幕  間   -忘れえぬ君へ-





怒りをのがすためにきつく目を瞑って深く息を吐いた。
太一との『Julia』をなんとか終わらせた舞台袖。一曲はさんですぐに次の
『花唄』のスタンバイだ。



眩暈がする。
息が整わない。
瞼の裏が怒りで赤く染まる。

荒れた海にただひとり放り出され翻弄される感覚………深く息をしてぎゅっと目
を瞑って。

何がいけなかった?
ちょっとだけどオレが間違えたから?
きっかけが揃わなかった?
あまりに大きい会場のキャパ?
オレが溜めすぎてた?

原色の感情が瞼の裏ぐるぐる渦を巻く。
曲のブレイクで聞こえたざわめき……いや、はっきりと…『笑い声』。

悪意は、無い…そう………なんだろう。たぶん、ひとりひとりには…だけど。

やりきれない気持ちをいっそあの場でぶちまければ良かったのか?…それだけは
意地でこらえたけれど。




暗い舞台の袖。
時間は着実に流れてる。ライブは進んでく。
集中だ、集中。
切り替えなきゃ。
しゃきっとしろよ!



意識すればする程思考は空回る、焦りが出る………振り切るように頭を振って。
















「……………………………………………………………………?」


感情を制御するのに懸命なオレの五感をかすめて行ったさっきまでとは違った色
の空気。

顔を向けたオレの目に映ったのは、ボンゴとギターをかかえていつもよりも更に
【夜の香り】を漂わせてるメインステージの上の二人。

2部だけ揃いの真紅の薔薇なんか胸にさしたりして、いつもよりもさらにホスト
トークで笑いを振り撒いて自分達のペースに客を巻き込んで。
………なんか1部よりもっと夜の雰囲気で喋ってないか?

『毎度ありがとうございます。本日ご指名いただきましたミキオ、です』
『奈良から流れてきました、ジョージです』

『『………ようこそホストクラブ、キャッスル大阪へ』』



なあ松岡。大丈夫だってそんなにとばさなくても……饒舌すぎるハイテンション
に張り付いている余裕のない笑顔。それより『キャッスル大阪』って…もうちょ
っとマシなネーミングねぇの?
『ミキオ』っていったい誰だよ………大沢くんか?


隣は……まぁ、この人が動じることはない。隙のない、『これぞリーダー』って
いういつもの笑顔。
ねぇ茂くん。あなた奈良から流れて『大阪』で留まってたの?ならさ、巡り会っ
てねぇんじゃん。まだ、オレ達。



MCに頬をゆるめかけて気付く………オレは『ひとり』なんかじゃなかった。




放っておいてくれる優しい沈黙。頃合いを見計らって追い越しざま、わざと一発
背中に入れてからキーボードブースに向かってった掌。

ギターを抱えてスタンバイしながらいつもより五割り増しニカっと太陽な笑顔、
こっちこっちと招く長身。

そして。
ホールの雰囲気どころかオレの気分まで変えてったあの二人。




きつく目を瞑って深く息を吐いて…………………………………………………
………怒りはまだ喉を焼いたままだけど。




荒れ狂う嵐の海が徐々に穏やかな表情を取り戻して行くように。
少しずつ………………………………………………………少しずつ凪いでいく心。
いつのまにかつくりじゃなく笑ってる自分をみつけた。




舞台上のセッションが終わりに近付いて、茂くんが確認するように流した視線が
オレを捕える。


いつもいつもホントの言葉よりモノを言う淡い茶色の瞳。
気遣い、心配、さっきの反応に対する憤り……いろんなモノが透けて見える瞳。

でも反面この状況をおもしろがってるようにも見える。
どう切り抜ける?って試されてる気もする。

……OK、大丈夫だよ。その信頼は裏切らない。約束するよ。
……………はいはい。いつまでもヘコンでなんかいねえって。

オレをみつめるその目に笑って、おもいっきり不敵に見えるよう親指を立てて見
せた。茂くんの目が満足げに細められ、口許でかすかに微笑んでからライブ時の
『戦闘モード』に戻る。

全部お見通しってカンジ?オレの受けたダメージも今までの葛藤もすべて。
少しシャクだけど、わかられてる事にちょっと安心もする。
………さすが。

 
『忘れえぬ君へ』が終わるとすぐに五人揃っての『花唄』のイントロ。
茂くんの新しい楽器《一五一会》の染み込むようなやさしい響き。その響きに
オレのいらだちの最後のひとかけらがすぅっと溶けて行った。



…ハモりながら思う。

これが一生一度のTOKIOライブだったかもしれない客の前でキレちまわなく
てなくて良かった。ホントに。
一期一会。
同じライブは二度とない。
同じ会場でも。
同じ曲をうたっても。いつでも客席との真剣勝負。
いつも思ってきたけど。
ずっと思ってるけど。

今までよりももっと。その思いは一層強く。




もっと工夫しよう。
アレンジも、持って行き方も。
技術も磨かないとな。表現力、ブレス、太一との連係。
ホールの大きさに負けないちから。
会場中が息をとめてオレの声に聴き入るまで。
負けられねぇ。
まだまだラストの武道館まで決着はついてないからな。
ふつふつ湧いてくる闘志。



『花唄』が終わる。
オレの前向きな思いは曲の最後のアイコンタクトで下三人にも伝わったようだ。
少し不安げだった太一や松岡、長瀬の表情にも余裕が戻ってきた。


さあ、MCだ。


                               END.
.
*************
気分を害されてないと良いなぁ、とドキドキ。

快く掲載許可を出してくれたWさん、さんくす!

お読みいただきありがとうございました!感想等頂けると舞い上がります。
書庫

top



























アクセスカウンターホスティングサービスがん保険外国為替証拠金取引