--gorilla--
「あ、太一くん!?太一く〜ん!太一くんってば!」
局の廊下は大勢の人が行き交っていつだって慌ただしい。そんな中収録終わりで楽屋に戻る途中俺の背後からかけられた声。
誰だよ、そんなでかい声で俺の名を呼ぶのは…いやこれは。
「馬鹿長瀬っ!そんな大声で人の名前連呼すんな!」
確認もせず振り向きざま睨んだ先にいたのは予想通り『ここ!ここっ!』そんな感じにぶんぶん手を振ってアピールしてるうちのボーカル。いったい何を食ったらそんなに育つんだお前、と今でもたまに思うサイズの図体から繰り出すその声(商売道具なんだからもっと労れよ)でシャウトすんなって…目立つじゃねぇか。
ドタバタ走って来たあいつは息を切らしながらさっきまでと打って変わって俺をじっと見つめてくる。
…な、なんだってんだよ。いきなり。
「太一くんヒドいっすよ!」
開口一番発せられた言葉。
20cm近く上から見下ろされてるっていうのにこいつの視線を『ダンボールに入ったまま川を流れてく捨てられた犬目線』だと感じちまうのは長い付き合いの中の刷り込みのせいか。
しかし、何日ぶりかに会って一言目に正面きって『ヒドい』って言われる俺って。
一昨々日収録で会ったときには何も言ってなかったけどな……俺なんかやったっけ。
人の流れを妨げないよう隅のベンチまで移動する。
「俺なんかお前にしたっけ」
隣に座れって言ったのに俺の前に立ったまんまな長瀬。更に見下ろされ感upでなんだか複雑。
じっと見つめてくる視線にここしばらくを思い返して見るけど…。
首を捻る俺を見てあいつはへにょんと眉を下げた。
「無意識なんだ」
「なんだよ」
こいつにこんな情けない顔させるようなことをした覚えなんか……。
「ここまで言っても思い出しません?『動物のゴリラは全てB型らしいです。以上』って、書いてたじゃないっすか!こないだ」
あ?
ああ、こないだのタヒチか?締め切り時間をすっかりスルーしてて慌てた日のやつだ。
それが?
「あれって」
じろっと俺を見下ろしながらの上目づかい、なんてこいつにしか出来ない技を繰り出したまま続ける長瀬。
「あれって、ほんとは絶対あの後に
『うちのゴリラはO型ですが』とか書いてたでしょっ?!」
「お前ほんと変なときだけ鋭いなぁ」
…ていうかちゃんと読んでくれてんだな。
なんてひとごとみたいなこと考えてたらうっかりあっさり認めちまった。
たしかそんな感じに続けようとして『やっぱりさすがにまずいか』って消したんだよな。
「やっぱり。
でなきゃわざわざ『動物の』なんて書く必要ありませんもんね、ゴリラは元々どこからどう見たって動物だし」
顔は情けない表情のまんま、でも自分の推理が当たってたことは嬉しいらしい。口調だけはいつもに戻った。
「じゃあもう自分で認めるんだな、『自分=ゴリラ』って」
でなきゃ深読みしてそこでお前が凹む必要はない訳だし。
パッと見ただけじゃ女の子に間違われそうだった半パンデビューの頃から今のゴツくてワイルドな男へと180度近い変貌を遂げたこいつを『ゴリラ』と最初に形容したのはいつ頃で誰だったのかなんてもう覚えてないけど。
「そりゃああれだけ言われ続けたら認める認めない以前に刷り込まれますよ、もう」
そう仕向けたのはみんなじゃないですか…そう続ける奴の表情と俺らには見える幻の耳と尻尾の下がり具合があまりに長瀬らしくて、結局その夜の仕事終わり俺は長瀬に奢る羽目になった。
end.
***
書き終えて満足したらしくUPし忘れて携帯に眠っていたのを昨日発見しました。
元ネタは5月上旬・・・もしかすると4月下旬あたりのタヒチです。
(5月7日のタヒチだとご教示いただきバックナンバーで確認しました。ありがとうございました!:20090622)
『動物のゴリラ』という表記を受けての妄想でした。没にしようかと思ったのですが読み返してみたら凸凹の会話が楽しかったので今更UP。
説明しなきゃならないほど時期外れですが;;
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