--siawase na kekkon--









「やっぱりこう言うんを『幸せな結婚』て言うんやろなぁ」

あの人がなんだかしみじみ噛み締めた口調で呟いた言葉。
広いとは言えない楽屋、するっと耳を通りすぎた短いその言葉に隠れてた聞き流せない
響きに俺は視線を上げ、すでにもう私服に着替えてソファでヘッドフォンの音に耳を傾
ける人の横顔を凝視した。

今なんてったの?リィダァ?!………………け、ケッコン?!

語尾が疑問もしくは感嘆系なくせに別に誰の返事も、同意すら必要としてなさそうな様
子に俺はここはつっこむべきところなのかそれとも違うのかわからなくて視線を巡らせ
る…部屋にいるもうひとりも帰り支度の手を止め怪訝顔、まあ当然っちゃ当然だけど。

あ、難しい顔した太一くんが大股でずんずん近付いてってリィダァのヘッドフォンを奪
い取り耳に当てた。
しばしそのまんま静止…聞こえてくる音と、それからリィダァの表情口調からどうやら
なにか読み取ったらしい。
仁王立ちして腕組み、眉間に縦皺を寄せてトドメのようにこれみよがしに大きな溜息を
ひとつ。

「やっぱりこれ?まあたしかにそう言う面もあるかもってこないだも話してたけどさ、
まったく紛らわしい物言いすぎだよいつも」

見なよ、ほら松岡固まっちゃってんじゃん…太一くんは渋面をいつの間にか笑いに変え
てでこピンをあの人の広い額に一発。

「…っ、やめてぇや痛いわー太一ぃ、独り言やん」

別にそんな痛そうでもないのに『痛!』なんて痛がって額を押さえてるリィダァも、そ
れからつっこんでる太一くんもなんだか結構ごきげんな様子…話の転がり方からすると
リィダァに関する『浮いたハナシ』じゃない訳ね、とこっそり安堵する。
でもさ、じゃあ…じゃあいったい何よ。どう言う事?

疑問がそのまんま顔に出てたのか太一くんが笑う。

「松岡お前、表情は正直だよなぁ」

そんなしみじみ言わなくてもいいじゃん…。
ほらこれだよ…ぴらり、太一くんが持ちあげて俺に見せてくれたのは新しく俺らの代表
曲に名を連ねることになった曲の譜面。
この人らしすぎる言い回しだろ、思わねぇ?…って笑うけど太一くん、俺なんだかまだ
話がよく見えないんですけど。

目に焦りを浮かべてる俺を見て太一くんは珍しく補足してくれた。

「たぶんこの曲と俺らの『出会い』が、って言いたいんじゃね?」

どうよ?
目で同意を求められて『まぁそんな感じかなぁ』なんてリィダァが答えてる。

…この曲との巡り会いイコール『幸せな結婚』だ、って言いたい訳?
ふたりのなんだか妙に息の合ったやり取りに兄ぃがこの場にいなくて良かった(もう一
つ打ち合わせがあったらしい)、なんて思いがちらり頭を過ぎった。
TOKIO全体の頼れる兄貴分な兄ぃは、けどそれ以前にリィダァの相棒であることに
矜持を持つ人だから。
それとも兄ぃも今与えられただけの情報量でおんなじ答えに辿り着くんだろうか。


ねぇ太一くん。
ずっとふたり結構辛辣なやり取りしてたのにさ、この頃音楽の話になるとまったく違う
距離感になるよねリィダァと。
初めは端で見てるだけでキリキリ胃が痛くなりそうな(てか実際胃薬の世話になってた
こともある)感じで、ぶつかってる時は長瀬とふたり部屋の隅に身を縮めてたのに最近
は気がついたらいつ間にか音楽談義とかセッションして笑いあってたり…まるでぶつか
りあって互いの身を削りながら角がとれて丸くなってく氷山みたいに(おかしな比喩か
もしれないけどほんとそんな感じなのよ)向き合って投げ合う言葉から角がとれて。
知り合ったはじめっからもう阿吽の呼吸で肩を並べてるように見えた上ふたりとは正反
対、このふたりは水と油の印象だったのに。

いったいなにがきっかけでこんなに歩み寄ったんだろう…。このところ頭に居座る疑問
に気をとられてたらリィダァが口を開いた……そーだ、本題本題。

「たしか去年の春のツアーん時のMCかなんかでも話に出てたんやけどな、多分どっか
はじめの方で。昔、僕らの意思よりプロデューサーの意向って方が優先されてた時代が
あったやん?…その頃のこと考えててん」

僕らの意見もだいぶ聞いてもらえるようになったけどな、夏やったライブハウスツアー
みたいに。
そこで一旦言葉を切ったリィダァは考える目をしながら話を続ける。

「ライブん時いったい誰が言うた話なんやったかな…えーと…ああ…たぶん松岡かな」



ぇ俺?
突然の名指しに脳をフル回転……MC、MC……ああ、あれね。


前のレコード会社にいた時プロデュースしてくれた人。自らもバンドを率い、女の子の
団体さんアイドルの敏腕プロデューサーで。面白いしいい人なんだけど…。
その人が俺らをプロデュースってことで話題性はあったし実際ある程度クローズアップ
はされた。
けど、その人がその時敷こうとしたレールはその時の俺らの気持ちに添ってるとは言い
難いものだった。

「太一くんが曲アタマ、画面向いて『やっほー』って叫んだ時にこれは絶対違うと思っ
たって言ったあれ?」

言ったわ、たぶん…九州シリーズか名古屋あたり?

