『カッコウ』もしくは『空の巣症候群』




ごろり、寝転んで見上げた秋の高くて広い空には真っ白な雲が浮かんでいた。

「はぁ…」

零れた溜め息が思いの他大きく響いて驚く。
どこまでも高い空、刈られた田の上には秋にも囀るひばり。
上空は風が強いのか雲が足早に移動している。

「風に…ふかれて…歩いて…いくのさ」

ふといつか覚えたメロディが口をつく。もう何年前になるのか、指令ひとつでひたすら
海外をさすらっていた二人組が歌っていた歌…たしかフミヤさんが作っらはったんやっ
たっけ。漂う旅人の歌、そんな感じ。妙に今の気分にシンクロする。

ここのところななんだかテンションが低い。
一番好きな季節なのにそれを楽しむ余裕もない。

今日もそう。
起きたら外は冷たい雨でおまけにちょっと二日酔いで…今日は久々な村やのに。天気と
似た気分のまま乗り込んだ車がここへ辿り着いた頃には雨は上がり青空も覗いていたけ
ど、後発のクルマが事故渋滞に嵌まったらしくただいま機材とメンバー待ち。
だからこそスタッフに許可を得て僕は今お気に入りの場所-果樹園横の日溜まり-に寝転
んでられるのだけれど。

どこまでも高い空。
それに比べると今感じているモヤモヤがやたらちっぽけなモンに思えて目を閉じる。
瞼を透かして感じる太陽は夏場のギラギラを取り去ってふんわり暖かい。
迷いも一緒に天日干しできたらええのにな……そんな益体もないことをふと思った。





かさり…。物音に目を開ける。
どうやらいつの間にか眠ってしまったらしい………急速に覚める意識。
いったい今何時や?!
がばり起き上がりあたりを見回してると声がかかった。

「起きた?」

そこにはひとひとり分あけたくらいの場所に腰を下ろしてなにやら台本を手にしてる山
口。気付けば体の上にはほぼ僕専用みたいになってる薄手の毛布がかけられていた。役
場からわざわざ持って来てくれたらしい。

「ごめんな。今何時?撮りは?」

焦って聞くのに返ってきたのは。

「んー?大丈夫だよ、まだ」

……なんて、緊迫感のないのんびりした返事。
僕の眉間の皺に気付いたらしく苦笑してる。

「まだあと1台着いてねぇの。そいでから機材トラブル。トランスミッター調子が悪く
て音が拾えないらしいよ。修理できるかやってみるって」

無声映画みたいに撮って後から声を入れるって訳には行かないでしょ?だから。
そんなこんなしてるうちに着くんじゃね?あいつらも。そう言って肩をすくめる。

「そうか…」

焦った分だけ拍子抜け。またバタリ横になった。

「どう?」

台本を眺めたままかかる声。どうとでもとれる玉虫色の質問……ほんまかなわんなあ。

「なんとか」

そう答えて笑みを浮かべる………と。

「まだみたいだね」

山口がちいさく息を付いた。


*****


俺が『いつもの場所』でシゲを見つけた時シゲは眠ってた、なんだか小難しい表情でこ
んな所でも大の字じゃなく丸まって。こんなことだろうと持って来た毛布をかけても身
動ぎひとつしない。いくら小春日和の陽射しの下だからって。
俺は息をつくと人の気配に敏感なシゲを起こさないよう距離をとって野原に腰を下ろし
持ってきた台本を広げた。





いつの間にか入り込んでたらしい。
俺が下ろした台本がかさり、音をたて、それにシゲが反応する。

「…ん…」

身動ぎしたかと思うと『がばり』そんな擬音がぴったりな勢いで飛び起きたシゲに状況
を説明しながら浮かんだ表情のぎこちなさにこころの中で溜息。
まだ時は満ちず、か。

「どう?」
「なんとか」

それだけで途切れる、まるで禅問答みたいなやりとり。俺の言葉に困ったような顔をし
たシゲはポリポリほっぺたを掻きながら『すまん』なんて口の中でもごもご言ってる。
ほんとに困ったヒトだね。

シゲがたまに…今も嵌まってる『エアポケット』。
すっぽり陥るとなんだか見えない膜に覆われるみたいにシゲが遠くなる。
目の前にいるのに手を伸ばせば届くのにまるで画面越しのシゲに話しかけているような
感覚。現実味が薄れるっていうかシゲから『生身』の匂いがしなくなるっていうか……
………なんだか繭に籠ってる、そんな感じ。

貴方は自分で解決できる人だから、いつもなら俺がするのは時々繭をノックすることだ
け。たわいない話をして、くだらねぇジョークを飛ばして、いつものスケジュールをこ
なしながらシゲの中の時の満ちるのを待つ。
こんなやり方しかできない自分が時に歯痒いけど。

