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* 『方法 -a wayまたはa method- 』 *
![]() 「ちぃーす」 ちいさく挨拶しながらドアを開けたオレは目の前の光景にこっそり嘆息した。 ギターを抱えてるリィダァとキーボードを机の上に広げてる太一くん。高く低く重なる 楽器の音がなんだかオレをはじいてる気がして。 佇んでたらいつの間にか音が止まってた。 「…松岡?」 どないしたん?と首を傾げてるリィダァ。でかい目で訝しげに見てる太一くん。 オレは表面上にこやかにふたりの方へ歩み寄り口を開く。 「またやってんの?」 こないだのアルバム以来なんかやたら目にするようになった組み合わせ。 「やってまだ時間あるし」 「なんだかあれ以来面白くってさ」 ご機嫌な笑顔のふたり。 「おもろいし…それにまぁ、勘がにぶらんように?」 「オレはあんたの暇つぶしか!」 リィダァのこたえに光速で突っ込む太一くん…オレのお株取らないでよ。 「やってツアーも終わってしばらく経つし、つかわんとほんま指動かへんようになるや ろ?太一のリハビリも兼ねてて一石二鳥やん?」 「ふーん、そんな事言うんだ…いそいそメールして来たくせに。じゃあやめる?」 そんな気もないのにわざと言う太一くんにリィダァものってくる。 「あ、うそうそ国分さんとちょっとセッションしたいなー思て。あの曲超えるのんつく ろうやー」 「最初からそう言えよ。で、もうそろそろ本題に戻るよ…ここんとこの進行なんだけど さ…」 珍しい組み合わせのじゃれ合い(言ったら太一くんは全否定間違いなしだけど)はいつ の間にかまた曲の話に戻って行って、それきりふたりはオレの存在を忘れたみたいに 『このFmの後が…』『なぁ、ここらへんから今度は跳ねるみたいに…』なんてまた集 中しだしたからオレは仕方なく鏡台の前に移動して鏡越しにふたりの姿を眺めてた。 『ちぇっ』 眉間の皺を自覚する。だって太一くんにもリィダァにも会うのどれだけぶり?って位な のに…。 音楽を目の前にするとふたりともそれしか見えなくなるのなんて知ってるけどさ。せめ て混ぜてくれるとかもうちょい構ってくれてもいいんじゃねぇ? メロディを司る楽器なふたりがこんな時にはちょっと羨ましい。ギターも一応弾けるけ どあんな自在に扱えない。ドラムじゃ曲作りは難しいし。元々曲を作るふたりが意気投 合してんのは判るんだけど…。 だから髪を弄る合間を装いながら楽しげなセッションを繰り広げるふたりを眺めてるよ り他なかった。 「……ん?なんだぁ?」 「なんや、騒がしいなぁ」 楽器から顔を上げてけげんな顔のふたり。なんだか凄い勢いで足音が近づいてくる。 バタバタバタバタ…ガチャ! 「シゲ?……シゲ〜、シゲ、シゲ、シゲ!!!!!!!」 半分ぼーっとしてたオレはその切羽詰まった声音に我に返った。 飛び込んで来たのは兄ぃ。いったい何をそんなに焦ってるのよ?挨拶すらすっ飛ばして。 まだ『シゲ、シゲ』言い続けてる兄ぃを見てギターを抱えたまんまちょっとあっけにと られた顔してたリィダァは、だけどその表情だけで言いたい事がわかったらしい。 苦笑しながら兄ぃを手招いた。 「おはようさん。なんやぐっさん慌てて、『波』来たん?もしかして」 「おぉ、来た来た!ビッグウェーブよ。だから早く!」 なんだかすげぇ楽しそうなんだけど…なんでアンタがそんな兄ぃの波を喜ぶのさ?リィ ダァ。 それを聞いたリィダァはちょっと焦った風に『ごめん太一、ちょお中断すんな?今から 大波を捕まえにいかなあかんねん』なんて訳のわかんねぇセリフを吐いてる。 そして待ち切れないようにその腕を掴んで引っ張ってく兄ぃ。 「やまぐち………ちょお待ってや」 「はやく早くって、トロいなぁシゲ」 引き摺ったまま兄ぃは控え室のすみっこにどかりと腰を据えた…もちろんリィダァを傍 らに。 突然、部屋に落ちる静寂。 いったい何が始まるんだろう…………………。 兄ぃがすぅっと息を吸い込んだ、と思ったらリィダァの耳元で囁くように歌い出した。 オレ達には切れ切れにしか聞き取れないくらいかすかな声で。 耳をそばだてる。 歌詞さえまだ付いてない、何度も繰り返される印象的な…だけどちょっと不安定なフレーズ。 目を閉じてじっと耳を澄ましてたリィダァはやがて目を開けるとおもむろにそれに合っ たコードを探るみたいな感じで伴奏を奏で出した。 さっきまでの多少揺らぎのある鼻歌、だったモノがリィダァのギターに繰り返しサポートされて 『メロディ』になっていく。 『音』が『音楽』に変わってく瞬間を見せられた気がした。 音が途切れる。 「「ふぅ…」」 そうなって初めて息すら潜めてたのに気付いて力をぬいた。横では太一くんも溜め息つ いて同じことしてる。 「今のんでええか?