『聴いたよあれ。
ごめんな、そこまで疎まれてたとは思わんかった…………………………………もうこれ
以上みんなの足引っ張らんように僕消えるし。今までありがとぉ』
明日は収録で久々みんなに会える、そんな高揚に顔のしまりのなさを自覚する秋の日。
仕事終わり気づいた携帯のメッセージは俺をパニックに突き落とした。
名乗ってなくとも聞き違えるはずのない声。
ぇ。
なに。
なに言ってんのよあんた。
しばしフリーズ。
うそ。なんで?
ねぇ俺なんかした?なんか言った?なんで俺があんたを疎んじてるなんて思うのよ?
一時間ほど前に吹き込まれたそれを繰り返し再生して必死に考える。そんな寂しげなトーンであんたを
喋らせるような何をいったい俺はやらかしたんだ?
あ。
思い当たったのは自分が担当するラジオでのコメント、こないだの缶けりについてペアだったあの人に
関しての。
『もう使えなくてどうしようもなくてですね。なら、ペアを変えてくれってスタッフに懇願したんです
けど断られてね…俺は負ける訳にいかないんだからやるんならちゃんとやってくれってんだ』
たぶんそんなニュアンスのことを調子にのってポンポン喋ったような……昨日だ、オンエア日。
一瞬にしてざぁっと体中の血が下がる。喫煙所の壁に思わず背中を預けた。
いつもの感じでいじったはずだった『あれ』を今回に限ってあんたはマジにとったって?
マジ?
うそ、やべぇ。
どうしよ。
頭ん中その3語しか浮かばない。
そんなタイミングで突然鳴りだした携帯を俺は危うく取り落とすところだった。
慌てて確認すると発信者は太一くん。
地獄に仏、相談にのってもらおうとボタンを押し「太一くん?」そう呼びかけた俺の耳に飛び込んでき
たのは不機嫌がもろにわかる低い唸り声。
「松岡、お前いったいどういうつもりなんだよ、リーダー追いつめやがって。
事と次第によったらただじゃすまさねぇからな……あ、待ってよリーダー!止めてっ!山口くんっ!!」
ぇ。
何がいったいどうなってんの?太一くん?
兄ぃ?!
そこにいんの?リィダァ!?
街のノイズに混じって揉み合うみたいなガサガサ音。
「お願いや、山口……はなしてっ」
「シゲっ!やめろ!早まんな!松岡も、お前なんとか言えよっ!」
距離があるのか遠く聞こえるのはリィダァの叫び、それに続く兄ぃの声がめちゃめちゃ焦ってる。
ぇ?ぇえっ?
予期せぬ展開に頭ん中真っ白になりながら携帯に向かって叫んだ。
「リィダァそこに居んの?!リィダァごめん!マジごめん!この通り!そんなつもりじゃなかったのよ!!
いつものことかもだけどたしかに今回あのラジオの言い方はキツかったと思う!
俺が悪かった!ごめん!ごめんなさい!ほんとはこれっぽっちもあんたのこと足手まといだなんて思っ
てねぇ!今まで思ったこともねぇ!!ほんと!……………むしろ今回リィダァと組めて嬉しかったって!!」
この際恥も外分もねぇ、リィダァに消えられるくらいならいくらだって言うさ、ほんとのとこ。
「…だってさ、どうする?」
あれ?
