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『えりあし』 珍しく雪が溶けた。こんなのを『小春日和』って言うんだろう暖かな陽射しを太陽光に弱いオレは縁側で目を細めながら ぼんやり浴びている。 午前の撮影を何度か中断させたのはオレだった。ドラマなら完璧なのに『村』でのオレは自虐的な言い方かもしれないが 『役立たず』だ。長い時間を村で重ねてなんだかんだ言いつつ段取りも完璧、溶け込みすぎってくらいなリィダァと比較 しても仕方ねぇってわかってるけど、どうやっても動きに無駄が多く余裕がなくて表情が堅い。そうじゃなきゃメンバー とロケに参加できんのが楽しくていつものオレが描く『松岡』って表情から外れてしまう。『久しぶりだからね』って スタッフも気遣ってくれるけど、空回ってる自分をより自覚するだけだった。 ホント久々に来た村。もう何代目かになるカルガモ隊やリンダの視線が『誰?コイツ』そう言ってる気がするのは気のせい じゃない、多分。 なぁ北登、おまえはオレの事覚えてるよな……恐る恐る伸ばした掌、確認するようにフンフン鳴らされる鼻…お愛想 のように北登がオレの手をぺろりと舐めた。 「なあ松岡」 振り向くと明雄さんやマリサと喋ってたはずのリィダァはいつの間にか立ち上がって『ふぁぁぁ〜』と気が抜けるような 伸びをひとつ。 「なによ」 「オマエいつ以来やっけ…とにかく久々の村やろ?ちょっと一緒に歩かへん?」 「へっ!?」 多分オレはマヌケな顔をしてたに違いない。だって、今は昼休憩でカメラが回ってる訳でもなかったから。 きちんとカメラ割りまで計算するこのひとの事だからこのセリフは『素』のオレ宛てって事だよな。 滅多にない言動に呆けてるオレの態度をどう解釈したのか『疲れてるみたいやな、またにしよか』なんて小さく呟いてヒトの 返事も聞かずに背を向けてひょこひょこ歩き出すあのひと。 おいおいちょっと待て。待ってって…ねぇ待ってよお願い、リィダァ! 「なによリィダァ、散歩ってホントに年寄りかあんたは。しゃあねえなぁ、付き合ってやるよ」 ぞんざいな言い方で内心の動揺を抑え北登に『またな』と手を振って埃を払うとオレも立ち上がる。 「リーダー松岡さん再開一時からなんでよろしく〜」 ディレクターから掛かる声にヒラヒラと背中越し左手を揺らして『了解』のサイン、ぽてぽて歩く背中を追う。 急ぐオレの姿が親鳥の後を必死に付いてくヒナみたいだって明雄さん達の声が聞こえたけど、普段ひょこひょこ歩き なのにこんな時だけあのひと素早いんだから仕方ねぇじゃん。 追い付いた目の前30cm、ぴょこぴょこ揺れるあのひとの後ろ髪。日に映えていつもより三割増し茶色。 歩調を緩めてくれたリィダァとしばらく今の村の状況とかコヤギがでかくなったとか話をしながら歩く。 「冬の空って高いね〜」 いい天気だなー空を見上げて伸びをひとつ。 「下見んとコケんで〜」 あのね、アンタじゃねえんだからコケねえよ。オレを誰だと思ってんの。 リィダァは里山への際にあるちいさな池の縁までくると立ち止まった…ぁ、ここ夏の里山探検でリィダァと兄ぃがトンボ 捕ってたトコだ。 ひとつの池だかひとつの村だかにいっぴきしかいない『主』だっていう、たしかええと『オオルリボシヤンマ』。 それを捕まえようと躍起になってたリィダァ、それをさりげにアシストしてた兄ぃ。結局やたらふりまわしてたこの人の アミにその『主』が引っ掛かったのは天の配剤かそれともカメラさんの横でリィダァの方へすげえ迫力でトンボを追い込んで たっていう兄ぃの執念か。 「ここって前にリィダァと兄ぃでトンボ捕ってたトコじゃない?」 「ぁ、見とった?」 「見たよ見た見た、すっかりちゃっかり『正しい夏休み』満喫してたやつでしょ?絵日記書きたいくらいだったよね」 「そう見せたあて作ってんやから『その感想』は正解なんやろうけど、結構きつかったで?あれ」 苦笑する口元。 「いーやあれは仕事の顔じゃなかったよ。『オオルリボシヤンマ』だっけ?あのトンボ捕まえた時のあんたは」 オレの指摘に軽く見開かれる目。 「よう覚えてんなあフルネームで。まあ確かにあのトンボの親玉つかまえたんはちょっと嬉しかったけど」 「親玉ってなんだよ、その言い方。でもな〜いいよなぁオレももっと村で『正しい夏休み』したかったな〜」 「うらやましかったか?