have a break
久々爽快な気分で目が覚めた………そして、それと同時に違和感に襲われる。
え?
どこだ、ここ?
状況が掴めなくてビビる。
見上げてんのはぼんやり霞んでるみたいな四月の春の空、体の下に感じるのは柔らかい
草の感触。村、だよな……そこまで考えたら思い出した。
俺、『誘拐』されたんだっけ、今隣に座ってるこの人に。
--Let's have a rest,Let's have a break--
機材トラブルで撮影ストップ、いつ動き出すかわからなくて身動きも出来ずにただ時間
が流れてく。
台本の読み込み、対戦国のデータ収集、右手での箸使い、日本選手のプロフィール、着
付けと所作…やらなきゃ、なノルマは山積なのに……気ばかり逸ってどうにもならなく
て。
そんな時隣に立っていたリーダーが不意に俺の腕を掴んでディレクターに向かって言っ
たんだ。
「すんません、しばらく太一誘拐しますー、ええですか?」
へっ?
間抜けな声をもらした俺。
「誘拐?!」
「あー、『誘拐』ゆうより『強奪』ですかねぇー」
俺とリーダーの顔を交互に見てちょっと目を見開いたディレクターは、だけど豪快に笑
うとOKをだした。
「ああ、いいよ。しばらくならね」
「ありがとうございますー、なら遠慮のう。いつもの場所におりますんで」
そう言ってリーダーは俺の腕を掴んだまま歩きだす。
ちょ、ちょっと待てよ!
「なんのつもりだよ、どこ行くんだよ!俺の意思は?!
俺、今あんたのお遊びに付き合ってる暇なんかないんだよ!」
睨み付けフルボリュームで叫んだのに拘束は外れるどころか逆によりきつくなった。
感情の読めない目が俺をじっと見詰めてる。
「あんなぁ、この場合はお前の意思は関係あらへんのや。
『誘拐』とか『強奪』される方の意思を尊重する誘拐犯て聞いた事ないやろ?」
そう言い切ると俺をずんずん引き摺ってく。
なんでこんな時だけ馬鹿力なんだよ!普段はあんな非力キャラのくせして。
俺の言葉に耳を貸す気のない横顔をみつめて溜め息…しゃあねぇな、こんな時のこの人
(メンバー1頑固なのは絶対この人)に何を言っても無駄だ…………とりあえず大人し
く『誘拐』されとくフリしといてそれからすぐにバックレてやる。
で。
そんなこんなで、誘拐犯なこの人に連れられてきたのが今いるここ…雑木林と竹林の境
界っぽい野原。
「こんなとこあったんだ…窯場からそんなに遠くないのに気付かなかった」
状況も忘れ辺りを見回す。『いつもの場所』って言ってたよね?リーダー……って事は
スタッフも知ってるんだ、ここ。
「あれ?来た事なかったっけ、太一。ちょっと坂登るだけやのに雰囲気変わるやろ?
そやなー『長い雑木林を抜けるとそこは広場だった』…そんな感じ?」
「…くっだらねぇ」
まじめくさった口調と内容のあまりの下らなさの落差に笑うと同時に脱力
……『雪國』(だったよな?)パロにしたってレベル低すぎ、せめてもうちょっと捻れ
ば?
「やっと笑ろたなぁ」
まあ座りぃや…野原に腰を下ろしたリーダーの見上げてくる表情が『誘拐犯』なクセし
てどこか気遣わし気で。
「しゃあねぇなぁ」
そんな憎まれ口を叩きながら隣に座り俺も空を見上げる。
俺達の間を吹き抜けてく風。
流れてく雲、さわさわざわざわ鳴る木々、空にはトンビが輪をかいて。
まるで人工のものすべてから切り離されたような感覚。知らず肩から力が抜ける………
……思いきり伸びをした。移動の車とかからじゃなくこんな風にボーッと空を見上げる
のなんてどれくらいぶりだろ?そんな疑問。
引き摺るだけ引き摺って来て、そのくせ一言も喋らずに煙草を燻らせてるだけの横顔。
『すぐにバックレてやる』って、絶対そう思ってたんだけどな…。
『やらなきゃ』な事は今も山積、だけど今はなんだかもうちょっとこのままこの時間を
過ごしてもいいかな、そんな風に思う。
「どない?」
どれくらいたってからの言葉だったか。
…人の事誘拐しといて一言目がそれかよ?まあ、らしいって言やらしい物言いだけど。
強引なのに控え目…相変わらずバラバラなピースで構成されてるから訳わかんねぇ。
「ま、ぼちぼち」
そうとしか返せない。俺の余裕なさはお見通しだろうし。
あーあ、もうちょっとうまく時間を使わないとな…そんな事を思いながら野原にごろり
寝転んだ。
ケキョ、ケーケキョ…どこかから聞こえる鳥の声。まだ雛なんだろう……いかにも『練
習中』って感じのたどたどしい囀りに思わず笑みがこぼれる。
「なんやろなー、ウグイス?」
「へったくそだなー、まだ子供かねぇ」
「練習中なんやろな、頑張りやー」
「クチバシの黄色いヒヨッコかぁ…けど、あれじゃまだ駆け出し、まだまだ『もっと頑
張りましょう』って感じだね」
「シビアやなぁ、なんもウグイスにまで駄目出しせんでも…せめて『発展途上』くらい
言うたりぃな」」
時たま交わされるそんなたわいもない会話。
ふたり並んで仲良く日向ぼっこ、そんな風に見られるのはすげえ心外なんだけどこの光
景はそれ以外の何にも見えないよなぁ多分、なんてぽっかり浮かぶ第三者的見解………
…まぁいいか、今日は他にメンバーが居るわけじゃねぇし。
視界には薄ぼんやり霞んだ太陽。あそこが目指すゴールだとしたら今の自分が走ってる
のはどの辺りだろう…全力で走ったら届くのか?あの光に。
足掻くように手を伸ばす。
ちょっとでも近付きたい……………………………でもちょっと今だけは。
急に重くなった瞼に素直に目を閉じた。
「おやすみ、太一」
淡い声が俺の耳を撫でていった。
俺の記憶はここまでだ……………そして、現在に至る。
「目ぇ覚めたか」
気付かれた!
