『上達』




のんびりした土曜の昼下がり。
みんな思い思いに過ごしてて今リビングにいるのは茂くんと俺と太一くん。

茂くんがとたとたやって来て見上げてくる。………なになに?

「なあなあ『上達』っていうやん。そいでな『達』って『達也』の『達』なんやろ?」

「ぇ?あぁ、うん」
「…ってことはもしかして『中達』とか『下達』もあんのかな……?」

見上げて来る目線は大発見って感じにきらきら輝いてる。
ちらりみつめる視線の先には土曜の午後にありがちな再放送。どこか茂くんに似た人が
ブルーチェックのシェフ服に身を包んで声を張り上げてる。
へぇ、面白いこと考えつくよね。



「兄ぃにランク付けかあ…『上達』、『中達』、『下達』に『ランク外』そいでから
『特達』?でもどんな兄ぃもみんな茂くんの好きな山口くんなんでしょ?」

無条件、文句なしに一番兄ぃになついてるじゃん。そう言う俺に茂くんは首を傾げる。

「そぉか?」

…自覚ないのね。

「うーん、どんな達也も達也やけどなー、しんどい達也もあんで?」

さらり、ちび特有のまっすぐすぎる物言いに心臓が痛くなる。

「あんなに可愛がられてんのに?」
「やって…達也よっぱらったら僕んことはなしてくれへんやん」


しかめた顔。

ああ。
滅多に酒に飲まれることなんてない兄ぃだけど悪酔いすると…また酔えば酔う程茂くん
を傍に置きたがるから。
酒くさいのがヤだって腰引けてる茂くんにショックうけた顔したりするしね。


「そいでからな、べつにこれは達也だけやのうて智也とかの方がもっとやねんけどな、
あのヒゲでされる『ジョリジョリ』ってほおずり………ぼくあんまりすきやないねん。
太一にもまぼにもされた事あるんやけど」

あれ、なんやぞわぞわすんねんもん、あれがいちばんいらん。

……じゃあこれが『ランク外』ね。
ああ、よくやってるよねー茂くんのほっぺがすべすべで気持ちいいから……って。ぇ、
俺も?!

「いつもきゃっきゃ言ってないっ?!」





焦って言った俺の顔をまじまじとみつめ茂くんはぽつりと一言。

「つきあい、ゆうんやろ?…やから」

あのねーそんなマジな顔で言わないで?!
寿命縮むから!

「へぇ…面白い話してんじゃん。それが『下達』に『ランク外』?なら逆に『上達』は
なに?」

い、いつの間に話に混ざってたのよ、太一くん!?



「んー?『上達』なあ…ふゆとかにくっついてまどんトコでいっしょにひるねすんのん
かなー。ぬくうて気持ちええで?なつはあちちやけどな」

何言ってんのよ、兄ぃと夏の真っ盛りでも汗みずくになりながら一緒に寝てたじゃん、
ラッコ抱きで。

『中達』がいつもの兄ぃなんだそうだ。考えてみたら努力も何もしなくても『中達』…
口が裂けてもいわねえけど羨ましすぎる兄ぃ。


「ふ〜ん。なら『特達』は?」

その言葉に意識を戻す。
茂くんが一番好きだって言う兄ぃの仕草。
参考にさせてもらいましょ。

「んー?そやなー」

首を傾げる仕草。思いついたのかにっこり笑って口を開く。





「「たつやしゅぺさ(しゃ)る!」」

茂くんのにどこからか重なった高めなこの声は…。

「たぁつーっ♪」

その声に、振り向くのと同時に顔を輝かせドアから入ってきた兄ぃに向かって飛び付い
てく茂くん。いつからそこで聞いてたのよ、兄ぃ。

茂くんはがしっと左足にしがみついたかと思うとそのままワシワシ兄ぃのからだをよじ
登ってく。また突然なのに茂くんに飛びつかれてもちっとも揺らがないんだ兄ぃが。
まるで事前に打ち合わせてでもいたかのように言葉もなしに『抱っこ』の位置まで行っ
て一度目を合わせて『ぎゅっ』。