オマエ忙しかったもんなぁ。まぁ夏まつり出れただけ良かったやん……けど若い衆が来て力仕事 してくれたらおっちゃん助かんねんけどな〜」 労るようなからかうような言い方の裏に透けて見える心配顔。 「だからそーいうのはオレじゃなく事務所に言ってくれって」 軽口には軽口で返しながら『どきっ』こころの隅がオレの意思とは関係なしに跳ねたのを自覚した。 メンバーの口から、ましてや画面を通してしか移り変わって行く温度や風を感じられないオレは放映を見て『村の夏を 追体験』っていうよりなんかやたら『置いてかれる』感が強かったから。 長瀬も似たような事を感じてたみたいだったけどあいつは『その分いっぱい楽しんで帰ろ!』って言ってたから向かってく ベクトルの差はオレらの性格に因るんだろう。 「そやなぁ、ほんまに言うとくわ。『いつまで年寄りばっかり働かすんですか』って」 「いつまで年寄りキャラ被ってんだよ!」 突っ込みを入れた手をカメラもないから素早くかわしてあのひとが笑う。 「やっと松岡らしゅうなったかな」 …ぇ? 「オレはいつでもオレだって」 「いや、なんかさっきまでの松岡、『借りてきた猫』ならぬ『借りてきた松岡』て感じやったから」 すっかりお見通し、なその眼力にちょっと脱帽。侮れないヒトだねホント、シャクだから素直に言うつもりなんてないけど。 話の矛先を変えようとオレはここしばらくの疑問を口にする。 「ねぇ、リィダァ。なんで襟足伸ばしたまんま切らねぇの?城島茂史上最長なんじゃねぇ?」 今日はいじられてないからストレートな毛先は肩口から8cmくらい下。 「……んんー?これか?これはなぁ……」 なんだよ、溜めんなよな。 リィダァは笑みを浮かべ、地面から小石を拾うと池に投げ入れた。鏡みたいな水面に広がる同心円の波紋。 「この年末前からいつもにも増して目ぇ回りそうな忙しさやったやん?ボク等。やから、この慌ただしさの中でみんなが ちゃんと活躍できますように、そいでから調子崩しませんようにって『願』がかかっててん。」 なんせ僕はTOKIOのオカンやからな…言ってる言葉はいつも、いやいつも以上にクサイのに今日はこの人の言いたい ことがすっと胸に届いた。 『かかっててん』ってコトはもういいんだろう。だからなんだかんだ水を向けてものらりくらりかわしてたのか。確かに結構 古風なところのある人だからそれぐらいするのかもしれない、ひとりで。 どっこいしょなんて定番の声でベンチ風に置いてある切株に腰掛けるリィダァ。 その後ろで日に透けてきらきら映える襟足を掬う…ちょっと痛んだ感触。理由を聞いたらもう切れなんていえやしない。オレは 指のすきまからさらさらこぼれる茶色を無言で手の中に閉じ込めた。 「でもな」 向こうを向いたまま掛けられたクスクス笑いの声に我に返る。人が柄にもなくじ〜んとしてんのになによ。 「伸ばしてみてわかってんけど、温いで〜これ」 そう言いながらうしろ髪の端っこをつまんでちょいちょい揺らすリィダァ…そりゃそうだろ。 「なんせウール100%やからな」 『さわってごらん、ウールだよ?』なんて昔の擦りきれたコピーを吐きながらくるっと振り向いたリィダァは正しくアイドル スマイル、なのに目だけはいたずらっこのそれ。 「…うん、そうだね……………っておまえはヒツジか!ヤギか!ウサギか!キツネか!アルパカか!ラマかー!!」 返せ!オレの感謝! 「さすが松岡やなぁ、リャマやアルパカまでいくんや〜すごいなぁ」 ノンキに笑いながら感心するリィダァに渾身のでこ突っ込みが今度は狙いたがわずきれいにヒットした。 その後。 「なぁ松岡、悪かった!やから八木橋のエサにだけはせんとって。もうツアーやんギタリストおらんかったら困るやろー?」 ヤギは草食だって…その位わかるだろうがあんたなら!!ちょっと涙目で言い募るリィダァの襟首をジョークで引きずりながら オレはやっといつものペースを取り戻せた事を実感していた。 これで昼からの撮影はもう少し捗るだろう。 end. この間やっと長崎で念願の太陽光車ドライブ(しかもリィダァ付き)に復帰された松岡さんをたまにはしあわせにしてあげたいな… と言う事でリィダァとふたりで村に置いてみたらこうなりました。(しあわせになったかどうかは不明(爆))ホント時々は村に顔出し てほしいですね。忙しいんだろうけど。 茂さんのながい髪、アレンジ自在なので好きです。(告白) 格納庫 top |