…………やったらーここがCでGで…」 確認しながらノートにさっきの流れをひとつづつ丁寧に書き留めてくリィダァ。そして その手元を覗き込んで口を開く兄ぃ。 「なぁ、ここってもうちょい下げた方が自然?」 兄ぃの言葉に首を傾げながら頭の中で鳴ってる音を追いかけるみたいにして考えてるリィ ダァ。 「……うん、そっちもありかな。けど、それはこっから展開してくメロディーにも拠ん で」 「う〜ん、そっかーそうだね。でも良かった〜今度こそ捕まえられて〜」 極上笑顔な兄ぃ。 「こないだのに逃げられて悔しがってたもんなージブン、良かったやん。今日は僕もギ ター持ってたし」 「さんきゅー、さすがだねーシゲ」 部屋の中にオレらが存在してる事すらアウトオブ眼中な『ふたりだけの会話』に心の中 で涙。 だけど今の話って…。 「ねぇリィダァ…」 「んー?なんやー松岡」 やっとこっちを向いたリィダァ、それにつられて初めてオレらに気付いたみたいな兄ぃ。 「いっつも兄ぃが曲作るのって…」 恐る恐る聞いたのにあっけらかんと答えてくれたのはリィダァじゃなく兄ぃだった。 「え?いっつもこんな感じ?…………………………だってオレ採譜できねぇし」 だからシゲがいねえのに曲浮かんだ時はタイヘンなんだよなー、こないだもそれで捕ま え損ねてさぁ、すげぇいい感じのメロディだったのに…そうぼやきながら、けど顔は言 葉を裏切って爽やかなまんま。 さらりと言われたからスルーしそうになったけど、それって…。 「やからボイスレコーダ買うか、あかんかったら留守電に入れるかしとき言うのに」 その言葉に『だってリアルタイムじゃなきゃわかんなくなるんだって』…って言い募っ てる兄ぃ。 今初めて知らされたそれはオレらが今まで気付いてなかっただけで少なくとも昨日や今 日始まったやり方じゃあなさそうだった。 「いつからなの?」 「……んー?最初から、やなぁ。けど、もううお前もスコア読めるんやから採譜もでき るようになりやー」 俺の疑問にこたえてからの言葉は兄ぃに向けてのもの。 「ぇぇーっ、なんで?今までずっとこの方法で来たんだからこのまんまでいいじゃん」 「やって…このまんまやったら僕居らんかったらまた捕まえ損ねるねんで?」 「ぇー?絶対やだ…代えねぇ!」 駄々っ子かよ兄ぃ…ある意味『やってろ』な痴話ゲンカ?を聞きながら無力感に浸る。 リィダァを専属の採譜係に…そんな贅沢な方法をなんのためらいもなくやってのけてる 兄ぃに。 そしていっつも兄ぃの中から生まれるメロディの『うぶごえ』を真っ先に聞ける…そん な『特権』を独り占めしてるリィダァに対しても。 この胸に湧き上がる気持ちはなんなんだろう…認めたくなんかねぇけど『格が違う』な んて言葉が目の裏にちらついた。歯を噛み締める……でないと瞼の奥が熱くなってきそ うだったから。 横には難しい顔をした太一くん。 眉間と鼻のあたまに思いっきり皺を寄せて…さっきから一言も口を開いてない。 そりゃ、さっきまでの相棒をあっとい言う間にさらわれてこんなの見せつけられたんじゃぁ 無理もないけど。 まだじゃれ合いながら『今生まれたメロディ』を検討してるふたりを睨み付けてる横顔。 グループのメロディメーカーとしてのプライド、兄ぃへの対抗心……そんなのが渦巻い てる感じ。あのふたりには見えてないみたいだけど。 いや…。 気付いてるかも。 角度的にそこだけ見える山口くんの口許が片側だけ引き上げられた。くっきりと。 ……………………………………………………………………………………あ、兄ぃ?! 太一くんが気付いたかどうかはわからない。 だけどきっかけが『音楽』である以上ここで太一くんが引き下がる事がないのも明らか だった。 気付いているのかいないのかのほほんとのんきな表情のリィダァと目に見えそうな緊張 感を孕んで対峙してるふたり。 その間に挟まれて俺は、ただひたすら『双龍の逆鱗に触れませんように』とそれだけを 願いながら息を殺してるより他なかった。 end. ************************* これも『欠片修復感謝記念』な捧げ物です。これが3本目。 誰の視点にしたらいいかわからなくて一番難産でした…。 リクエストは 「珍しく仲のいいリーダーと太一、でも結局おいしいとこはぐっさん総取り(笑)」 でした。 なんだかひたすら『ま』の付く方が哀れな気が。(愛してるんですけどねぇ) そして名前すら出てこなかった末っ子の登場によってこの場は解凍されるのだろうと推測されます(爆) なんだかウチの『ぐっさん』ほんとに全部攫っていってくれるので、リクに沿ってない気もするのです が、これが今の精一杯…精進します。 では、本当に本当にありがとうございました! 2005.07.13 |
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