『その後』もしくは『太一の逆襲』



自分一人で担当してる例の料理番組の収録をなんとか終えて這いずるように戻ってきた楽屋の畳。
ようやっと私服に着替えて「はぁ〜」思わず畳に懐いて僕は腹をさすった。今日も今日とて
強烈な料理ばかり。


「あ〜ぁ、せっかくこれからリハやゆうのに…」

なかなか揃わない5人のスケジュール。いつもなら余裕で笑ってこなせる仕事がホントは何より優先
させたい『音楽』を圧迫していることに溜息が漏れる。


この番組のあとは『食休み』みたいにちょっとゆっくり時間を取ってもらってあるのであと30分程で
マネが迎えに来てくれるだろう。

ちょっとだけ…体が休養を欲していてウトウト目を閉じていた僕はだから顔の正面に差す影にすぐには
気付かなかった。


「……なんや?音したなぁ……………???」

妙な威圧感を感じてくっついたまんまの瞼をこじ開けるとそこには。

「………………………………………ぇ????なんでこんなトコにおるん?たいち」

そこには『仁王立ち』そう表現するのがぴったりな国分太一。
楽屋に入りはしても僕を起こすのは躊躇われたらしい……………けど。

「なんで?」

なにがなんだかわからずにきょとんとする。だって………お前、この局で番組って持ってたっけ?

僕が目覚めたのを見て取った太一は体を起こしかけた僕の腕を強引に引く。

「なぁ、太一って?」

「……さっさと移動するよ」

低い声で一言だけ告げると『言うべきことは言った』と言わんばかりに口を閉ざして太一は僕の腕を
さっきの続きのように引っ張った。


「へ?なぁちょっとまってや…そんなにいきなり動いたら胃の中のモンが逆流するて」

マヌケな声だと自分でもわかるけど、『なぜ』も『どうして』(あ、これは同じか)
もわからない僕は狐につままれたみたいだ。

太一は部屋に投げてあった僕の荷物を持つと(さっきより力は緩めてくれたけど)やっぱりぐいぐい
僕をひっぱったままドアを開ける。


「なぁ、リハってまだやろ?なぁ…取りあえずマネには言うとかんと…」

言い募る僕に一瞥もくれず太一は地下駐車場へと歩いていく。仕方なく僕は空いてる右手でマネに携帯で
メールを打った。『先にスタジオに移動する』と。

まさか太一に拉致られてそれ以外の行き先はないだろうから。

太一の車の助手席にちんまり借りてきたネコのように乗る。乗せてもらう機会もあんまりないから勝手も
わからんし……。


「なぁ、太一。なぁ…て」

ぎろっとでっかい目、三白眼の視線を僕に流したアイツは信号待ちのときにダッシュボードを開けると
一枚のMDを取りだした。


無言で手渡されるそれ………………聞けってことか?
僕はポケットからMDウオークマンを取りだす。
セットして…………………あ、これ。
背筋を伸ばして耳を澄ます。一音も聞き漏らさないように。
僕が知っている…いや、『いた』モノとベースは同じ、だけどまったく新しい顔を見せて並んでる音符の列。

そう来たか…………。

リズムを取る足と自然にギターを抱えてるように動き出す両手、を確認すると太一は
がさり、と譜面も押し付けるように寄越してから顔を前に戻した。

そうか…やっと太一の不可解な行動の謎が解けた。結構自信作なんや。
癖のある太一の字で綴られる五線譜……………………へぇ、ここでこんなフェイク。
でも、それなら僕の詞は違う受け方をしたほうが……あぁ、ギター!ギター!!
早くギターに触りたい。

まいったわ太一、迎えに来てくれてありがとう。
『最上のオモチャ』にワクワクする……早く行って弾いてみたあて仕方ない。さっきまで感じて
いた胃の不調さえ気にならん位しゃきっとした僕をミラー越しに太一の視線が可笑しそうに見て
いたけれど気にはならなかった。


僕にだけでなく太一にとっても『音楽』こそ最高の玩具。それだけは確信できるから。
スタジオに着いたらまずは合わせてみよう。その上で太一の挑戦、受けて立つ。

何回も何回もリピートしてるうちに湧いてくるのは多分『僕だけ』で作ってたら浮かんではこなかった
だろう言葉。違う感性、むしろ対極に近いかも知れん音楽へのアプローチ。遠慮なく全力でぶつかれる
相手。極上の刺激。

太一という名の触媒を得て生まれる化学変化、『新しい音楽』に自分でもワクワクする。

あとの3人がスタジオに揃ったときには、みんながこの間聞いてたのとはまったく違う『合作曲』になっ
てるかもなぁ、と他人事のように思う。

そうだ、ライブの時には各パート対抗みたいにして……あ、アドリブ合戦も今の自分たちなら余裕
でやれるかも……きりなく湧いてくるアイデアを頭で遊ばせながら、僕はぼんやり頭に浮かんだキーワード
にひとりこころの中で親指を立てた…グッジョブさすが僕。


「なぁ…太一、この曲のタイトル、『なんでもあり』みたいな感じ、てゆうてたけどちょっと捻って
日本語でも英語でもない他の言葉にせえへん?」


まだ全然『名無し』のまま『例の』とか『ふたりの』とか呼ばれてるこの曲に一番似合う言葉、捻り
まくってストレートじゃないふたりに似合う言葉を探してみよう。


「………おっけ。じゃあかっこいい言葉辞書かなんかで探してね、リーダー」

やっと二言目を発した太一から同意をもらって僕らの曲のコンセプトがようやく見えて来た。
まだまだ二転三転どころか五転六転しそうな『僕ら』の曲。

たどりたどって捻り捻ってタイトルが【ポルトガル語】の『VALE-TUDO』に決まったのはそれからさらに
2日後のことだった。


僕らの『共同作業』と言う名の『戦い』はまだまだつづく。

                              end.



***

「VALE-TUDO」が英語じゃなくポルトガル語だと知ってびっくり、したのはそんなに古い話じゃないです。

「バーリ=すべて」「トゥード=有効」

って意味で『なんでもあり』って感じになるんですね。びっくりしました。
おまけに自由格闘技の種目か格闘技系の団体名にも使われてるらしい、と知って
またビックリ。
格闘技つながりならタイトル発想は太一さんかもなぁ、と思いつつこんな形にしてみました。

ちょっとは太一さん反撃できてますかね?
どんなにとんがって角突き合わせてもしばらくしたらまたどちらからともなく一緒に
作業してそうな……トキさんの中ではまちがいなく『音楽バカ』という言葉を冠するのにぴったりなふたりの
丁々発止?が少しでも感じ取っていただけるよう祈りながら。


拍手等で一言でも感想等頂けたら嬉しいです。
読んで下さってありがとうございました。


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