ぷれじぇんと、2コめ ぷれじぇんと、2コめ

トタトタトタトタ…
近付いてくる特徴ある軽い足音に気付いて眠りから覚め掛けてたオレは自室
のベッドの中で頬を緩めた。




ガチャ…ガチャッッ
なかなか開かないドアノブと闘ってる気配。やっと開いたドアから滑り込む
ように入ってきたちいさな体はオレが布団の中からヒラヒラ手を振ったのを
認めると満面の笑みになった。そして勢い良くジャンプして………。

「ええか〜?いくで〜〜!!フライングボディ〜アタ〜〜ックしげちゃーん
シュペサル!!!」

どさ…ぐえっ。
なんとか腹筋でこらえる。たとえミニサイズだからって飛び乗られればダメ
ージはそれなりに……けど、得意満面!な笑顔で「おはよぉ達也」なんて言
われたら怒る気も失せる。もとより『茂に甘い』って事に関しちゃ『細胞を
通り越してもう遺伝子レベルだね』なんて有難くもない評価も貰ってるし。

「おはよ、しげ」

だけどちょっとだけ仕返し、ついでにルール確認。掛け布団ごと下から茂の
体を掴んでプチ布団蒸し、そいでもって首の後ろと足の裏を擽ってやる。

「ぇ何するん?ひゃーっひゃっひゃっ、じゅ……じゅっこいわ達也!!!」

布団越しに聞こえるくぐもった響き。

「お返しだよ。いきなり、はダメだって言ってんじゃんいつも」

ぎぶぎぶ言いながら暴れてるから手を緩めてやる。

「それと。『シュペサル』じゃなくて『ス・ペ・シャ・ル』」

ぷはっ!そんな勢いで布団を撥ね飛ばして顔を覗かせた茂は頬を膨らませて
オレを睨んでる。ちょっと涙目だ。

「えーやん、もう。シュペサルはシュペサルなんやっ!」

ご機嫌斜めな口調。
茂は舌が短いのかはたまた長すぎるのか時々発音が怪しくなる。散々みんな
にからかわれたり直されたりするもんだから最近は指摘されんの自体が嫌み
たいだ。ムキになってかわいいからみんな構うんだってわかってないんだよな。

「で?」
「…へっ?」
「なんか用があるからオレの部屋に来たんじゃねえの?ワザ掛けに来たの?」

「ぇ、あ…なんやったっけ………そうや!ボクなボクなぁ、めっちゃええプ
レジェント思い付いてんっ!」

オレに馬乗りになってでっかい茶色の目をキラキラさせながら叫ぶような勢
いの茂。

「プレゼント?」
「うんっ!」
「誰の?」
「達也の!」
「オレの?」

噛み合わない遣り取りにせっかく直りかけたわがまま王子の機嫌がまた下降
する。クマプリントのパジャマ姿ですねたってかわいいだけだって。

「けど、もうもらったじゃん。誕生日のだろ?」
「あれは『みんな』からの、やろ。『ボク』からのんと違ゃうやん。達也、
欲しいもん考えとくゆうてたのにそのまんまやし」

ぷんぷん憤慨する茂が微笑ましくてクスクス笑ってしまったのが失敗だった
らしい。自分の考えを笑われたと誤解した茂はうってかわって今度はしゅん
とうなだれてしまった。