内心焦りまくって咄嗟に寝たフリを続ける俺。考えたらそんなに長い時間じゃないだろ
うけど俺が爆睡してた間多分ずっとこの人はここにいて寝こけてる俺のことも見てたん
だよな…………なんたる不覚;
「…適度な休憩は必要なんやで?」
全身耳にしてる俺に気付いてるのかいないのか静かなトーンで言葉を継ぐあの人。
「もしも走り疲れたらや、スピード緩めて歩いたらええやん…そいで歩くんにも疲れた
らしばらくの間止まって休んでも構わへん」
……ぇ?!
『TOKIOとして一生走り続ける』と普段一番口に出して言ってる人らしからぬ言葉
に俺は思わず目を開けリーダーを凝視してしまった。
あ
俺の狸寝入りもすべて見通してたんだろうリーダーは肩を震わせて笑ってる。
くそぉ…。
「なんだよ今の言葉。リーダーがよく言ってるクサいセリフと矛盾すんじゃねえの?
いっつもあんな大口叩いてるくせに」
俺の言葉に何を考えてるのか思案気な目で言葉を選んでるリーダー。
「今僕が言うた言葉はあくまでも『気持ち』の上での話や、あくまでも。
肉体的にもおんなじやけどな結局……そやなそっちの方がわかり易いかなぁ」
ぶつぶつなに呟いてんだよ。
「例えばサッカーの話やとしてや、いくら鍛え抜いて体力ある言うても90分間ずっと
トップスピードで、ってのはプロでもせぇへんことない?」
想定外の方向に飛んだ話に驚きながら言葉を返す。
「そりゃまあね……気持ちにも体の動きにも意識して緩急はつけんじゃねぇ?
目的は別に『ずっとトップスピードで走ってられるか』じゃねぇし、もしずっとトップ
スピードだったらかえって単調で動き読まれんだろうし」
俺の返事が意図通りだったのかうんうん小さく頷く横顔。
「やっぱりそうやんなぁ。僕が今言うてんのはその『緩急』の話や。
最近の太一見てたら『緩急』の『急』しか見えん気ぃしてちょっと気になってな。
まあ、現実には日々の仕事は待ってはくれへんし、目の前にでっかい山が迫って来とっ
て追い立てられる気分なんもわからんではないし……けど、やからこそ今大事なんは
『緩』やねんて。
走り疲れたらスピードを緩めるやろ?たまには立ち止まって、周りやら自分の立ち位置
やらいろんなもんを見回して見るんも大事なんちゃうかな……普段ピンと張ったまんま
のギターの弦もメンテの時には緩めたるやん?」
マネから『寝てる暇なんかないんだよ』て言葉が口癖になってる、て聞いたからちょぉ
気になってな。
ざ…ざ…ざざ
リーダーの言葉に被さるように竹林を揺らし渡ってく風。
俺にシンクロするように。
…………いや、俺に似てるのは風に乱されて騒めいてる竹の方か。
また口を閉ざし静寂の中に身を置く人を視界にいれないようにする。
「……そんな事言うけど、もし立ち止まって今度は歩き出せなくなったら?」
いつもならこの人に零すはずない言葉……………………俺は臆病だから。
「そんなん」
目をくるんとまるくしたリーダーは堪えきれないと言う風に笑い出した。
なんだよ!
「ごめんごめん、別に揶揄するつもりはないんよ………ただ可愛いなぁ太一、て思て」
喧嘩売ってんのかよ?!
視線をあげると笑い皺で目がなくなってそこに滲む涙……笑いすぎだろ!
