- yakusokunobasyo -



はぁはぁはぁ……息を弾ませながら全力で夜の街を駆ける。進まない車列に見切りをつ
けタクシーを降りてひたすら。
ただ駆ける。

目指すのは繁華街から一筋入ったどこにでもあるちいさな公園。

息を切らし走り込んだ先には見慣れた猫背のシルエットがひとつ…他に人影はない。い
つもながらこんな時期に夜の児童公園に来る物好きは俺達だけらしい。また今年の冬は
格別寒いし。

視線の先、しっかり着込んでもこもこに着膨れたあの人がこっちをゆっくりと振り返っ
た。




「やっと来た…」

笑おうとしてるんだろうけど寒さにこわばりきった表情は変わらない。あーあ、鼻の頭
真っ赤。

「ごめん!渋滞でさ」

遅れた訳じゃないけどこの様子を見たら謝らずにいられない。松岡なら100%…太一
や長瀬に見られてももしかしたら殺されるかもな、そんな考えがちらり頭を過ぎる。

公園の角で買った缶を頬に当てると…ようやっとしげの顔が少しだけ緩んだ。

「ぬくぅー」

目を閉じ受け取った缶紅茶の熱をほっぺたで味わって息をつく横顔。

「だから今年だけでも違う場所にしようって言ったのに」

これで体調崩したら…。

しげは立ち上がると昔からの定位置に座ってプルトップを開けようとする…けど手袋の
まんまじゃ無理だって。無言で差し出す手に苦笑して受け取った缶を開けた。隣に腰掛
けついでに自分のも。
息が白い。

「大丈夫、そこまでヤワちゃうって」

それに『今日』『ここ』やないと意味あらへんやん?そう言って首をかしげるしげ。

「そりゃそうだけど」

一瞬見交わして無言のまんま互いの缶を合わせ味わうように一口。

「でもやぁ、あの頃はこんな寒さなんか感じんかったのに…やっぱり年かなぁ」

結構完全防備なのにまだ寒そうに首をすくめてる姿は走ってうっすら汗を浮かべてる俺
と対照的…まぁツッコむ奴はここにいないけど。

「テレビで久々の厳冬、20年ぶりの大雪とか言ってたしそれもあるんじゃね?まぁ衰
えてんのも否定しないけど」

「失礼な奴っちゃなあ。義理にでも否定しとくとこちゃうんか、そこは」

「だって……なんだかんだ言ってもあの頃まだ十代じゃんお互い。その頃よりは確実に
年食ってるって。それともそれも否定できる?」

「うっ…そないなるんかー、15年もっと前……たしかにもっとぴちぴちしてたわな」
「いや…ぴちぴちはしてなかった気がするな特にしげは」

「そない断定せんといてや…しかし10代か…まだTOKIOになる前や」
「下2人はまだ事務所に入ってすらない…って言うかむしろ稲垣とか中居とかとの距離
のがずっと近かったんじゃね?」

「懐かしいなぁ、ゴローちゃんと一緒ん部屋やった頃や…そおかー山口がまだ色白で
『華奢な美少年』やった頃やね」

しげの表情がいたずらっこのそれになってる。あ、そういう事言い出すワケ?なら。

「…あーそうそう、しげがスカしたギター少年だった頃ね」
「練習嫌いを公言するとんでもない奴でなー」
「ぎこちない標準語遣って瓶底眼鏡でさ」

軽いジャブの応酬。顔を見合わせ吹き出す。ひとしきり笑って口を開いたしげはうっす
ら涙目だ。

「そんなんスカしとったんはお互い様やん……けど、こない言い合うてたらあの頃のま
んまや、成長してへんのかいなふたりとも」

その頃の記憶のほとんどを共有する相手との会話はタイムスリップ効果満点でただ苦笑。

「はじめから部屋でって設定にしといたら良かったんやなぁ」

首をすくめたまま見渡してるしげ。

「仕方ないんでしょ?最初がここだったんだから」

さっきあなたが言ったんじゃん。

知り合ってどれくらいだったか、人見知りしてた(らしい)しげもやっと地を出し始め
てちょっとずつ音がカタチになってく感触にふたりしてのめり込んでた頃俺らに届いた
朗報。『山口山口!社長が僕らに名前くれるって!』『ぇ、うそ、マジで!?すげえじゃ
ん!』『やろ?やろ?』『なんて?』『TOKIO』『TOKIO?』『日本の首都み
たくでっかい存在になれ、やって』『すげえっ!』『すごいやろー!』『すげえよ、す
げえっ!!』『ここから始まるんやー僕らのTOKIO』『祝おうぜ!』『そやな、祝
杯や!』って祝ったのがここ…合宿所の裏にある(あった、だな)ちいさな公園、そい
で今日。

