼の…せっかく なんだからしっかり舞台みてなよと言ってくれる言葉に顔を戻す。
「スタッフの邪魔はしたくないやん。そう考えたら上やったらここが一番舞台が正面
に見えるもん。楽日に見んのはちょっと精神的にキツイしやぁ」
缶からの温もりと掌から伝わる体温に息をつく。それと同時にいつもは言わない言葉
をたまには口にしてみようと思った………………こんな時こそたまにはシラフで。
「なぁ、お前は終わってまう寂しさってどうやって消化してるん?」
感情の起伏が激しそうに見えて実は温厚なこいつは僕にさえ綻びをあまり見せようと
しない。僕がこうやって『夢の跡』を目にすることで『区切り』を認識する儀式を
必要とするように、太一が『ライブもあとわずか』とことさら口にして自分に言い
聞かせているようには。そんな事をぼんやり考えながらなくなっていく僕らの舞台
装置を眺めていた僕の耳に届いた声。
「俺は『終わり』、をあんまりマイナスに考えない、それは知ってるでしょ?
『おわる』から『はじまる』と思ってるから……だから『さびしさ』よりも次になに
ができるかっていう『わくわく』の方が強いな今は………TOKIOが『おわる』ってん
なら話は別だけど」
「ぇっ…やまぐち?!」
その言葉の意味にビックリして振り向こうとした僕を許さずに今まで僕の手を握って
いた手が今度はいつも以上の力で肩を抱いた……まるで拘束するかのように。
「ホントはさ事務所の路線変更・方針変更とかで俺たちが永久に『TOKIOでいたい』 って言っても難しい、そういう『現実』も頭の隅にでも置いとかなきゃ…なんだよ。 けどさ、いっつも『おわり』を頭のどこかに…なんて俺の柄じゃないし、第一もし そういう事態になったとして『はい、わかりました』なんてしおらしく言ってやる 義理もないしそんなの俺たちじゃない。わざわざ意思確認なんてしなくても、5人 が5人でいられる『次』を探すだけだろ?なら……TOKIOをおわらせないんなら、 俺は前だけ向いていられるんだよ」
『いち抜けた』なんていったら許さないからね。そう茶化して告げる彼の言の葉には
誤魔化さない希求の響き。
「そうか…………「こわす」ことでつぎを「つくる」んや……………………………
…………………………………………………………………………おまえらしいな」
自然と浮かんだ苦笑は、でも僕のこころを軽くしてくれた。モノをつくることも
得意なその手は今は僕をしっかり支えてくれている。
「人にはそれぞれ『やり方』ってもんがあるから、太一には太一の、松岡には松岡の、
長瀬にもきっと長瀬の『儀式』っていうか『区切り』があんだろうね。だからあなた
の納得の仕方、を否定するつもりはないよ」
だから気が済むまでどーぞ。ただ、これで風邪引かせたりなんかしたらアイツらうる
せぇからさ、全くもう人使い荒いんだからあいつら…そう続ける山口。
『こころゆくまでどうぞごゆっくり』
そう言ってくれる彼の言葉に甘えてもうちょっとだけ舞台が『消えていく』過程を見 ておこう。
そうすればたとえ切替えの遅い僕でもきっとつぎに『うまれる』所もイメージできる だろうから。
あとすこしだけ。
なにも言わずにいてくれる温もりを傍らに。
end.
自分のライブ日程がおわっちゃって淋しいなぁ…と思ったときに観客の私がこんなに 淋しいんだからメンバーの淋しさはいかばかりか、と思っていたら出来たお話です。
『ハレ』と『ケ』って考え方があって、(今でも『晴れ着』とか『晴れの日に』って
使いますよね?)ライブで弾ける『ハレ』の日のために『ケ』つまりごくごくフツー
の日常を地道に頑張ろうと思うんですが(ものすごく強引な解釈です、すんません)
それでも淋しいモンは淋しいです。
山口さんはたまに『一歩引いて冷静に物事見てるなぁ』と思うときがあるのでこんな
感じにしてみました。
ライブ終わりの管理人の淋しさを反映してやや暗めのお話になってしまいすみません。
拍手等で一言でも感想を頂けると嬉しいです。
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