step


『メンバー自作曲でコンペ』その話を聞いたとき『面白そうじゃん』そして『しげも太
一も燃えんだろうなぁ』そんな感想を抱いたのはあのふたりが毎回のようにアルバムに
曲を提供してるメロディメーカーだから。『頑張れよー』エールを送る気分でのんきに
構えてた俺や松岡に、まるでついでのように告げられた言葉はだから結構衝撃的だった。

今回はメンバーみんな一曲ずつ?すでに正式決定って?……マジ!?

「はぁ…」

何度目かもうわからない溜め息のかたまりを肺から押し出してまたギターに意識を戻す。
とりあえずギターも弾ける…あくまでも『とりあえず』だけど。

『面白い企画』だとは思ったけどまさか自分に振りかかってくるとは思ってなかった…
なんて今更言えやしない。ギターを抱えてはみたものの与えられた『メントレエンディング
に相応しい曲』なんて曖昧なテーマに頭を抱える。
〆切まであと五日。ここ三日間頭はそのことばかり、だけど俺の手元にあるのは思いつ
くまま書き殴ったメモの束と頭の奥の方でかすかに鳴ってる切れ切れなフレーズだけ。
いくら考えても『負けた時の絶望感』とか『勝負の一瞬』『これはもう一種の戦いだ』
とか断片的なイメージしか浮かんでこない。いくらレストランのラストに被る曲だからっ
て言っても連想ゲームじゃあるまいし……………前途は多難だ。



こころのどこかでなにか迷ってる。スイッチが切り替わらない。
こないだの高揚と裏腹なテンション。

先日『メンバー曲をコンペしてEDに』ってプロジェクト素案の打診があったのは収録
直後の楽屋。下三人の部屋へ俺らまで呼ばれるから何かと思ったら。

「「「「「……………!」」」」」

呆然と聞き入った後じわじわ込み上げてきたうれしさが説明を終わったスタッフが部屋
を出て入った途端爆発した。

「オファーですよ、やった〜!すげえ燃えますね」
「ついに俺らもここまで来たか」
「見てよ。俺、鳥肌立っちゃった」

盛り上がってる太一達を眺めながら左隣のシゲと拳をぶつけて笑った。

「やったね」
「うん…やっと、や」

しげの『やっと』って言葉にすべてが詰まってる。
ほんと、やっと………………ようやくここまで辿り着けた。


「そこ、何しみじみしてんのよジジイの茶飲み話じゃあるまいし」

『まったりしすぎ!わかさってもんがないよ!』ひとしきり騒いだ後の松岡に突っ込ま
れるまで俺とシゲは揃って感慨に耽っていた。



むやみやたらにテンションがあがったのは苦い経験があったから……さっきの様子じゃ
あの三人の記憶にはないのかもしれないけど。

まだ前のレコード会社にいた頃、デビューしたのに思うように仕事がこなくて代わり映
えしない日々に焦れて『メンバーの曲で勝負させてくれ』とスタッフに訴えた事があっ
た…結果はご存じの通り。
今ならわかる、確かにあの頃の俺らじゃ力不足だった。時も満ちていたとはいえない。
事務所やスタッフの判断は正しかったと思う、今なら。あの頃、アルバムの詞や曲の欄
にメンバーの名前があったとしたって それには営業戦略も多大に含まれてたから。


けどあの時まだほんとに青かった俺らはスタッフを説得できる言葉と力を持たない自分
に苛立って凹んでた。俺もだけど特におっとりみえる見掛けと裏腹に人一倍負けず嫌い
の塊で一番『音楽』にこだわりを持ってたあの人はリーダーとしての責任感まで背負い
込んでて。
行き場のないやるせない思いをぶつけられるのは互いの存在だけ…あの頃太一でやっ
と二十代前半、下二人はまだ未成年で3人に落ち込んでる情けない顔を晒す訳にはいか
なかったから。となりにあの人がいたから、ふたりだったから立ってられたのだと思う。