あ、リィダァの目が肯定してる…覚えてたんだ。

「書いてもろた一連の曲は今考えたら幅広ぉて結構面白いんやけどな、あの頃の僕らに
はそんな風に視点を変える余裕はあらへんかったやろ?」

そうだね。
その曲とか次の曲がいつ発売されたのかわからなかった、なんてライブのMCん時も笑
い話にしてたけどあながち嘘じゃなかった。
売る方の気合いと演奏する俺らの気持ちの歯車がずれてんのに売れる訳がなかった、っ
てだけの話だ。かつて経験のないオリコン初登場14位とか11位とか…それがその結
果。

「考えたらあんまりライブでもやってないね、あの頃のって。そう考えるとちょっと可
哀想かも。
そうだ、俺がギター買って帰ってきたらなくなってたんだよなワッハッハのパンクバー
ジョン」

一番可哀想なのは結局俺じゃん、って太一くん…しょげたふりしなくていいから。

たぶんそれはみんなどこかで感じてる気持ち。

「うん、ちょっとね………そう考えたらたしかに不憫」

だけど。

「あの後さあ何度か酒飲みながらリィダァと話してた記憶があんだけど…普段どれだけ
バラエティでおちゃらけても、って言うか普段笑いに走っちゃってる分、音楽とかライ
ブの場でそれやっちゃだめだと思うって…太一くんはそう思わねえ?」

ファンの子達が望む俺らの顔、俺らが表現したいこと……見たい表情と見せたい表情が
一致すんのはやっぱりライブなんじゃねぇかな、そんな話を酒が入ってはいたけど延々
してたのを覚えてる。

「たしかにそうだよな、笑いは俺らの場合バラエティーとかMCで十分だろうし」

いや、それもどうなんだろう太一くん…って話だけどさ。


「思うんやけどな、別にセールス的に売れたから『ええ曲』売れんかったから『あかん
曲』って訳やないんは僕らが一番わかってることやし『ええ曲』に対する定義かてたぶ
んみんな違うやろ。さっきのはあくまでこの曲と僕らが巡り合うたタイミングの話な」

曲選会議ん時初めて聞いた俺らが(作ってくれた大御所女史云々は抜きにして)みんな
いっぺんに気に入った曲。

「今このタイミングこのシチュエーションでこの曲と僕らが巡り会うた…それが不思議
やん?それこそ『幸せな結婚』ちゃうかなぁ、って。それとかLOVE YOU ON
LYにしたってや、アレンジし直してまたやりたいって歌とデビューん時に巡り会えた
んは幸せやん」

「そいでな、『もしも』でしかねぇけど例えばさっき言ってた『俺らがグレてた頃』に
この曲と巡り会ってたらどうだったんだろう、って話してたんだよこないだ…たぶんあ
の頃の俺らじゃ役不足だったんだろうなって」
「それとか、この曲に巡り会ったんが僕らやのうてVで、逆に僕らんところに来たんが
たとえば『グッデイ』やったとしたら…?て」

なあ?
そうそう、ウケたよねー、だってアクロバットするリーダーだぜ?
そう顔を見合わせてけらけら笑い合うふたりから漂うなんだか妙な安定感。

ぇ?
聞いた中身にめまいを感じ目を閉じた。
脳裏を細目のあいつみたく歌って踊ってる俺らが掠める…ぇ?ぇ?俺らとVが入れ代わ
んの?なんだか今立ってる大地がマガイモンで実はスポンジだったって言われたくらい
の違和感。

「ありえねえ…」


顔をしかめる俺を見て笑ってるふたり…心臓に悪い物言いはそういやこの人達に共通し
てたっけ。

「な?そういう風に考えたら曲と巡り会うんにも運命感じるやろ?」

ふさわしい時期にふさわしい相手と出会う…ロマンやん。

「…その運命の曲にアイツの声しか入ってないってのはなんか癪だけどね」

顔をしかめ鼻の頭にわざとシワを寄せる太一くんの表情に笑う…たしかにちょっと悔し
い。





「だけどさっき情けない顔してたよねぇアイツ」

思わず苦笑。
『ええ〜?!3人ともこれで仕事上がりなんですかぁ?!いいなぁ〜』そんなセリフを
残し次の仕事へドナドナの子牛みたいに引きずられてったアイツ。
先に仕事から解放された自分達が罪悪感を感じるくらいなあの哀しそうな目。

「あれでうちの『顔』なんだってんだからなあ…」

太一くんのしみじみした呟き。

「けど頑張ってるやん………たまに詐欺や、思う時もたしかにあるけど」

あないワイルドになるなんてなぁ…僕の天使やったのに。

繰り広げられるアイツの『教育係』と『母』の会話。

たしかに。

…けど、リーダーの言い方に倣うならアイツが最終的にうちのボーカルになったのも、
そもそもこんな性格も嗜好も何もかもバラっバラな俺ら5人が当たり前みたいに一緒に
いるのも運命で必然なんだろう。
そこまで考えてその思考に苦笑する………結構毒されてんなぁ俺。

太一くんの番組で聞きそうなフレーズだよな…そんな考えを巡らせながら俺はまだ近頃
の長瀬について語り続けてるリィダァを相手に、邪険な口調なクセに的確なタイミング
で突っ込み混ぜ返し続ける太一くんを窺った。



…………………リィダァ公認突っ込みの称号は簡単には渡さないからね、太一くん。

***

不穏なタイトルですみません、起承転結、の付け方を忘れた気がします…。
『何だかうちのサイトなりに息の合ったホムクル』を目指してみました。
紫さん、いつもごめんよ;

お読みいただきありがとうございました!



ブラウザを閉じてお戻り下さい。






























相互リンク 募集カウンター