「…達也はボクからのプレジェントなんかいらんねんな…」

ポツリとこぼれたちいさな呟き。唇を噛んでる姿にあわてる。涙が今にも瞳
から落っこちそうだ。

無言のまま後退ってオレの上から下りようとするちっちゃな体を急いで捕まえ
る。泣くまさに直前の熱の籠ったカラダ。

「ごめん!」

『なんか』なんて言葉使わせちまって。

「悪かった!」

重ねて告げる。

「いらんのやったら別にええ……………」

声が震えてる。

「欲しいよ、欲しい…しげからのプレゼントすっごく欲しいです」

言葉に嘘はない。茂がオレのために考えてくれたって言うんならなおさらだ。

「………ほんま?」

消えそうな呟き。

「……なぁ達也、ほんまに欲しい?」

まだうなだれたままの茂の頬に手を当てて顔を上げる。

「ホントにごめん。どうか教えてくださいお願いしますこの通り」

ぺこりと頭を下げると噛んでたくちびるをほどいてやっと泣き笑いみたいな
ちいさな笑顔をくれた。

「しげからのプレゼント…なんだろ?すげぇ楽しみ」

「……ほんまに貰ろてくれる?」

おずおず聞いてくるからちっちゃな両手をきゅっと握る。

「何考えてくれたの?」
「…あんな」

気をとり直して教えてくれようとする茂。距離感が寂しいから手を引っ張って
腹這いにさせる。

「わっ」

オレの上に落ちてきた軽いカラダ…これで良し。この方が茂の表情が良く見え
る。

「なに何?教えてよ、しげ」
「…あんなぁ。ボク、達也の新しい呼び方考えてん」
「呼び方?」
「うん!!」

かなりご機嫌が上向いたらしい茂が微笑みながら頷く。

「あんなあんな、ボクはしげりゅ…やなくてし・げ・る…やけど、みんな『茂
くん』て呼ぶのに達也は『しげ』って呼ぶやん。やからなぁ、達也もこれから
は達也やのうて『たつ』。ボクだけそう呼ぶのんがボクからのプレジェント」

こしょこしょと内緒話でもするように顔を寄せて渡された言葉。言い終えた茂
はふにゃっとはにかんだように笑うとオレの顔を覗き込んだ。

「どない?」

透き通る茶色い瞳が期待いっぱいにオレを待ってる。

「しげ…」
「ん?」

くびを傾げる茂を布団ごと今度は一瞬ぎゅっと抱き締めた。

「ゎ!」
「ありがと、すっげぇ嬉しい。言われて考えてみたら『山口くん』『ぐっさん』
『たっちゃん』…そう呼ばれんのがほとんどで『たつ』って呼ばれた事って
ねえかも」
「そやろ?なぁ、気に入ってくれた?」

えっへん!と胸を張る茂は大変可愛らしい。

「おう。すっげぇ嬉しいよ、あんがと」

オレが気に入ったのが嬉しかったらしい茂はさらに続ける。

「『たつ』ってすごいねんで?ドラゴンなんやで?」

へっ?………いや、その『竜』はオレの『達』とはちょっと違う気が…そう思い
ながら、どう言えば上手に修正出来るかと考えるオレの思考に割って入るよう
に入ってきたわざとらしいノックと第三者の声。



「ねぇねぇそこのラッコの親子さん、おくつろぎのとこ申し訳ないんですけど
………メシ!!!別にいらないんならいいけどさ。茂くん『ボクが達也呼んで
くる〜』って走ってったのになんも役目果たしてないじゃん」

『ラッコの親子』って何だよ…って振り向くと部屋のドアによっかかって醒め
た視線を送って来てる松岡。すでに現時点で口はアヒルになってる。

「ぁ〜。ごめんごめん忘れとった。ボクご飯やで〜って知らせに来たんやった」

よっこらしょと起き上がった茂はぽりぽり頭を掻く。

「わかったよ、知らせに来てくれてサンキュ」
「マボ〜達也わかったって〜〜〜♪」
「『て♪』って何よ。オレが来なきゃ思い出しもしなかったくせに」
「やって、話してたら忘れてもーてんもん。ごめんなー」

小さな両手を合わせて『ごめん』と拝んで上目使いで窺う姿に茂バカなコイツ
が折れない道理もない。松岡は大きく溜め息をついて続けた。

「もういいよ…それよりちゃんと手ぇ洗った?さっき言ったよね」
「ぇ?ぁ、まだや」
「なら早く洗っといで」
「うん!達也…やなかった『たつ』も早よ行こ?なぁなぁマボ、今日の朝ご飯
なに?もう教えてくれてもええやん」
「……さあね。先行って見てきたら。言っとくけどつまみ食いはダメだからね」
「わかった〜」

トンっとベッドから飛び降りた茂がまたぱたぱた駆けてゆく。
そしてその後ろ姿を見送って溜め息をつく男がひとり。



「いいよね………いいよね、いっつも兄ぃばっかり」

送られてくる目線が痛ぇ…いったいどこから見てたんだオマエ…………。

「けどおまえはいつもしげに『まぼ』って愛称(か?)で呼ばれてんじゃん」

とりあえずのフォロー。

「オレが言いたいのはそういう事じゃなくて!……もういいよ。どう足掻いた
ってオレは兄ぃになれないんだからオレはオレの道を行く!」


宣言するように言って踵を返す松岡は明日からまたピンポイントにマニアな茂
の好物を作り続ける気だろうか。

引き攣った表情を思い浮かべる限りしばらくの待遇悪化は甘んじ
て受けるしか道はなさそうだった。

END.



なんだかわからないけど、突然ちび茂さんなおはなし。




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