「見返してやろう」

そう誓った、ふたりして。

その思いも前に進む糧にしてちょっとずつ一歩ずつ歩いてきた結果がすべて『今日』に
結びついてる。俺達が選んだ道は回り道だったかも知れないけど、経験した半端ないジェッ
トコースター並みのアップダウンも『其処』への必要なstepだと信じてる、今も。
目指す高みはまだ彼方、だけどずっとそこに見えてるから。






だけど。

「はぁ…」

再度の溜息。

目の前のローテーブルに散らばるメモの束。
闇雲にコードを鳴らしてみても繋がらないメロディ。
曲作りから遠ざかっている自分へのオファーに感じるプレッシャー。
久々なギターに指が悲鳴を上げる……………弦の細さに感じる違和感。

「俺や松岡には最初っからハンディがあるよなぁ…」

そっくり返って伸びをしながらそう呟いた瞬間スイッチの入る音と共に部屋が明るくなっ
てびっくりして振り返る。
俺の気弱な言葉にくすくす笑いながらしげが部屋の入口に立っていた………いったいいつ
からいたのさ?


「やなタイミングで入ってくるねぇ」
  
人の悪い笑顔で笑うしげはそのままの顔で口を開く。

「お邪魔でした?…そりゃすんません。ほんなら頑張ってー」

って…。ほんとに出てってどうすんのよ貴方、コントやってんじゃないんだから!

人をからかった張本人はというと何食わぬ顔であっさり戻って来てソファに座りギター
ケースから年季の入ったセミアコを取り出した。

見覚えのありすぎるそれ。

「久しぶりじゃね?」

俺達がふたりきりだった頃いつもしげがかかえてたセミアコ。近頃あまり見掛けなかっ
た。

「うん」

しげは愛しそうにギターのボディをするりと撫でると『続けとき』と俺を促してチュー
ニングをはじめた。
俺の手の中がベースじゃないだけでいちばん馴染む、いちばん落ち着く光景。しげが来
てくれたならギターを抱えてる必要はねぇよな、それに気付いて俺もベース…あの頃か
らの愛器を取り出して傍らに置いた。

横顔にぼんやり焦点をあてる。時間が許すかぎりチューナーを使わないのがしげのこだ
わり。まずは音叉で基準の五弦、それから一弦ずつ…まるで音と対話するかのように。
満足がいったらしいしげがやっと顔をあげた。

「どこらへんまでいったん?」

手慰みに、と言うように思うままにギターと遊びながら首を傾げる。

「切れ切れにイメージは浮かぶんだけどね」

繋がんないんだよ、肩を竦めて見せるとしげはフッ…と笑って口を開く。

「なぁ、お茶入れてきてくれん?」
「んー?そうか…そうだ、貴方があんまり気配消して入ってくるから忘れてたわ
……今日は何茶? ビールもあるよ?」
「僕はどこぞの忍びか。う〜ん、今日の気分はほうじ茶かな。ビールは今日のノルマが
終わってからやね」

「そっか。そうだね」

お茶全般が大好きで、かつこんなに似合うアイドルってのもどうかと思うけどね。CM
オファーが来た時どこかで茶を飲みながらなごんでる俺らを見たのかと思ってびっくり
した位だし。そんなことをごちながら急須と湯飲みに湯を入れ暖める。しげにレクチャー
されて俺まで詳しくなった。たまにはいいよな、ホッとするし。互いのうちにそれぞれ
『my湯飲み』をキープしてんのはあいつらには秘密だけど。

一回湯を捨て茶葉に熱湯を注いで30秒、湯飲みに淹れて…。

「ほい、お待ち〜」

あんがとぉ、律義に礼を言いながらふぅふぅ湯飲みに息を吹きかけてるしげ。
しばらく互いに茶をすする音だけが部屋を支配する…緊張感の欠片もない部屋。
何だか急に笑いが込み上げてきた。

