お?!なになにシゲ、すげぇ美味そうじゃん

背後から覗き込むようにかけられる声がうきうき弾んでる。その正直さに僕は竈の前で
こっそり笑いを噛み殺しながら声をかけた。







on the way.-道の途中で-








「村長のところで手ぇあろてきぃや」
「うん、すぐ手伝うわ」
「…や、大丈夫。こっちももうすぐ完成」

色鮮やかに茹った枝豆。揚げ茄子の煮浸しにうざく、かき揚げ、冷やしトマト、自家製
糠漬けに里山の山菜でつくった炊き込みごはん。それに明雄さんが持って来てくれた秋
の香り、初物の焼き松茸。

『体の中から暑気払い』が今日のテーマ。
明雄さんにも手伝ってもらい大皿に盛り付けながら僕はひとりじんわり感動していた。

「枝豆の緑に茄子の紫、かき揚げは黄色やろ…そいでからトマトの赤。うん、彩りも完
璧やね。それに食糧自給率、先進国中最低レベルや言う国での『コレ』は結構すごいん
ちゃう?」

思わず零れた一人言。

「お、いいね、うまそー…で、何がすごいって?」

声に振り向くと山口がすぐそばに立っていた…お前いったいいつの間に?
驚く僕を尻目に情けなさそうに腹をさすっている。

「ねぇ、これ運んじゃっていい?もう腹減って腹減って」

カメラがそんな僕達を追いかけているのを見て僕は茂子の口調で

「ええよ。運んで。冷めんうちに食べよ。早よう、早よう」

とあいつを追い立てるフリでおどけて見せた。

にぎやかな夕餉が始まる。
歓声と比例するようにあっと言う間に消えて行く机の上の料理。
もちろんカメラが止まればマグナムドライとスーパードライがその場に興を添えて……
なんや、考えたらどっちもドライなんやな。






***





ちりん

風鈴の音。
ぼーっと月を見上げてたらガシガシ頭をタオルで拭きながらあいつが戻って来た。

あーいい湯だった、生き返ったわって……お前も僕のこと言えんくらいおっさんやん。
その発言はあかんやろ。で、コップの焼酎一気飲みかい!
いくら今日は泊まりやからて…。
明日の朝合流する3人にどんな目で見られても知らんからな、せっかく超久々に村に5
人揃うのに。

そいでから。
なあ、せめて甚平の上くらい引っ掛けたらどないやねん、スタッフはみんな役場の方に
戻ったゆうたかて…。

以上、縁側に腰掛けほこほこ湯気のたつ山口を見上げながらの僕のこころの中でのひと
り突っ込み。

「なにひとりで百面相してんの?」

どかり、となりに座り込んで不思議そうな表情の山口に首を振ってまた空を仰ぐ。

月があたりを照らす。その明るさに星が霞むくらい…ほんとなら光害に邪魔される都会
の夜空でも探せるはずの『夏の大三角』さえも。それとももうそろそろ秋の星座なんか
なぁ…そんな事をぼんやり思った。



…?
視線を感じ顔を巡らすとじっと僕を見てる山口。

「なん?」

僕の問い掛けに答えずに山口も空に視線を移す。

「ねぇ、さっき料理ん時さ、いったい何がすごいって言ってたの?」

鳴き出した虫の音に被さる同じくらいのトーン、夜空を見上げたまんまの静かな声…ま
だ覚えてたんや。簡単に説明する。

「そっか…今日の食材ってほんとにほとんど村で俺らが作ったやつだったんだよね」

ちょっとまるくなった目…長瀬ほどではないけれど山口の反応も素直やなぁ、と思う。

「ほんまの自己満な感慨やけどや」

僕の言葉に山口は首を振る。

「そんな風に捉えると俺らも結構頑張ったって思うよね、味付けの基本の塩だって自家
製になったし…………………ねぇ、そう言えばこの企画始めたのっていつ頃だっけ?」

聞きながら頭を捻ってる。

「ぇ?村?んーと6年前くらいやない?僕は候補地として探してた時からやからみんな
より3ヶ月くらいこことは付き合いが長いけど」

記憶を辿り指を折る。

「6年?……もうそんなになるかねぇ」

しみじみとした口調で感心してる山口。

「ここってさぁ、初めて見た時って見渡す限り石だらけ草だらけ、『ほんとにここ切り
開くの?』って言いたいくらいの荒れ地だったじゃん…俺が探してきた場所よりは水に
恵まれてはいたけどさ。だから、シゲと俺揃って一足先にこの地に下り立ったときって
なんだかこっそりふたりして『西部劇に出てくる開拓者』みたいな気分じゃなかった?」