「いやな、ごめんな。真剣な話やんな。
けど。
普段めっちゃ忙しい時でも『サッカーしてぇ』とか『ランニングしてから来た』とか
『アクティブの塊』みたいなジブンの事やん、どうせまた充電完了したらじっとなんか
してられへんで走りたあてしゃあなくなるって」
「……」
「保証したる」
リーダーの御墨付きじゃねぇ…。
「それに」
と言葉を切ったリーダーは俺の複雑な顔を見て今度は笑いをくすくす笑いに変えて。
「あんな、もしジブンが立ち竦んでもうたまんまやったと仮定してもや、考えても見ぃ
な?そんな状態のお前をそのまんま黙って見てる面子やと思うか?あいつらが」
一旦言葉を切ったリーダーは俺の表情を面白そうに窺ってる。
「多分最初に意思くらいは確認しよるやろしどんな意見でもそれなりに尊重はする思う
けど、そこでもしお前の答えが『行きたあない』やのうて『踏み出されへん』とか『歩
き方が分からん』とかなんやったら……たとえそこで太一がちょっとくらい歩きだすん
を躊躇って尻込みしたとしてもみんなして押したり引いたり、それでもまだ埒が明かん
かったら台車とか…なかったらぐっさんなんかそこらへんのトンカチと板切れで作って
まいそうやん…にのっけたりどんな手を尽くしてでも連れてく思うで?」
そしてとどめのように。
「もちろんあいつらだけやのうて僕も」
目の裏映像がぽかり浮かんだ。
ひょいっと荷物かなんかみたいに肩に担がれてる俺、それとか山口くんお手製の台車に
荷物よろしくのっけられてる俺…それらはただ目を閉じるだけでスッと浮かぶ、そこい
らのバーチャルリアリティよりよっぽど臨場感溢れる光景で。
同時にそれは多分俺相手じゃなくてもおなじなんだろうな…そんな事も思った。
その相手はたとえデカい長瀬松岡や山口くんだろうと(物理的にあの3人を移動させん
のはめちゃめちゃ大変そうだけど)今隣で飄々と空を仰いでるこの人だろうと(『俺が
運ぶ』『いや体格的に俺のがこの人も楽だよ』『いや、今日は俺が運ぶっす!』とか、
誰が運ぶのかって一波乱あんのも目に見えてるけどね、この人相手だと)多分変わる事
なく。
傍らに陣取ってみんなしてやいのやいの、それか夜の静けさに紛れるように……理詰め
で説得したり物で釣ってみたり怒鳴り合ったりもしかしたら腕力行使をちらつかせてみ
たり。終いには泣き落としも混ぜたりしながら、それでもおんなじ方向へ自分達のペー
スで歩いてく、それが俺らだった。
そんな当たり前の事さえわかんなくなるくらい前しか見えてなかったのか……そう思っ
たらちょっと自己嫌悪。
それと同時になんだかおかしくなって笑いが零れる。
やっぱり伊達に長いことリーダーやってないってことか…『視線がおかんだ』とか言わ
れるわりに普段はあっさり系受け答えな(って言うかこの人の目線を読み取って動くの
が山口くん、だと思う)この人にまで気遣わせて。
頃合いを見計らってかけられる言葉、やわらかな響き。
「な?わかるやろ?目の裏くっきり浮かばへん?」
思いっ切り顔をしかめるてみる。
「………静かに放っておいてくれる、って選択肢は確かになさそうだよね」
リーダーはそんな強がりを言う俺を目を細めて見てた。
その笑い方ってさ、対長瀬用じゃん…あいつとひと括りにされんのかよ、それもそれで
なんか複雑でムカつくんですけど。
あーあ。
格好わりぃ…。
どさり、また寝ころんで空を仰ぐ。
すみませーんお待たせしましたぁー準備出来ましたんでスタンバイお願いしまーす
スタッフから声が掛かるまでそれぞれの思いを風に遊ばせながらそのポジションのまま
またそれぞれの時間を過ごした。
空が青い。
よいしょ
演技か素か読めない表情、声で立ち上がるリーダーを尻目にさっと体を起こす。
まだ若いからね俺は。
並んで歩き出しながら大きく伸び。この人との間の沈黙が気にならなくなったのはどっ
ちかと言ったら最近の事…けど、今回は竹林とリーダーのアロマ効果に感謝しとくよ、
心ん中で。
『はやくおいで』と急かすように北登がけたたましく吠えた。
リーダーの傍らで眠る俺、そんな挿入カットが放映されてグループ内に嵐を呼ぶ事をこ
の時の俺は知る由もなかった。そしてリーダーに大きなオファーが来て喜々とした表情
のメンバーに構われまくんのももう少し先の話。
end.
***
季節外れ、現状とのシチュエーション外れな話ですね;
この話、書き始めたのは太さんのビックプロジェクトのみが明らかになったころだった
んです………………………と言い訳してみる。
ちょっとの間に状況はめまぐるしくうごきました;
しかし、この話の茂さんよく喋りますね。
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