--one step closer--



ライブリハの合間、束の間の休憩。スクリーンでは曲に合わせて用意された映像が
テスト映写されてる。ライブも明日でラスト。俺はあなたと連れ立ってただ今誰も
いない客席で作戦会議中。

今年のツアー、裏タイトルは『松岡を掌で転がそうツアー』だった。格好つけなく
せに照れ屋で恥ずかしいとくずおれる弟分の魅力を堪能して頂こうという事で…そ
ういや去年のツアーでは『松岡を殺そうメドレー』とかもあったっけ、愛されてる
よな松岡。

「なぁ、結局今年何回『松岡スペシャル』やったんやっけ?」

一(はじめ)のペットボトル片手にあなたが指を折る。

「名古屋と大阪と…広島もやったかな」

首を傾げながら左拳をあごに当てて『考える人』なポーズなあなた。

「そんくらいだったかな?どっか忘れてる気がすんだけど」

真似して同じように同じ方向へ傾げてみる。うーん。

「衣裳はOK、モニタに出す歌詞の手配も済んどるし…後は万全かいな」
「んーそんなもんじゃねぇ?後はいつもみたいに明日に向けて丹精込めてカレーを
仕込んでくれるはずの松岡の為に俺等が音合わせにいそしむ…そんくらいでしょ」

手すりに寄っかかってた体を『よっこらせ』なんてなんだかなぁ、な掛け声とともに
起こしたあなたは控室に向かって歩き出しながら頷いた。

「そやな。せっかくの見せ場やしばっちり決めたらんと……せやけどやぁ、お前は
大丈夫なん?」
「何が?」

あなたにそんな風に聞かれる事なんてあったっけ?

「やって…多分終わるんごっつう遅なりそうやから」

気遣わしげな瞳。

俺は思わず隣を行くあなたの顔を凝視してしまった。
こっちから『そのこと』についてどう切り出そうか迷ってたってのに、あなたから
切っ掛けをくれるっていうの?あまりにナイスなタイミングにちょっとびっくり。

本気で心配してくれてるとこ悪いけどそれまさに『渡りに舟』なんですけど………
……今夜はどんな口実を使ってでも隣にいよう、そう決めてたから。

「それなんだよねー。オーラスに遅刻はさすがにまずいしなー」

すましてそう言いながら本気で困った顔と声を作る。

「かと言ってきちんと合わせとかなきゃ…いったい何年ぶり?な曲だしね。何時に
上がれるかわかんねぇし。だからさ…………………今日泊めてくんねぇ?」


「へっ?」

話がそんな風に転がるなんて思ってもみなかったんだろう。目を丸くしてキョトン
と俺を見返してるあなた。

「やって…荷物は?着替えとか。そや、じゅのんは?」
「大丈夫楽器は置きっぱなしだし着替えだって一日くらいどうにでもなるし、じゅ
のんは一昨日から預けてあるから…だから、ね?」

「そないな事突然言われてもなぁ…」


「予定あんの?こんな日に?俺もしかしてお邪魔?」
「そんなん違ゃうけど……」

じっと見詰める俺にあなたはどこか居心地悪げにしてるから畳み掛ける。

「じゃ構わない?ね助けると思ってさ」
「…しゃあないなぁ」

押しに弱いあなた。メンバーにはほんとに甘い。それに普段あまり我を出さない俺
からの頼みだから。

「まぁええわ、山口やったら。その代わり深酒は許さへんで?」

渋面を作るあなたにわざと『ぇえーっ!?』と不満の声をあげながら俺はうまく話
が運んだ事に密かに安堵した。






***



「…なぁ、なんか僕に言いたい事あったからウチ来たん違ゃうん?」

ローテーブルの向こうあなたはそういうと口を閉ざし俺に視線を向けた。

音合わせも無事終わり辿り着いたあなたの部屋。釘を刺されたのを丸め込んで手に
してるのは前に新潟のMCで話題に上った、あなたが買ってくれたって言う『俺用』
らしき焼酎。大阪で、って言ってた『飲み会』結局果たせなかったから。

借りたスウェットは丈も裄も股下も微妙に余っていつ来てもちょっとムカつく。
身幅はキツイくらいなのに。
静かに流れる時間。ライブの余韻を噛み締めるみたいに手の中グラスを弄びながら
視線を遠くに飛ばして自分の世界に棲むあなた。

「ほんと遠い目だね………いっぺん聞いてみたかったんだよ。あなたほんとにいっ
たい何を見てんの?ライブん時も今も」

こたえの代わりに思わず呟いた…言葉にしたって何が変わる訳でもないのに。
あなたの見据える目線の先、未来のあなたの横に俺等は、俺はいる?
心の底に横たわる思い…実際は聞けやしないけど。

「んー?んんーそやなぁ、3km先?…っつ!痛いなー何すんねん!!」
「それ長瀬がこないだライブで言ってたギャグじゃん…あれ?どこでだったっけ?」

ここには突っ込み隊長はいないから代理…突っ込むには遠いなーここじゃ、だから
グラスごとあなたの隣にずりずり移動する。

「どこやろー記憶がごっちゃになってるわ。ぇーと、大阪やなかったっけ。なんか
ばかでかい空間のイメージがあるんやけど」

お前松岡やないねんから、もう…そう言いながら赤くなった額を擦ってるあなた。

「あーかもしんねぇ。やたら広い場所を目一杯走らされたような」
「やろ?たしか徒然でアコギがトラブって慌てた…あ、ティポあったからやっぱり
大阪やなぁ」
「そうかー。そーいや、あったねー」