「のどかだねぇ…しげと茶をすすってるとこっちまで縁側で日なたぼっこしてる気分に
なってくるよ」
「そこで笑うなや。たまにはのんびり、まったりも大事なんやで?」

失礼な奴っちゃなぁ、とそっぽを向くしげ。
それにもまた笑いを誘われて俺はひとしきり笑ってた。





「どない?ちょっとは切り替わったか?」

しばらくしてからのんびりした口調でしげが口を開く。

「ん〜、まあね。あ〜笑ったぁ〜」

ホントは結構気分、変わったかな。立ち上がってみてはじめて肩も腕の筋肉も強張り切ってる
ことに気付いたし……どれくらい同じ姿勢でいたんだろう。

「山口はすごい集中するから」

さっきやってもう外が薄暗あなっとったんに気ぃついてなかったやろ?
でも、そんな眉間に皺寄せてたって物事はかどらへんやん?………………やから。

そう言うと言葉を切り、しげはギターを静かに奏で柔らかく歌いだした。

ミディアムテンポなラブソングの形を借りて綴られるメッセージ、耳に馴染むメロディ
……圧倒されて聞き入ってなんのリアクションも返せない俺に構わずに続けざま次の曲
に移る。今度は一転してブレスの暇もないんじゃないかってくらいスピーディーなロッ
ク。そして一転して今度の曲はなんだろう……………ボサノバ?

最後の一音の余韻が抜けても声どころか身じろぎすら出来なかった。

すげぇ。

「どない?」

しげが恐る恐る…と言った風に尋ねてきてやっと我に返る。

「もう出来たんだ……………しかも3曲?今回。気合い入ってんね。すげえ」

最初のなんか、えっらい斜めから攻めてるから最初コンペのじゃなくて普通のかと思っ
たよ。俺のいらえに目元だけ微笑ませたしげは首をぐるりと回した。

「わからんように作ったんやもん。ここでお前がそう言うてくれるんやったらなんとか
OK、第一関門クリアって感じかなぁ」

この瞬間がやっぱり緊張するし一番いらん〜〜〜、そう嘆いて見せるけど目は言葉と裏
腹にキラキラしてる。結構自信作じゃない?
心底『音楽する事を楽しんでる』その表情にこっちのテンションも上がってゆく。言葉
じゃなくその背中で俺を煽るのがうまい、いつもその手には乗るもんかそう思いながら
煽られてる。


ひっかかる箇所でもあるのか繰り返しチェックするしげのギターをバックに頭にさっき
よりつながりはじめたフレーズを頭の中で遊ばせる。

そういや出来上がった曲はまず互いの耳でチェックしてからみんなに聴かせる……それ
が暗黙の了解、みたくなったのはいつからだろう。


「いつからだっけ?」
「んー?」
「いつからやってたのかな、と思って。これ」

この『ぷちお披露目会』。

「そう改まって聞かれると………………いつからやっけ」

頭にぼんやり浮かぶ映像。

あの後凹んだままじゃあいられないと自己流だけじゃなく『作曲理論』なんて本まで何
冊も読みこなしたしげ。『聞いてー』電話がくる度に開かれるぷちお披露目と言う名の
飲み会。次第に俺も横から口を挟むようになって共作の曲も増えて……ああ、やっぱり
『あれ』がひとつの区切り、だったんだ。
……………俺は『海』に嵌まったお陰でここんとこ、とんと御無沙汰だけど。

俺の言葉に『そうやったっけ〜』なんて首を傾げてるしげ。だけど、貴方が忘れるわけ
がない、だって唇がヘの字になってるのはあの時を思い出してるからでしょ。

あの頃のことをどちらからともなくぽつり、ぽつり話しだす。 もう…………っていうか、
これで心底の笑い話にできたそれを。
勿論毎日リベンジに燃
えてたわけじゃなく、むしろそれより日々のばか騒ぎにいつの間に
か紛れてたんだけど。

