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〜なんでもあり、又はせめぎあい〜 「ほい、太一」 何気なく渡された数枚の紙束。何の気なく受け取ったけど、打ち合わせの書類か なんかだと思ってしばらく俺は読んでた本のしおり代わりに使ってた。 ゲストの到着の都合で一時間半押しの現場。暇つぶしに今は読書タイム。 「?」 そういや、これなんだっけ。 俺にくれた本人はさっき煙草と台本をもって収録のうち合わせに出ていったばかり。 はじめてその内容に目を通した俺は持っていた本を取り落とした。 「どうしたの?太一君」 横を通った松岡がかがんで拾ってくれたけど、おざなりに受け取ることしか出来ない。 手近な鏡台に本を置くと俺は紙を繰って次々現れる言葉の列に食い入るように目を走らせた。 「…………………………………………………………………………………やられた」 どかりと座り込んでなおルーズリーフを睨む俺にスナック菓子を頬張っていた長瀬が膝 這いで近づいてくる。 「なんすか?……あ、これリーダーの!!」 「なによ、なになに?」 リーダーって言葉に反応した松岡も寄ってきて背後から覗き込む。 へぇーーすごいっすね〜。いったいどんなの考えたんだろうねあの人。もともと リーダーっ子なやつらはリーダーの早業にただ感嘆してる。 ……………けど、ホントにすげえのはその『中身』だよ。 「お前ら…」 続けようとしたところにドアが開いて入りが遅れていた山口くんが到着。 「はぁーー間に合った。けど、相変わらずにぎやかな楽屋だなー」 ドアを閉めた山口くんは俺の持ってた薄緑のルーズリーフに目を留めて口を開く。 「それシゲの詞?できたんだ。やっと」 ちょっとまって。 「やっと?」 だって渡したのおとといだよ?俺の言いたいことを汲み取ってくれた山口くんが 言葉を継ぐ。 「俺にとっては『やっと』」だよ。あの人昨日が一日ずっとソーラーカーなのをいいこ とにやってたんだもん、ほんとにずっと」 おかげさまで一日その言葉の並び替えに付きあわされたんだぜこっちは……………そう 愚痴る山口くんの表情はけど、言葉を裏切って嬉しそう。 「仕事がおわって移動の飛行機でもやってて、俺と別れるときには7,8割ってとこ だったかな」 しっかし、せっかくPC使えるんだから奇麗に打ち直せばいいのに『こういうときは 手書きやで』って、進んでんだかアナクロなんだかわかんない人だよホントに。そう言 いながら山口くんがふと気付いたように聞く。 「なぁ、それで何パターン出来てた?」 「………3パターン」 「「3?」」 ブスッとした顔を隠さずに告げると、長瀬と松岡の顔には驚愕、そして山口くんの 顔には苦笑が浮かんだ。 「3パターンも考えたのあの人?!」 松岡、お前の感嘆はもっともだ。だがな。 「見てみろよ」 俺は3枚のルーズリーフをテーブルの上に並べて見せた。 「「…………………………うわぁ……」」 一枚目には多分『一押し』なのだろう歌詞。二枚目にはそれのさまざまな表現違い。 そして三枚目には…一枚目を『通常の視点』とするなら『逆転の視点』とでも言え ばいいのか、一枚目の歌詞を真逆の視点から眺めているような言葉が並んでいる。 「よくこんなの思い付くよね〜」 「言葉の引きだし、いったいどれだけ多いんだよあのオヤジ」 「ねー太一くん早くデモテにのせてみて下さいよ〜」 「そうだな、ふたりの『合作』どんなのになるか早く聞きてぇ!」 ふたりの言葉を聞きながらふつふつと闘志が沸き上がるのを感じる。 やりやがったな、この野郎。まさかこのまま俺が黙ってるなんて思ってねぇだろうな、 あの人。 「わりいな、もうちょっと手を入れたいとこが見えてきたから出来上がってからな」 「「ぇーーーっっ?!」」 ふたりのブーイングを聞きながら時計を時計を見上げる。……………あと、70分か。 「ちょっと俺出てくるね、時間までには戻るから」 ガサガサテーブルの上の紙を大ざっぱに揃える。今は時間が大事だ。 「あ…さっき廊下ですれ違ったときシゲが『太一に“使うんやったら3Fのリハス タやったら確保してある”言うといて〜』ってさ」 ……………………………………くそぉ!あのオヤジ俺の行動まで読みやがって!! 『倍返しにしてやる!』山口くんの言葉にウケるふたりを睨みつけて俺は拳を堅く 握りしめ無言で楽屋を抜けリハスタヘと向かう。 挑発するんならとことん受けて立ってやろうじゃねぇか。 『合作』の筈がいつのまにか『競作』もしくは『勝負』にすり替わっていることに この時まだ俺は気付いていなかった。 fin. ***** こうして生まれたのが「VALE-TUDO」ってことにしておいて下さい。 ホントに「なんでもあり」「せめぎ合い」って言葉がぴったり、茂さんと太一さんが 『がっぷり四つ』に組んだ曲って感じがします。 ライブのあの長城のべりキューなステップ込みで大好きです。 格納庫 top |