ひとしきり笑ってあなたは額にコツンとグラスをあてると目を閉じた。








「楽しかったなぁ」

こんな日がずっと続いたらええのに……あなたが飲み込んだ言葉はわずかに触れる肩
から受け留める。
伝わる体温が返事の代わり。感じる事は同じだってわかってるから。

けど。

「楽しかった、って…過去形にしないでよまだ。明日まだあるんだから、俺等の苦労
が報われる『超松岡スペシャル』が」

しかめっ面をして『めっ!』と隣にいる大きな子供に言い聞かせる。
首を竦め素直に叱られてくれるあなたはいつになくしおらしくて、今夜は押しかけて
良かった、と思った。
これが今夜ここにいる俺の存在理由。思考の海からあなたを引き揚げるのが。

手を伸ばして髪をガシガシ撫でる。じっとおとなしくされるがままだったあなたは
グラスを置くと俺の肩に頭を凭せ掛けて声だけで微笑んで見せた。

「そやったなぁー『超松岡スペシャル』。お前も紫着るんやん…今年は団体さんな
ゲストの予定も入ってへんし僕等らしい終わり方で出来るかなぁ」

肩口から聞こえたちいさな呟き。楽日はどうしてもマスコミ、スポンサー、お偉い
さんにゲストと慌ただしい事この上ないヨソユキ仕様になりがちだから。

「だといいね。言い続けてたらブラスも弦もバックに付けてもらえたし………要望は
してこ?」
「…そやね。第2章も一歩ずつ…やなぁ。まるであの歌そのままや」

やりたかったなぁ、あの曲…ぽつり零される本心。

アルバムのクロージングに選んだ曲はミディアムテンポのナンバー。
俺等の意識と一番シンクロしてた曲。
だけどどうしてもライブからはみ出してラスト挨拶のインストって形でしか入れられ
なかった。

あなたは零した言葉恥じるように顔をますます伏せるから。だからその頭を抱き寄せる
…ほんとにあなたって人は。


「だからこそ言い続けよ?『もっとライブがやりたい』って。『もっともっと』ってさ。
そしたらそれも叶うかもしれないじゃん」

目標はでっかく一都一道二府四三県ツアーなんでしょ?

俺の言葉にあなたは肩になついたまんまだった顔をあげた。
良かった、表情がずいぶん柔らかくなったね。

願い続ける、言い続ける…何事も『one step closer』だって思うから。
今までだってそうだった。これからだってきっとそうなんだよ。
ちょっとずつでも今歩いてる坂道を上って行けばいい。俺等なりの歩幅で蛇行したり寄り
道したりしながらさ………違う?

俺の言葉に考える顔をしてたあなたが口を開く。

「うん…ほんまや。こないなところで弱気になってる場合やないな。とりあえずは明日
全力で走り抜いて11年目の音、アピールしやなな」

そうそうその意気。やっといつものあなたらしくなって来た。その笑顔の方が全然
らしいよ。








「なら…」

あなたが表情をがらりと変える。鮮やかな笑い方。
…………………………………………いったい今度はなにを思いついたの。

「なぁ、オーラス『悪い子バージョン』で行かん?」

それがさっきまでベソかいてた人のセリフかね?でもまあそれでこそあなただけど。

「いいね。明日はもう祭だし『やったもん勝ち』でしょ」

負けずにニヤリと笑い返す。

もう大丈夫だよね? 本来のあなたが顔を覗かせたのを見届け腕を解いて立ち上がる。
いい加減寝なきゃ。それでなくても体力を温存しとかなきゃいけないヒトなんだから。

机の上を片付けはじめた俺の耳にかろうじて届いた言葉。
さっきまでの勢いはどうしたのさ。



「…来てくれてありがとぉ」




紛れてしまいそうなちいさな呟き……………やっぱり俺の考えなんてお見通しだったか。
顔を向けるとあなたは照れくさげな顔で、だけどなんだか『居住まい』まで正して。

「そいでから、こんな風に改まるのもなんやけど…………第2章もよろしゅう、な」

だから俺も姿勢を正して返す。

「こちらこそ。第2章だけじゃなくこの先ずっとよろしくね」


『明日はもう楽日だってのにいったい今頃何言ってんだか』自分達のセリフに顔を見
合わせ、ふたりして笑った。



時間が時間だから息を潜め声を潜めて、だったけど。


                             end.


***
『A&F』のMADOKAさんに相互リンク記念ということで貰っていただいたお話です。オーラス前日設定。
なんだか書庫の『ゆめのさきゆめのあと』の裏側(単に達也さん視点に移っただけですが(滝汗))みたいな気もします。
ほんものの茂さんはもっと凛としていて芯が通っててもっと違うイメージなのですがなぜか私が書くとこんな、どこか気弱な面が現れます。
真摯に『音楽』と向き合っているからこそなんだと思います。そして、そんな部分が見えるのは彼の傍なのでは・・・と言うことでこんなお話となりました。

拍手等で一言でも感想を頂けると嬉しいです。


MADOKAさんのサイトでは素晴らしい壁紙でアップして下さっていて、また印象が全然違います。もっと色々勉強しなきゃ・・・。


『A&F』へはこちらから→


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