見渡すかぎり緑でむせ返るような葛やらススキやらのミニジャングル。かろうじて今の
役場の建物だけが数十年うち捨てられた無残な姿で立っていた、そんな光景が浮かぶ。

「そやなぁ、ぼんやりやけど今でも覚えてるわ。農協でもろた情報をたよりに明雄さん
に教えて下さいってお願いに行って。初めてで教えてもらいながら機械で草刈って。
そう言うたら最初の一鍬もお前と揃って入れたんやっけ?…仕事やとは言え考えたら結
構ハードやったなぁ」

思わず溜息。

「あの頃だったから出来たんだよ多分。今、一からって言われても無理なんじゃねぇ?
……特にあなたは」

声が揶揄するみたいにくすくす笑ってるのが癪。
だけど『そんな事あらへんわ』って胸張って言い返せる自信もないし。



「なんや当初の『自分達の村を作ってDASH村を地図に載せよう』って言うんからは
目的がえっらいずれた気ぃするけどや」

せめてもの憎まれ口。

初めてだらけの体験。さっき話に出てきた緑のジャングルに少しずつ手を加えて畑をつ
くり、田を開き、日本家屋を再生し、井戸を掘り、露天風呂を、水車を、火の見櫓をつ
くった。
先人の教えを請うて炭を焼き、自前の陶器まで焼くようになるとは思ってなかったけど。

「…そだね、たしかに。言うなら『思えば遠くへ来たもんだ』って?」

山口の茶々。

「うまいこと言うなー。そう言うたら鉄矢さんの歌にそんなんあったっけ」

♪思えば遠くへ来たもんだ…、

鼻歌で歌ってみる。そこのフレーズしか知らないけど。








「でもさ」

しばらく閉ざしていた口を開きトーンを変えて山口が視線をこっちに投げた。
おちゃらけていない真剣な目が僕を覗き込んでくる。


「今こうやって目の前に広がってる村を眺めながら思ってたんだけどさ」

そこで一旦言葉を切って山口は広がる田んぼを眺めて目を細めた。

「たしかにはじめの頃の目的からしたらずいぶん逸れたし、俺らがデビュー前に目指し
てたアイドル像ともすげぇかけ離れた気はすんだけどさ………もっぺんあの時点、この
企画を立ち上げた頃に戻れたとしてさ、今度は『この企画にのった俺ら』『この企画に
のらなかった俺ら』両方のたどる道がある程度見えてたとするじゃない?

それでも、平坦で無難な道ってのよりやっぱりこっちの道選んでると思わねぇ?俺ら」

やっと羽織った甚平姿、たくしあげたむきだしの二の腕は夜目にも黒光りして。
強気に笑う姿には『いなせ』なんて形容詞が似合う。

山口の言葉を頭の中で反芻してみる…実際には過去なんて編集の効かない一発勝負だけ
ど…たしかに。




「もう今となっては『こっちの道を選ばんかった俺ら』なんて想像もつかへん。いっぺ
んそっちの平らな道を選んだ俺らの今って言うんを覗いてみたい気はするけど。多分、
性格から何から全然別人なん違ゃう?5人とも」

「すっげぇ品行方正なグループになってたりして」
「や、それはあらへんやろ」

「即答なんだ」

声が笑ってる。

「やって、ベースは僕らなんやろ?多少条件が違うとしても元々の性格の根っこまでは
変わらんって」

「それもそうか」

「みんながどう答えるんかはわからんけど。
あんな。
僕らの仕事は『浮き草稼業』なんてたとえられるけど、その言葉通りにどっか文化の
表層に浮かんでる、そんな気がずっとしててん。
僕なんか自ら望んで飛び込んだ世界や………や、けど、どっか不安定な気持ちも同時に
抱えとった」

多分、メンバーもみんな表には出さずともこころのどこかに抱えてるだろう気持ち。
山口は月を見上げてなぜか体育座りでちびちび焼酎のコップを傾けてる。

「そんな時に出会うたんがこの村や」

無言で頷いて先を促す瞳に今は闇に沈む果樹園の方角を見透かす。

「もう三十路に入ろうかってくらいの時期やったのに見たり聞いたり、作業するそのほ
とんどすべてが初体験。体力的にはきつかったけど僕らのやったことが目に見えるかた
ちになって出来てきたやん?
ひとりの人間として、男として上っ面だけやのうて本腰を入れて物事に取り組む姿勢を
教えてもらううちに『こういうのが地に足を付ける』ってことか、ってわかったんよ。
やから。
も一度選べ、言われても迷うことのう、僕はこっちの道を選ぶわ」

