《君には君の場所がある!》







ライブの練習の為に借りた スタジオ
別の仕事先から急ぎ足でスタジオ入りした松岡がスタジオの中覗くと
中には只1人 椅子に座り音を奏でる男性 のみ
既にアンプに繋げてあるギターから聞こえてくるのは 今回彼らのライブで演奏する楽曲
その音は その曲のイメージとはかけ離れ 強く・激しくそして…ほんの少しだけ痛いような気がした

その音色に松岡は…スタジオの入り口 立ち尽くす
無表情のまま弾き続ける人物に声をかけることも出来ないまま―――

「―――めずらしいな、シゲがこんな音出すなんて…」
「兄ぃ…」
いつの間にか松岡の後ろに立った山口は、松岡の視線の先―――ギターを弾く城島を見て少し眉をひそめた
城島はそんな2人の会話が聞えていないのか、音を奏で続ける
ミスタッチ1つ無く正確に弾かれる弦。その音は相変わらず荒々しく―――

「やれやれ。何があったんだか知らないけど…」
山口は ふう…と1つ溜息を吐くと、スタジオの奥…自分のベースが置かれている定位置に足を進めた

間奏のギターソロが丁度終ったあたりで、今までギター単音だったその曲に もう1つ弦の音が追加される
低音で確実にリズム刻む その音は 力強くて安心感すら覚える
曲の途中で突如入ってきた音にもかかわらず 違和感無く重なっていく ギターとベースの音色
段々、今まで鬼気迫るような音だったモノが その曲と弾き手のイメージに相応しい音に変わっていく

柔らかくて・優しくて―――ほんの少しだけ切なくて…けれど決してそれは 痛々しいものではなくて―――

もう1つのギターもボーカルもキーボードも―――そしてドラムも無い状態なのに出来上がっていく『曲の世界』
何時もの 音と姿に戻っていく『彼』

―――今まで無表情だった城島が 一瞬だけ ふ…と 笑顔浮かべた

そんな情景を無言で見ていた松岡は、先ほどと同じく ただ立ち尽くした
心の中 入り混じる感情 もてあましながら――――









「―――で?お前が散々な状態になっちまったってワケか?」


スタジオから程近くの小洒落た居酒屋の小さな個室―――完全な和室とも違った 程よく落ち着く空間
テーブルの上には2人で食べるにしては少し多い料理の数々と2人分のビールのジョッキ

中ジョッキ片手に苦笑を浮かべながら問う太一に、松岡は申し訳なさそうに俯いた

そう…本当に今日の練習は散々だった。と…松岡は思う
いつもなら決してしないだろうと思われる箇所でのミスの連続。その全てが松岡自身が起こしたモノで
今日は長瀬が仕事の関係上参加できなかったのだが…折角揃った4人で音合わせを行ったが、それすらも困難な状態
を作り出してしまった
途中 城島と山口が仕事で先にスタジオを出た後も松岡の不調は続き――――そんな松岡を見かねたのか、帰りがけ
太一から飲みに誘われ―――今に至る。

「リーダーが『いつもの調子』に戻ったなら、お前がヘコむ必要ないだろ?…そもそもお前がヘコむ理由無いし」
「―――わかってるんだ、それは。でも…」
割り箸で取り皿に取ったサラダをかき混ぜながら―――でもそれを口にすることなく、松岡はもう何度とも知れない溜息を吐く
そんな松岡の様子に、太一は「…重症だな」と呟くと手にしたジョッキに残ったビール 飲み干した


「なぁ、松岡。お前が拗ねる必要なんてないんだぞ?」
新しく注文したビールと湯気を上げる唐揚げが届き、店員が障子を閉めると同時に太一は割り箸片手に先ほどの話の続きをはじめた

「…す…拗ねてなんか―――」
反論する松岡に太一は左手に手にした割り箸の先を すぃっ と松岡の顔に向ける。その仕草に松岡は目を見開く
「拗ねてるよ…お前は。――――あの2人の間に入り込めないのが悔しいんだろ?」
「そんなこと――――」
そこまで言いかけてから「そんなことない」と言い切れない自分に気がつく・・・


今日の『あの時』だけではない。そう、いつだって感じていた―――

「太一くんの言う通りかも知れない。あの2人の雰囲気が自然で…俺の入る余地なんて無い、だから…」

『こんな事を口に出すなんて。もしかしたら俺は酔っているのか?そんなに飲んだつもりも無いのに…』
そう思う松岡だったが、口から出始めた言葉はもう止める事が出来ずに―――

「大体…あの2人は視線で会話したりしてさ…熟年夫婦じゃないっての!」

ライブの時、視線で会話する彼ら・O.A.されている番組、子供のように笑いあう彼ら―――それらのどれもが自分達には向けられないもので…
それがわかっているから…いらつくし、くやしいし――――拗ねてしまいたく…なる。


「…まぁ、お前の気持ち―――わかるけど…」
「え?」
「でも、あの『信頼感』…というか『絆』は一種独特なモノだからな。 まだデビューする前…俺やお前が出会う前からあの2人の間に培われて
きたモノに横から入り込もうなんてのは…無理なんだよな」
そう言って一拍置いてから太一は言葉を繋げた。何処か悲しげな笑顔 浮かべて―――

「誰も『リーダーにとっての山口くん』にも『山口くんにとってのリーダー』にもなれないんだよな…」

ぼつりと呟いた太一の言葉と浮かんだ笑みは 自嘲にも似ている気がする…と、その時 松岡は思った



「太一くん…もしかして、太一くんも―――」
―――拗ねたり してるの? 俺と同じように?