そして片足を兄ぃの腕にかけて……。


「両手乗り!」


な、なにやってんのよ…あんた達!
兄ぃの広げた掌の上に乗り両手を広げてバランスをとってる茂くん…。


度肝を抜かれただ見てる事しか出来ない俺。太一くんはどうやら一足早く立ち直ったら
しく笑い出した。『立ち直り早ぇー』そっちに気をとられてたら今度はいつの間にか体
勢を変えて兄ぃに肩車で嬉嬉としてバンザイ。


「あんたらはキダムか!アレグリアか!!上海雑技団かーっっ!!!」


突っ込みに全精力を傾けたせいで息切れしてぜいぜい言う俺と隣の太一くんを笑顔で見
てる茂くん。

「しゅごいやろー」

まだあんねんで?…得意気な表情の彼に『しげ、なあしげ…あれはだめだって、ここじゃ』
そんな声をかける山口くん。


「えぇーっ?!」

なんでぇー?いっつもはだいじょうぶやん?!そう言いながら山口くんの顔をぺちぺち
叩いてる…って言うか撫で回してるちっちゃな掌。

「こら、痛てぇって。ここじゃ天井にぶつかるって…何度も言ってんじゃん」

口先だけ痛がって見せてるのはまるわかりだって、兄ぃ…ちょっと脱力。


「楽しそー!なに?そんな大技持ってるんすか?」

突然乱入したその声に振り返ればわくわく顔全開な長瀬。
お前もいったいいつの間に…。

「だから続けんなら庭に移動な」

そう言って移動をはじめるふたりについてゆく。

「じゃあもう一度」

その声と共にまた掌バランス。
そして今度は…肩の上に立ってバンザイ。


「みてみてー、今なーー、まぼより智也より背ぇたかいんやでぇー?ぼく」

たしかに見下ろされる視線ってのは新鮮だけど、それも茂くんに。






「じゃ、行くぞしげ」

いつの間にかまた体勢が変わってる。



「「せぇーのっ!」」



楽し気に重なる声と視線。
茂くんが宙を舞う。






「「「……!!!」」」






三人ともしばし言葉をなくてただその光景を見てた。
赤ちゃんにするのならもしかすると『高い高い〜〜〜』と名前がつくのかもしれない
『それ』はこのふたりにかかると……。


「そーれ!」
「もっと!もっと〜〜、たつっ!!!!」


ゆうに1m近く山口くんの手を離れてる茂くん。

茂くんは無理に、じゃなく零れる笑顔で『これ』をこころから楽しんでるのがわかる。
普段はどっちかって言うと俺と同じに高いところが苦手で慎重なタイプだと思うのに。


「怖くないの?」


まだ空中を舞いながら躊躇いもなく俺の言葉に返してきたこたえはシンプルで強烈。


「だって、たつがぼくをおっことすわけあらへんやん?!」


そりゃそうだろうけどさ…。

「「なーっ!」」

にっこり全開笑顔で見交わすふたり。


ふと視線を横に移すとやってみたそうな……っていうか自分がやってもらいたそうな
長瀬、それと『山口くんに出来るなら俺にもっ!』って負けず嫌い魂に火をつけられた
感じの太一くん。

………………………………………………………………………………………………………
……………いくら兄ぃが頑強だってたぶんお前は受け止められねぇと思うぞ長瀬。

おねがいっっ!!
もし万が一にでも失敗したらどーすんのよ太一くんっっ!!!!



この絆へ割り込む道はもしかしたら世界最高峰なチョモランマへの直攀アタックよりも
物理的精神的にハードなのかもしれなかった。

                            end.
                         20051127

*****

今は『高所恐怖症』な気のある茂さんですが、ちびは概して『高いたかい』が大好き
ですから。達也さん相手なら恐怖感はないのではないかな〜と。

本当にありがとうございました!拍手は今この一種類です。

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