あいつらの答えは明日聞いてみようや。
持って回った答えでゴメン、なんでか山口が相手やと饒舌になるな、そういうと山口は
首を横に振った。

「俺も。
やたら移動が長くなった、とか苦労もないとはいわないけどさ、コンクリートに切り取
られた地面じゃ咲けない花もここなら咲き放題。風の気持ち良さも、大地の温度も東
京とは大違いでさ、霜とか台風とかいろんなもんと知恵比べしながらだからいつもうま
くいくとは限らないけど日本には四季がちゃんと巡ってるんだなぁ、なんて感じたりも
するし。
なんだかこっちにいる間は俺自身が『自然の循環の中の一部』になってる、そんな気が
すんの。東京とこっちの生活でもう、『ワンセット』みたいな?」

咲き放題て…………その表現にひっかかりながらも浮かんだ言葉を告げる。

「そやね。
もう、今となったら自分の生活サイクルの一部になってしもてるから今、『企画終了で
す〜、お疲れさまでした〜』なんて言われても素直に「はい、そうですか〜分かりまし
た、お疲れさまでした〜」なんてよう返せん思う。やって、ここは一回限りのロケ地と
違ゃうし、こっちでも生活してるんやもん…………僕ら。
さっきは『わからん』言うたけどや。多分それはあいつらにとってもおんなじとちゃう
かな、納得せんと動かん頑固者揃いやし、僕らも含めて。

やって、考えて見ぃ?今年でデビュー12年、そいで村に関わりだして6年目。もうす
でにTOKIOの半分は村と共に有るんやから」

さっき指折り数えていた時気付いた事実。

「TOKIOの半分は村で出来ています、ってことかぁ」

なんかすっきりした顔の山口がいたずらっこの顔で。
おいおい。

「それ頭痛薬のCMのパクリやから。
それに半分が『村』やったら、『音楽』はどないすんねん!、割合としたらそれ以下や
んか僕らの本業は!?」

「え?村と音楽50:50なんじゃね?」

いや、村50、海30,じゅのん15かな………………なんて指折る表情がけろり、と
真顔なのが怖いうちのベーシスト。

音楽にもうちょっと力入れたってぇや、いくら夏のツアーが終わったからって。





くしゅん!

甚平をはだけたまんまの山口がくしゃみしたから雨戸を閉めて寝る準備。
まぁ、こいつの場合はこのくらいなら風邪の方から逃げてくやろ。

布団を敷いて消灯。
暗闇の中でまだうだうだ話してる。


「さっきの話やけどや……お前やって、もう一方の道選んでたらもしかしたらそんな肉
体派になんかなってへんかもしれへんで?」

『棟梁』なんて二つ名が似合う男。

「どっちみち海に嵌まってたら似たようなもんじゃねぇ?」

苦笑する横顔に敢えて首を振る。


「日常にふつうに転がってる選択肢、例えば『今日は海に行く』『今朝は飲みすぎた
から二度寝する』とか『コーヒー?紅茶?』『いや、今日は気分を変えてまったり緑
茶』なんてちっちゃなもんから、『このオファーを受けるか否か』なんてレベルまで
日々転がってる分かれ道を無数に選び取って、今、僕らはここに居る……そない思た
ことない?」

たまぁに『今ここに在る不思議』なんてもんを感じる瞬間がある。みんな大袈裟な、
って笑うかもしれんけど……僕がおかあちゃんの子に生まれた不思議、それからメン
バーとおんなじ時期に事務所に入って最初はただの顔見知りやったのがいつの間にか
当たり前みたいに一緒に居る不思議。

理屈より直感重視なこいつはきょとんとした目で僕を見てる。

「そんな大きな分かれ道で違ゃう道を選んだんやったら多分そこからの道かて全然、
もしかしたら180度、出会うモノや人かてまったく違ゃうやろ」

「そっか、なら俺はあの時こっちの道を選んだ俺らを褒めてやりたいね。その本能は間
違ってなかったぞ、って」

ふぁぁー
欠伸つきの返事。

おやすみぃ

そんな挨拶のあと聞こえてくる健康的な寝息。

ほんと僕ら本能のグループなんやなぁ、明日、このお話をしたときの3人のリアクショ
ンが楽しみや。そんなことを思いながら僕も夢の世界にダイブした。

                              end.

***

山もオチも意味もない(ーー);文章で申し訳有りません。
おまけに上ふたりしか出てきません、書きだしたころは5人とも登場させる予定だった
のですがふたりがふたりして自己完結してしまい約三人ほど出演させる余地がありませ
んでした。
去年同様お祝いする気持ちだけは溢れていますので。



お読みいただきありがとうございました。感想、つっこみ諸々頂けると嬉しいです。



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