きっかけがあるときないとき、脱皮までの期間もそれぞれ。
今回あいつらは貴方の不調に(太一と松岡は原因にも)うっすら気付いてるみたいだけ
ど気遣わし気な目で静観してる………………………今のところは。
奴等からの無言の要請を受けて今日はちょっと荒療治。

「……そろそろ浮上する気ない?」


「んー……」

いつもならここまで。

けど。今回は違うからね、いつもと。
それに無理矢理にでも浮上してもらわなきゃ困んの。
貴方は今日の主役なんだから。

だから見守るだけじゃなく口も出すからね。




「さびしい?」

いつもと違う俺にシゲはちょっとびっくりしたみたいに目線をこっちに向けてくる。
そうだね。いつもなら自ら繭を破って出てくるまで見詰めてるだけだから。
けど。

「なんだか、本格的に巣立たれた母鳥の気分になってるんでしょ」

今回の繭ごもりのきっかけだと踏んでる話題をストレートにぶつけてみる。
シゲだけじゃない。俺も、あいつらも大なり小なりみんな抱えてる感情。
貴方の感慨が大きいのは分かるけど。







「……オファーがあって、それに対してあいつが用意した『答え』をはじめて聞かせて
もうたときにや………」

ようやく口を開いてそこまで言葉を紡いだシゲは続きの言葉を探すかのように視線を空
に向ける…どうやら俺が投じた小石は繭の中のシゲに届いたらしい。
見上げればどこまでも高い空。

「思いもよらん方向から攻めて来てんのにあいつらしさも満載しかも前向きでオファー
にぴったりなあの曲をはじめて聞いた時『ああやっぱり僕らの枠に収まる奴やなかった
んやな、飛んでってまうんやなぁ』て思てん」

ぐっさんも言うてたのになぁ……『貴方の巣になんか棲んでない』て。

そんなことを呟きながらあたかも遥か上空に飛んでってしまったあいつの背中を探す
ような仕草で目を細めてる。

やっぱり。『アレ』が今回の引き鉄。
それにライブMCの言葉をこんな時に思い出さないでよ、ジョークだってわかってん
でしょうがあんなの。



エンディングプロジェクト始動からそんなに経たない頃に舞い込んできたオファー。
でもCMタイアップがあらかじめ内定してる曲を末っ子のあいつが書くよう仕向けたの
は貴方じゃなかったっけ。
出来上がったデモテをみんなで聞いた時ふと顔をあげた先にあった貴方の嬉しそうな、
けどどこか淋しげな笑みを見た時からなんとなく不安だったんだけど…………。



自嘲的な横顔に膝立ちでにじり寄っていって頭をはたく。
あのねぇ。

「…痛ぁ」

さすりながら恨みがましい目でこっちを見るシゲの久々に見る人間くさい表情。

「いつかニュースで見た『空の巣症候群』とか言うやつそのままじゃん。いつからあい
つの本物のおかんになったの」

「……そんな訳やないけど。浸ってるだけやん」

やっぱり。…………浸ってる『自分』にひたってない?貴方。

「浸るんなら見えないところで浸ってよ」

気になるじゃん、親その2としちゃあさ。

「じゃあお前、おとん?」

第一今回そんなに気ぃ付いてへんのちゃう?みんな。そう笑う貴方。

……けど甘いね、自分の事に関しちゃ。
警戒センサーなりっぱなしだったよ、4人とも。





「あいつってさ、カッコウなんじゃねぇ?」

切り口を変える。

「へ?」

いきなり話題が飛んだことに対するけげんな顔は無視。

「こないだたまたまテレビ見てた時『カッコウの生態』みたいなのやってて、それ見て
思ったんだけどさ。カッコウの親って自分の卵を自分で暖めるんじゃなくヒトサマの巣
に産みつけんだよな」

「………………あぁ、託卵」

「そうそう、託卵、託卵。で、産みつけられた親鳥の方はそれがわかんねぇままいつ
の間にか自分より二回りもデカくなったヒナにせっせせっせ餌運んでやってんの。
またヒナもこーんなちっちゃい親に向かって大きな口あけてねだってんだよ餌を」

なんだかちょっと滑稽なんだけどその反面すげぇ微笑ましかったその光景。
シーンが目に浮かんだんだろう貴方の顔に浮かぶ柔らかな苦笑。

「今回あいつの曲はたしかにいい出来だったけど、なんで1曲でなんでそこまで考える
かな。『手元から巣立つ……巣立った』って思ってんのはあくまでも『貴方』でしょ。
当のあいつにそんな意識はないんじゃねぇ?たとえ追い出そうとしたってあいつは絶対
『自分の巣はここだ』って主張して動かねぇって」

巣立たせたつもりのヒナ鳥は案外停まってると思うよ、貴方の頭の上に。
『でん!』って大きな態度で安心しきって全身のちから抜いて翼休めてさ。

貴方の頭の上に『もう図体は充分デカいのにクチバシだけ黄色くて大口開けて餌をねだ
ってるカッコウなあいつ』の幻が見える気がするわ。ついでに『その大きなカッコウに
対して一所懸命餌を運んでやってる二回りちっちゃなオナガな貴方』も。