さっきとはえらくトーンの違う太一くんの声、に続いて…。
「………………ほんま?」
小さく怯えたような口調が問いかけてくる。
「ほんとだって、信じてよ俺のこと!!」
元々俺の発言に端を発する話なんだってのなんかすっ飛ばして言い募る。
向こう側で何やら小声で話し合う気配、ののち。
めちゃめちゃ威圧感ある声の兄ぃに場所を指定され今そこに移動するタクシーん中。
リィダァお願いだから俺のこと許して、ただひたすらそれだけを祈り続けた。
***
「ちょっとあれは可哀想だったんじゃね?今頃こっちに向かいながら確実に寿命縮めてんぞ松岡『リィ
ダァの身にいったい何が?』って」
「だよね、本心であいつがリーダーを嫌えるわけないのなんか百も承知の上でこんな小芝居…なんだか
あいつがすげえ哀れになってきた」
一方。
さっきまでの緊迫した空気とは180°違うのんびりまったりな雰囲気で会話を交わすのは上3人。話
の片棒を担ぎながらも弟分の胸のうちを思いやる兄が二人。
「そりゃ僕もちょっと胸痛むけど」
二人からの視線をやや気まずそうに受け止めた城島は「けど」と続ける。
「いくら今のご時世が『ツンデレ』とかそんなんが流行りやゆうたってや、それは『ツン』も『デレ』
も両方わかりやすう垣間見れてそれでナンボ、のモンやん。
もしもあの子の僕に対する態度が太一やぐっさんのいうその『ツンデレ』なんやとしたって、あの子の
場合当たりのキツい『ツン』ばっかり目立ってもうてや、あいつのカッコつけん中に可愛げある『デレ』
を透かして見んのは難しない?
それをうわべに惑わされることなく見切れんのなんてきちんと僕らを見て理解してくれてるファンの子
らだけなんちゃうかな」
現に『松岡くんリーダーをいじめないで!』って手紙がまた来たよ、とかこないだもあいつ言うてたし。
「そういえば聞いたな、そんな話」
「……あいつ自体は『これも俺のツッコミが万人に認められてきてる証よ』なんて凹むよりむしろなん
だか得意気だったけどね」
ピンのゲスト出演でも自らの番組でもライブトークでも城島の話題に触れずにはいられない等ファン
には松岡から城島への愛は『だだ漏れ』状態に見える。が上っ面だけ見るとどうしても城島をオチに
つかうことが多いため『いじめ』っぽくも見えるらしい…それはすべて城島のツッコミ担当を自認
する松岡の照れ屋でカッコつけでなおかつメンバーラブ、そんな複雑な性分に由来するのだが。
(ついでに言い添えると言葉の端々にその城島やメンバーへの愛が滲んでいることに自覚がなく
上手く隠しおおせてていると本人が固く信じているのがさらに松岡がやっかいな所以である)
「あの子そんなとこいまいちわかってへんし意識してやってへんやろ?ファンの子の前だけやなくいろ
んな場面で僕の名前出すし。わかってくれてる人はええんやけど、世の中そううまぁはまわらへん。
レポーターなんかにそんな些細なとこつつかれて痛ぁもない腹探られたり『TOKIO不仲で解散か?!』
なんて書かれるんなんてあほみたいやん?
やからこんなんも必要なんよ、たまには締めとかんと」
「…ま、その言い分にも一理あるか」
「シゲにそこまで読み切られてるあいつが不憫な気もするけどね」
いつものことながら城島の論理に『ん?』と思いながらも頷かされる。『TOKIO』を続けるために
マイナス、そう判断した時のフットワークの軽さに驚いているうちに話に引き込まれるのがいつもの
パターン…そう今回のように。
「たしかに………けど、ならあいつ来たら後はできるだけ凹んだ様子で喋らないでいてね、あとは俺ら
に任せて」
「そうだな、シゲはうつむいて俺らの後ろにいてね、何があっても守ってあげるから」
「了解…って自分の身ぐらい自分で守れるわ、それにどんな不測の事態がある云うねん、松岡相手に。
けどや太一もぐっさんも僕に無理やり引き込まれたとかいうてた割になんかめちゃめちゃ楽しんでへん?」
「そりゃね」
「やるなら徹底的に、が俺らのモットーじゃん?」
松岡の到着を待ち構えながらにやり交わす笑みは彼らが十二分に楽しんでいることの表れだった。
TOKIOの平和はこうやって保たれている……。
***
にっこり微笑んだ裁きの天使な二人の下した『1ヶ月間公の場でのリィダァの話題禁止令』に松岡が卒倒
しかけるのは合流して15分後の未来。
end.