こんな都会の真ん中に児童公園の必要性があんのか?なんて暇潰しの話題にもなった公
園だけど人の出入りが多い合宿所からの軽い逃避所としてよく使わせてもらった。
外だから乾杯はかわいく缶コーヒーで。あの頃からしげのプロ意識は完璧だったっけ。

そういえば会話もはじめの頃は『これからよろしく山口くん』『頑張ろうね城島くん』
そんなよそ行き口調だった…のがいつの頃からか『いつになったら芽ぇ出んのかなぁ、
茂くん』『くさってもしゃあないやん、頑張ろ、山口』そんな会話になって気がついた
ら『そこのフレーズもっかい弾いて?しげ』『ここか?』…そんな感じになって現在に
至る。



「金も無うて仕事の帰りよう歩いて帰ってたよな」
「そうだねぇ」
「音も思うように合わんで」
「よく衝突したっけ」
「もう口聞かへん!とか宣言したりなぁ」
「お互い強情だったしねー。でも結局はおんなじ道帰ってたよね」
「そうそう、無言のまんまずっと隣歩いて」
「ここまで辿り着いたら必ず一休みしてから帰ってた…冷戦状態無言のまんまでも」

うんうん頷くしげ。半分この缶コーヒー1本の金さえじゃんけんで真剣勝負。暇と野望
だけはあったあの頃。がむしゃらに掻き鳴らしてた楽器、衝突と冷戦と和解を繰り返し
て覚えた『呼吸を合わせる』という事。

喜怒哀楽すべてが詰まった日々…俺の、多分あなたの根っこもきっとあの頃に繋がって
る。だからここへ還る。

「ほんま世話になったわー、ここ」
「しげの姿が見当たんなかったら真っ先に覗いたもん」
「……息詰まりそうやってんもん、やって。人の出入りは多いわまとわりつかれるわ」

人見知りすんのに律義に相手してやってたよねそういえば。


「…くしゅん!」


しげのちいさなくしゃみで現実に立ち返る。開けた缶一本分のぬくもりなんてあっと言
う間。俺でさえ冷えてきた気がすんだから少なくとも俺より長くここにいたしげは…。

「わ、冷て…冷た過ぎ!ヒトとしてその体温はどうよ?一応恒温動物のくくりなはずだ
よねあなた」

手を伸ばし触れた頬は外気に冷えてびっくりするほど冷たかった。人間の体温じゃねぇ
ぞ、これ。

「手袋さえしてへんお前の掌がこんなに温いって方が僕には信じられへんねんけどなぁ
…もしかしてヒーター内蔵してんちゃう?高性能の」

やったらあの夏の汗の量も納得いくわ…減らず口を叩く頬を両手でごしごしこするとよ
うやく表面がちょっと暖かくなってきた…だから手を離して立ち上がる。

「移動しよ」
「ぇ?」
「これ以上ここにいたら凍るってあなた」

DASHで使うサーモグラフィでみたら多分顔とか真っ青か真緑なんじゃね?