俺の言葉に貴方の苦笑が深くなる。

「『三つ子の魂百まで』って言うじゃん。あいつの事だから多分五百歳ぐらいまでそう
叫んでるって。『だって俺出会ってからずっとリーダー達にそだてられたんスもん!』
とか屁理屈言ってさ」

俺の言葉に貴方が笑い出した。

「それにまだギターの『師匠』までリタイアした訳じゃないんでしょ?あいつの。
まだ『免許皆伝』にはちょい早いんじゃない?」

曲が出来た途端真っ先に聞かせにきてシゲの助言に耳を傾けながらギター抱えてフレー
ズの修飾方法とか探してるあいつの表情はまだ甘えてる感全開じゃん。

いつもなら聞かされたメンバーの曲を刺激にして新たな曲づくりに燃えんのにほんと、
今回はらしくない…………それは相手が猫かわいがりしてるあいつだから?

羽ばたいてくのをただ見送るだけじゃなく追っかけてけばいいんじゃん。こっちから。
俺等にだって翼はあるんだから。



「そぉかな…」
「そうだって」

今までだって『置いてかれたくない』そう思って全力だったんだから俺もあいつ
らもみんな。今度は俺等があいつを追えばいい。



考え込んでる貴方と同じようにごろり寝転んだ。どこまでも果てしなく高い空。
吸い込まれそうな深い青。













「昔、悩み事は昼に空を見上げて悩め、言われてん。夜悩むとどうしたって出てくる答
えまで下向くから…て。あんまりピンとこんかったんやけどほんまやな。空の高さを見
てたら自分の迷いがいかに小さいかわかるし、こうやって差し伸べてくれる手にも気付
けるし」


のんびり、いつもの感じに戻ったシゲの呟き。
や…必要とされるなら別に昼間じゃなくても差し伸べるけどさ。


「悩むときは空を見て昼間に、か…………いい事言うね」


「うん」


よっこらせ……そんな声と共に体を起こしたシゲは体いっぱいで『んん〜』っと伸びを
しながら立ち上がる。毛布を畳んで肩に引っかける。

「手ぇかけさしてごめんな」

おかげさんで切り換えられたわ。そう言う貴方の顔は天を仰いでるから見えないけど。

「いいえ〜、お互い様ですから〜」

わざと軽く返して俺も立ち上がる。




「そやな、沈んどる暇はあらへんな。こんどこそ僕の曲でCDシングルや!」

ゆっくり歩き出す貴方のどこかおどけた物言いはどこまで本気なんだか。
第一貴方の曲は明日リリースされるんじゃん、俺ら全員の曲に勝って………。





村を見渡せる井戸の辺りまで来たとき役場から人が出て来るのが見えた。
スタッフに交じっていつもの作業着に着替えた3人も見える。
いつのまにか渋滞を抜けて着いたらしい。

「「お〜い」」

揃えた俺らの声にこっちに気付いた長瀬が大きく手を振る。
その後ろにはどこか気遣わし気な太一と松岡。
頭の上で大きなマルを一瞬作ってやるとホッとしたような表情になった。

「さあさあ、カッコウの大きなヒナがお待ちかね」
「ほんまに『僕より二回りはデカい』ゆう表現がぴったり。言い得て妙やな〜」

妙なことに感心してるシゲの腕を取って駆け出す。
『同じ巣に棲む』仲間の元へ。

「ちょ、ちょっと待ってぇ〜や〜やまぐちぃ」
「ほらほらはやく!」



「「「こっちこっち〜!!!」」」

ほら、あいつらが待ってる。


多分今夜の酒は『新曲発売の前祝い』と『シゲの誕生祝い(イブイブ)』に加えて『シ
ゲの出繭(!)』それに『出戻った大きなヒナ話』で大いに盛り上がるだろう。
太一が同意して長瀬が反論して松岡は心配した反動で突っ込みも全開世話焼きも全開、
シゲは始終ニコニコそれを眺めてる。俺も今日はシゲの隣で高みの見物と行こうか。

『長瀬=カッコウのヒナ 説』を披露するためのベストタイミングをを考えながら俺は
俺に引き摺られたせいで隣でゼイゼイヒィヒィ言ってるシゲに合わせてペースを落とす
とまたのんびり歩き出した。

 
                                 end.

*****

視点が移って読みづらくてすみません。
なんだかちっとも祝えてない気がするのですが;(滝汗)気持ちは最大限詰め込んでますので。
『城島茂』さんという存在が生まれてきてくれた、そのことに無限大の感謝を込めてv


シゲフェス参加作品。参加できて幸せでしたv。再アップ時一部修正加筆。

                           2005.11.12

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