『あの時松岡が…』『近頃の長瀬、いくらなんでもワイルドすぎん?』『太一の新しい
関節技って』……………………………………………。

ひとしきり笑って、途中今度はしげが俺の分まで淹れてくれたほうじ茶をすする。『忘
れてた、陣中見舞いや』とか言いながら出して来てくれたのり煎餅をお供に。






「しあわせ、やんな」
「は?」

………………唐突になんですか?しげさん。
目を向けると、しげは湯飲みを両手で抱えて遥か彼方を見透かす目で笑ってた。

「あの時ふたりして『絶対見返したる』て誓うたけどや、ほんまに僕らがリベンジできる
確率なんて何
千、いや何万分の一、やったやろ?実際」

考えてみ?
あれから何年?そいで今、この時点まで僕らがめげずに曲を作り続けてる確率、歌い続
けてる確率…………TOKIOがTOKIOでおる確率。
ファンの支持率やら、事務所の方針変更やら変数の要素はいくらでもあったんやから。


「………そっか…………………………………………………………」


この人と話をするとなんだかいろんなものがクリアになる。今まで見落としてたこと、
気付かなかったこと。何が大事で、何が今やるべきことなのか。そんなものすべて。

「そうだよね」

リベンジの機会を与えられたって事自体凄いことだったんだ………今更ながらに気付く
自分たちのしあわせ。環境もタイミングもファンの子の声も俺らの努力も、すべて欠け
る事なくここまで続けられたこの幸運にも。
オファーに一喜一憂してる場合じゃない。このオファー・このプロジェクトを生かすも
殺すも俺ら次第なんだ。

すべてが『これから』の俺らに返ってくる……………………………よく考えたらそれは
『あの時』と同じ。



『ここんとこ作ってない』なんて御託並べて四の五の言ってる場合じゃねぇや。
ゾクリ、武者震いが背中を伝う。ライブ前にも似た高揚感。

でも、気付いたと同時により強い重圧に晒された。

「プレッシャーだなぁー」

しげや長瀬や太一は作り慣れてるからいいだろうけどさぁ〜〜〜思わず漏れた唸りにし
げは目を丸くして見せた。

「へぇ〜、ほんならリタイヤする?」

もうワクワクせんようになってしもたんや…。残念やなーおんなじ条件でメンバー同士
競えるなんて機会実際そうはあらへんから楽しみにしてたのに。そっかー止めんのん?
山口の曲久々に聞ける思てたのにな………って、一転してそんな俯いて哀しげな瞳で見な
いでよ。俺がその目に弱いの知ってんでしょうが。

「誰も『やめる』なんて言ってないじゃん」

俺の言葉に顔を上げたしげ。

「ほんま?」
「うん」
「ほんまにほんまやな?」

首肯する。自分の言葉に二言はねえよ。

「よかった〜。ぐっさんやる気になってくれてよかったわ、やっぱり祭りは『参加してなんぼ』やろ?」

心底嬉しそうな笑顔。この笑顔には逆らえない。まあ最初からそんな気もなかったけど。

今度はいたずらっこな笑顔になってしげは口を開く。

「知ってるか?こういう状況にぴったりな言葉……『千載一遇のチャンス』言うねん」

すごい興奮せん?千年生きて一度、のチャンスやで?
にやり、鮮やかに笑う貴方に圧倒され、かつ煽られてる。

「迷とったらチャンスの女神が行ってまうで?お前に眉間のシワは似合わへん、ごちゃ
ごちゃぐるぐる考えるより山口らしいストレートな言葉で思うように切り込んでったら
ええやん。技術的な部分は必要なら手ぇ貸すから」


…………………やから『楽しも?』

「…!」

鮮やかに笑うしげにゾクゾクする。その顔は『あのころ』から変わらない…そうだな、
『音楽』に対してまっすぐだからしげは強いんだ。


ほうじ茶を飲み干す。
煽られて火がついた。ふつふつ湧いてくる闘志……負けず嫌いなら俺も負けねぇ。
〆切まで『まだ』5日。


やっぱり迷いすら見通されてたか…。
『敵わねぇな』何十回何百回繰り返した言葉をまたこころの中で呟いた。








しげ、やっぱり貴方は俺の揺らがない指針・エターナルポース(永久指針)だわ。


                                end.


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