「けど…」

まだ言い分のありそうな腕を引き上げる。

「ほら」

しゃあないなぁ、山口強引過ぎやわ…寒さにより丸まった背がのそのそ、そんな擬音が
ぴったりな感じで立ち上がる。

ひとしきりぶつくさ言ったしげはだけど口を閉ざして背筋をすっと伸ばすから。

柏手を打つ音。
外そうかどうか迷った素振りのあげくそのままの両手…手袋してるからぱんぱんじゃな
くぽふぽふって感じでくぐもってちょっと間抜けな音。

一心に祈ってるしげの横顔をみつめる。

『言霊』を信じてる、以前そう言ったこの人はそれだけじゃなくそんなのすべてをひっ
くるめた『やおよろずの神々』の存在をも信じてる…て言うか『敬ってる』。

あの日、祝杯もあげてさあそろそろ帰ろうかって時にしげ(その頃はまだ茂くんって呼
んでたけど)が見せた不可思議な仕草、そして聞いたその意味に目を丸くして『いくら
なんでもこの20世紀に』そう言った俺に『なに言うてんねんな人間なんて自然にとっ
たら新参者やん…センパイに挨拶するんは当然の礼儀やろ、それもこんな節目を見守っ
てくれてる神様に』とけろりと言い放って、『それに日本人は元々『むかーしむかし』
の昔話の頃からあらゆるもんに神様が宿る、言うて拝んで来たんやん?…やおよろずの
神々て言うやんか』そうまじめくさった顔で言いながら『八百万』と地面にそこいらの
小枝で書いて見せたしげ。

いい意味での『区切り』にしたいやろ?今日を。そのためにこれからも走ってくから見
守ってて下さい…って今日の、今までの僕らを見てはったこの場所の神様に挨拶してお
願いすんねん。山口もほら手ぇ合わせぇ、て…と俺にもさせようとする。

「…………じじくせぇー」

いったいいつの時代に生きてんのさ?明治の頑固じじいかよあなた…思わずそう呟いた
けど、目を閉じ祈ってる横顔がしんと静かでなんて言えばいいのか…真摯で凛としてて
普段俺に向かってくだらねえダジャレばっか言ってる人と同じとは思えなくて…その空
気に飲まれたまんまただひたすら彼をみつめてた。

さっき聞いた言葉を反芻する。面くらいはしたけどその考えはこの人らしい…らしくて
悪くない。むしろなんだかすとんと俺の腑に落ちて。

その後海と向き合うようになって『人知を超えた何か』の存在を何度も身に感じ、村で
昔からの生活に火の神、水の神、田の神、竈の神から厠の神なんてのまでいろんな神様
が生きてるのを昭雄さん達から教わった頃にはもうしげの仕草も考え方も俺にとっては
『当たり前』なものになっていた。

神社や寺とかで手を合わす、それは神仏を敬う最もポピュラーな形でもちろん祭られて
いるそういった場所にも神や仏はいるんだろう…だけど次々と姿を変える波、それに水
平線を別世界に染める朝最初の光とかの方にこそ『なにか』が棲んでる、そんな気がし
て俺はそんな時こころの中で手を合わせる。
(『棲んでる』ゆうんはあまりにも失礼ちゃうか?『おわす』とか百歩譲って『いては
る』とかやな…もうちょい表現の仕様があるやろ、ってしげには突っ込まれたけど俺の
感覚には『棲んでる』が一番しっくりくる)
第一神でも宿ってなきゃただの(と言っちゃ語弊があるけど)米と水からあんなにうま
い酒ができるはずはないしあんな不思議なカタチに凍らないだろ水車の氷も。

だから。
『信仰する』って言うより『一緒にやらせてもらいますんでよろしく』とか『場所お借
りします』『見守ってて下さいね』そんなスタンスで向き合うようにしてる…しげは
『共にある』って言ってた。うまい事表現してるよ、さすが。

「何ぼーっとしとんの?」

怪訝顔で言われて我に返る。改めてしげの隣に並んで手を合わせた。

『ここがすべてのスタート地点だから』だから毎年立ち返る。立ち位置の確認とここか
ら新たに始めるそれぞれの一年それぞれの一歩を互いに恥じないものにするために…ま
あそんな風にとらえてるのは俺だけかもしれないけど。

次の一年も『ここに』『しげに』胸を張れる一年にする事を誓う。
そして、もうひとつ。

目を開けるとじっと、しげが俺を見てた。
ふわり、花がほころぶような笑顔に微笑み返す。

「行こ」
「ん」

今更ながらにぶるり震えるしげの肩に手を添え振り返りふたりして一礼。
こころの中でも……そしてもう一度願う。

あの日と同じにふたりして歩き出す。
『時は流れない、それは積み重なる』…そんなどこかで耳にした洋酒のCMのキャッチ
がふと頭を過ぎった。

                             end.

******
開設1周年感謝第一弾;
お分かりのことと思いますがそんなに以前から彼らをウオッチしていた訳ではないので
設定を借りただけとご承知置き下さい。

しかし、これで茂さんが風邪を引いたら『対兄ぃ』と言えど文句のひとつも紫さんは言
えるのだろうか…それがとても気にかかります。



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