* ドラマ、その次の日 *


その日、久々に収録で会ったみんなはなんだか普段より7割増し僕に優しかった。
メンバーも…それからなんでかわからないけどスタッフまでも。

いつもと同じにぎやかな楽屋で交わされるたわいのない会話、だけど。
いつもならすでにもう間違いなく一発バシッと額に入ってる感じのボケに対して松岡は
突っ込みを繰り出しもせず(いや別に毎回期待して待ってるわけでもないけど)こっち
を困ったように見つめてくるし、太一や長瀬は今日は恒例のドタンバタンを繰り広げる
こともない……それどころか。

「お疲れじゃん、体いたわってよ?リィダァ…あんたむちゃばっかりするんだから」

もうちょいしたらまた恒例の年末進行なんだからさぁ。

打ち合わせを終えて戻った楽屋、丸めた台本で肩を叩きながらふぅと力を抜いた僕に対し
てかけられた言葉。視線を上げると目に心配を浮かべた松岡の後ろであとの3人も茶化す
でもなくうんうん頷いてる…はて?僕、なんかしたやろか。
メンバーだけじゃなく衣装を持って来てくれたスタイリストさんや番組のディレクターさん
にまで同じように言われた。

なんで今日に限ってみんなからそんなこと云われなあかんのやろ?年寄り扱いされんの自
体はようあることやけど…。

まだ残ってたコメント撮りへの移動際『遅めの敬老の日』だなんて言って渡された大量の
湿布に僕はさらに首を傾げることになる。頭に並ぶ疑問符の山、なんなんや?いったい…。
久々出演したドラマのOA日が昨日だったこと(結構いい出来上がりになってた気がする)
くらいしかいつもとの差異を見つけられない。
打ち合わせに出てた間に楽屋で交わされた会話を僕は知る由もなかった。

***

「見た?」
「ああ勿論」
「とりあえず」
「久々なドラマだったし気合い入ってましたよねぇ、リーダー」

「少なくともいつもは『おいおい』って言いたくなるような標準語のイントネーションも
今回一応クリア出来てたよね」

「…ああ、そう言えばそうっすね」
「今気づいたのかよお前、まあ忘れてられるくらいちゃんと発音出来てたってことか」
「言い回しめちゃくちゃ練習してたからなシゲ。村で……………収録前日に」


「そうなんだ」
「ああ、作業中もカメラ回ってねぇ時はずっと。ぶつぶつ呟き続ける『怪しいおっさん』みた
いな感じ?あの集中力には恐れ入るけど。おかげで俺までところどころセリフ覚えちまった」
「『怪しいおっさん』って……………………………ふーん、そんなことしてたんだ」

「そんな羨ましそうな顔すんなよ松岡」
「だっ誰が!誰がそんな顔してるってぇの太一くん?俺?…冗談じゃねぇ」
「まぼ、そんな力一杯否定しなくても…俺はぐっさん羨ましいです、役者モードなリーダー
なんてなかなかお目に掛かれないじゃないすか」
「まあレアっちゃあレアだわな…そのレアっぽさのせいでなんだかいつドラマやっても久々
で、どっちかってえと本人より周りがいつも勝手にはらはらさせられるんだけど」

いつもの楽屋、話題は今ここにはいない人物のようで。

わいわいがやがや昨日の夜の『役者城島』を肴に盛り上がっているところで末っ子がやけに
真面目な表情で口を開いた。

「ねぇ、『役の上』で『芝居』だってわかっててもボコボコにされてるリーダー見んのはキツ
くなかったすか?」
俺あのシーンの時、思わず画面に向かって『やめろ!』って怒鳴っちゃいました。
話の中、倒された自販機を守ろうと必死に覆い被さっている城島の顔に、背に、腹に容赦なく
入れられていた拳や蹴り…そんなものを思い出してメンバーには見える幻のしっぽと耳が垂れ
る長瀬。

「たしかに。『演技』だってわかってても痛そうだったよなぁ、あれ」

もう老体なんだからちょっとは手加減してやれよ、ってTVに対して突っ込んでたね俺は…普
段結構城島に対してキツい物言いの国分も顔をしかめて。

「ラストは救われてたし、だいたいのストーリーは知ってたけどさ、知ってても『あの場面』
見てんのはしんどかったわ」

シゲになにしやがるてめえ!って感じだよな…ほんと。じゅのんも、あいつシゲに可愛がって
もらってるからさ…だからか画面に向かってめちゃめちゃ吠えてたし。
例のシーンを思い出してか視線の剣呑な山口。
「みんなもやっぱりそうだったんだ…話の展開なんて知らねえし、『なにやってんのよリダァ、
ちゃんと逃げねぇと死ぬぞ』、って叫んじゃったよ俺。あの場面なんだかめちゃめちゃ胃が痛く
てさ」

まだ余韻が残るような感じで胃をさする松岡。

あんまり哀れだったからさぁあの人…だから『芝居』だ、ってわかってたけど思わず持って来
ちゃった。そう言いながら松岡がごそごそ鞄を探って取り出したのは大判湿布のパッケージ。

「「「「……」」」」

そこまでするか?と言いたい反面そんな馬鹿な、と笑い飛ばせない自分にも気付く。

「…ほら!年の順で言っても一番労らなきゃ、なのはあの人なわけだし!新曲も出てこれからま
た年末に向かって忙しくなるし!」

三人の視線に気付いた松岡が目を泳がせわたわた落ち着きをなくす。

「いいんじゃねぇ?ちょっと遅めの敬老の日ってことで」

苦笑しつつ助け舟を出したのは意外なことに国分。

「渡したらリーダーなんて思うでしょうね」
「シゲのことだから『俺らから』って言ったら勢いに押されて受け取るんじゃねぇ?訝しがりは
するだろうけど」

「あのドラマ見て痛そうだったから、なんて言ったらあの人すぐ調子に乗ってつけあがるからほ
んとのとこなんて言ってやる必要なんてないしね」

「だね」
「いいんじゃね?」
「そうっすね」
「じゃ、きまりってことで」

「松岡ちゃんと渡せよ〜」
「え〜なんで俺ひとりに押し付けんのよっ?!」
「だってお前が持って来たんじゃん」
「もぉ〜しょうがねぇなぁ」
結局訝しがられながらも城島の手に渡った湿布薬に隠されていたのはこんな真実。



たかだか2、3分のシーンに俺らがこんなに振り回された、なんてさ。
そんな癪なことあんたは一生知らなくてもいいから。
無理だとわかってるから言わないけど笑うのも泣くのも傷つくのもできるだけ、どうか
できるだけ………俺達のそばで。





やはりどこかほかのサイトさんの感想より斜め向きの視点だなぁ;と実感