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『VALE-TUDO』 レコーディングも詰めに掛かったある日。 早めに入ってドラムの感触を確かめようとしていたオレはスタジオへ通じる調整室を 横切ろうとして動けなくなった。 「ん?」 スタジオから今まで浴びた事のない気配……妖気みたいなモンをを感じる。 恐る恐るガラスを覗いてオレは固まった。 「怖ぇーーーー」 オレが目にしたのは…部屋の機材を挟んで対峙しているリィダァと太一くん。 …………………が単体オフモードでいる時とは正反対な空気を纏っている姿だった。 太一くんが『ここ』と指さすように譜面を渡す、リィダァが膝に抱えたギターを弾い て確かめる。 今度はリィダァ。別の所に引っ掛かってるみたいなんだけど太一くんの意見は違うら しい、キーボードで何度も繰り返しながら鼻の頭に皺寄せてる。 スタジオで防音はばっちりだからガラスの向こうの光景はまるで無声映画のようで。 モニタリングスイッチを入れる事も忘れてオレは声もなくガラス越しの光景に見入っ ていた。 何やってんの?わぁ…聞こえた声に目を向けてみればびっくり顔でガラスの向こうを 見てる弟分。さすがにこの雰囲気に入って行くのはこいつでもためらわれるのか中 にいんのは大好きなふたりなのに足は止めたまま。 ん?なんだ? 「なにかなぁ…どこが違うんだろ」 「?なんだよ」 懸命に頭をひねっている長瀬。 「んーなんだかオレが太一くんと曲作った時と違うなーと思って」 「…そーいやオレがリィダァに曲もらった時とも違ぇな」 オレの場合やらせてもらったのはアレンジだからまた違うのかもしれないけど…こん なバトルチックじゃなかった。 こないだ聞かせてもらった曲の詰めなんだってのは一目瞭然。VALE-TUDOっ てキーワードがハマッてから俄然動き出した感じの曲は『なんでもあり』ってのを体 現するものになるらしい。 「ぉ、やってんな」 この声は兄ィ。いつの間に。 「ぉーぶつかってる、ぶつかってる」 声が笑ってる…けど、ここ笑うとこか? ブース内な無音のふたりは互いの音にだけ耳をすませ一言も言葉を交わさない。 (気になるならモニタリングスイッチを押せって話なんだけど) 「ほんと『音楽馬鹿2匹』って感じだよな、タイプの似た」 「…似てます?太一くんとリーダー」 頭に疑問符を浮かべた長瀬。 オレもすぐには頷けねぇ…だから兄ィのつづきを待つ。 「だって似てね?あの意地っ張り度合い、とか。音に関しても詞に関しても一番譲ら ねえのはあのふたりじゃん」 どっちも真似出来ない感性で仕上げるあたりはさすがって感じだけどな。 そう言って笑う兄ィ。 「そーいやそうか」 「さすがぐっさん」 「この間オレ…っと長瀬もか、太一と曲作っただろ?あの時こんな感じだったか?」 無言で振られる首。それを確認して兄ィが続ける。 「だよな…前に茂から『BABY BLUE』もらった時ともやっぱり違う」 「…そぉっすね」 どこかさびしげな長瀬の同意。 たしかに。 「鍵盤で作るか弦で作るかってのは結構大きいけど、それ以上に『あのふたり』って のが大きいんだよな多分この場合。遠慮なく手加減せずやりあえるモン同士……ライ バル、そんな感じ?だから言えんのはふたりが互いに『負けず嫌い』を発揮する度ご とに曲は進化してってるってことか」 むっちゃわくわくすんでぇ、どんな化学反応がおこるか楽しみにしててやー…って言 ってたぜ茂、そう笑う兄ィ。 どーしてそんなナチュラルにリィダァそのまんまのイントネーション再現できんだよ ……………………………………………………………。 また向かい合って音を合わせてるふたりを見ながら口を開く。 「しっかしすげぇ集中力だね。オレ達みんな揃ってんのに気付かねぇなんて」 「まぁな。でも、入れ込んでる時ってそんなモンじゃねぇ?それにあのふたりだし」 さすが兄ィ、よくわかってるね…けど『気付かれねぇ』って結構さびしいかも。 「ぁ…そろそろ上がったか?」 ブース内ではふたりがちょっと姿勢を正して呼吸とタイミングを測ってるところ。 「おい、長瀬」 示されたスイッチを長瀬が押すと…。 「「「!!!」」」 ふたりの音が圧倒的な勢いとテンポで流れてくる。、今度はジャズっぽいんじゃん。 前とはまたかわったよね……リィダァぽくもあり太一くんらしさも満載そんな感じ。 「上がったな」 「…そおっすね。すげぇ楽しそーすげぇカッケー」 いいなぁーーオレもやりたいなぁーーーそう呟くお前も相当『音楽馬鹿』だよ…でも 確かに。 ふたりの演奏とハーモニーですでに『できあがってる』感のあるそれに感心するけど じれったくてたまらない。アンタ達だけで楽しむなんてずりいじゃん、一緒にやらせてよ。 この感じならオレのドラムはどう絡んだらいいんだろ? 引き終わったふたりはしばし沈黙したのち楽器を置き、持ち場を離れて……………… !!!!!!!!! 「「やりぃ!!」」 声と同時にパチン!と手を合わせた。それも満面極上のの笑みで! 「ずるい〜〜〜〜!」 「………ずりぃ」 「!」 思わず声をあげるオレ等と対照的に態度にはださなかったのは大人だと思う…けど、 こめかみ、血管浮いてるよ?兄ィ…………。 「まぜてもらいましょうよ」 わくわくを隠しきれない長瀬。 「そうだな、両巨匠の作品をもういっぺん正式に披露してもらおうか」 さっきから兄ィの頭にもベースのアレンジが巡ってるみたいだ。 「おぉ!オレ等にはまざる権利があるよな?」 早く聞きてぇ!! どうやら今頃になってやっとオレ達の存在に気付いたらしい二人の元へと踏み出すべく 軽い足取りでスタジオの重いドアを開ける。 オレ達もたぶん溢れる笑顔で。 end. *** やっと書けました…。『VALE-TUDO』をめぐる三部作(いつの間にそんなことに) 他の三人の反応を書きたかったんですが難しかったです。 やはり『音楽ネタ』は難しい。精進します。 拍手等で一言でも感想等頂けたら嬉しいです。 読んで下さってありがとうございました。 書庫 格納庫 top |