「―――さあ?どうだろう?」
続けようとした言葉 遮るように太一は鋭く・酷く真面目な瞳で松岡を見据えた
その眼差しに松岡は聞きかけていた言葉を飲み込んでしまう




「―――ま、お前にはお前の『ポジション』がちゃんとあるんだから…それで満足しろよ?」
そう言って少し温くなったビールを勢い良く飲むと、松岡に先ほどとは違った笑みを向ける 太一
それは 少しだけ何かを含んだような 笑み

「え?それってどう言う――――」


松岡が太一に真意を聞こうとした時、突然勢いよく開けられた障子
驚いて音の方向に視線を向ければ帽子をかぶった長身の男が立っていた

「おっ待たせ―!太一くん、まぼー」
「な…長瀬?」
「おう!お疲れ、長瀬。こっち座れ」
「はーい。もう俺、腹ぺこで〜。あ、この唐揚げ食べていいっすか?」


そう言いつつ既に個室の中に入り、テーブルの上の唐揚げを右手で摘まみ口に入れようとしている長瀬
突然の長瀬の来訪に唖然とする松岡に、更に追い討ちをかけるように障子のほうから聞き慣れた声が聞えた


「こらこら、長瀬。ちゃんと座って、おしぼりで手ぇ拭いてからにしいや?行儀悪いで?」
「すいません、おにいさん!とりあえず…ビール中ジョッキで3つ〜!!ヨロシクね」
「リーダー?それに兄ぃ?―――あれ?仕事じゃ―――」

疑問符だらけの松岡の言葉に、城島は ん?と小首をかしげながら答えを返す
「仕事やったで?太一から『松岡と飲んどる』ってメールきたから、終ってからきたんやけど?…太一、松岡に言っとらんかったん?」
「俺も太一くんからメール貰って〜ちょうどロケ現場がリーダー達の現場の近くだったから一緒に来たんだ〜!」
「あ、こら長瀬!!あかん言うたやんか!!」
立ったままの状態で長瀬は ぱくん と唐揚げを口に放り入れ、城島に再び注意を受けた


「『重症』なお前への『特効薬』はなによりメンバー…って言うかリーダーだろ?」
「―――な―――っ」
笑いながら言う太一に 顔を赤くして叫ぶ松岡。それを無視して太一はすでに城島と山口へ視線を向けている
「お疲れ様。リーダー、山口くん。適当に頼んであるけど…他に何か頼む?」
「んーそやなぁ…」
言いながら松岡の隣に腰をおろすと、城島はテーブルの隅にあったメニューを手にして考えはじめた

「あー…コレ食べたい〜『ちょっと物足りないアナタに―――自家製かけうどん(関西風)』!!」
「いきなり締めに食うようなモン頼むなよ!!」
間髪いれず城島の額に突っ込みを入れた
突っ込まれた側の城島は叩かれた額をさすりながらも笑顔を浮かべている


「いい『ポジション』じゃないのか?リーダーにソコまでツッコミ入れるの許されてるんだぜ?」
――――城島と松岡の漫才のような様子を見ながら 呟いた太一の言葉は 松岡の耳には届かない


たが、その言葉の断片は太一の前に座った山口の耳に届いていたようで「ん?」と太一に視線を向けた
「何か言ったか?太一。しかもなんか機嫌よくないか?」
「そう?…そうかもね〜。さっきまで拗ねてたヤツもご機嫌になったみたいだし?」
「―――!!太一くん!!」
今度はわざと聞えるように少し大きな声で言った太一のセリフに、松岡は焦って太一の名を呼ぶものの…再び無視されてしまう

そんな2人の会話が何のことかわからない山口と長瀬は「ま、いいか」と呟くとテーブルに置かれていた割り箸や取り皿を自分達のほうへ
と引き寄せていた―――が、太一の言葉をスルーしなかった男が1人いた

「なに?松岡、拗ねとったん?どうかしたんか〜?」

「―――バカ!拗ねるわけないだろ!!子供じゃあるまいし!!」
顔を更に朱に染めて慌てて否定する松岡に城島は「そうなん?」と何故か少し残念そうな表情を浮かべた・・・


何とか誤魔化せた松岡は、軽く安堵のため息を吐く。

『アンタ達の『関係』が羨ましくて拗ねてました―――なんて口が裂けてもいえねーよ!!』
このことは…絶対ヒミツだ!!と心に誓った瞬間、松岡と太一の視線がぶつかる

そのとき 太一が にやり…と笑ったように 見えた





結局のところ 太一が松岡と同じように『拗ねたり』しているのかは謎のまま…
『拗ねていた』という松岡にとっての『ヒミツ』を太一に知られてしまっている事に松岡は気がつかないまま…
その日の飲み会は幕を閉じるのだが――――

この後、松岡は暫くの間 太一にいい様にからかわれ続けた…らしい








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和夜さまコメント

「上ふたりの絆に入れなくて拗ねる、もしくはいじける下の誰か」というリクエストのもと書かせていただきました
―――『拗ねる』…この言葉で先ず浮かんだのが、松岡くんでした(苦笑)
もっと うだうだ 悩んで拗ねてもらいたかったのですが(笑)可哀想になってしまい軽めに拗ねてもらいました


管理人より
書いて頂いたのは頂いたのは5月、そして今は・・・。
ひたすらお詫び!な気分です。
そう、まぼには『相方』と言う素晴らしいポジションが!
だけど、隣の芝生は青いんでしょうね。

分かりにくいですが、『音楽』な気分をちょっとでも出そうとPA機材やスタジオ素材を使っています。
和夜さん本当にありがとうございました〜v



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