* 『mai-mai』 *
『mai-mai』





俺がフットサルから帰ってきたとき、玄関に松岡が青い、を通り越して白い顔をして座
り込んでいた。

「どうかしたのか?」

俺の声が聞こえてるんだか定かでない顔。目の前にひらひら掌をかざす。

「あ……太一くん」

やっと気付いたか。

「どうかしたのか?」

途端に表情が動き出した。

「しげるくんが!」
「茂くんが?」

そこまでは勢い込んでたのに続いて『いねえの…』と消え入るよう零された言葉はいつ
もからは考えられない儚さで松岡がかなり逼迫している事がわかる。

オロオロしている松岡の話を総合すると…。

三時のおやつに、とケーキを仕込んでいた松岡がオーブンの火加減を確かめて振り返る
とさっきまでそこにいたはずの彼の姿がなかった事。

リビング、トイレ、それぞれの自室のある二階…なぜだかお気に入りなソファと壁の隙
間、そんな心当たりの場所のどこにも彼の姿を見つけられなかった事。

誘拐?人さらい?神隠し…もしかして、もしかして……もしかしたら…………家出?
今朝叱ったから…?そんな風にパニクりながらポケットから携帯を取り出しメールを打
とうとし、けれどそれを躊躇っていた事。

そこへ帰ってきたのが俺である事。

「なんで、メールしねぇんだよ」
「だって、兄ぃになんていうのさ…俺、殺されんじゃん……………………」
「……………………………………………………」








見回すと玄関に揃えてあったはずの靴が一足見当たらない。外はしばらく前からまた泣
き出した梅雨空……俺にはひとつ心当たりがあった。

「んとにあの人は…」

そう呟くと『待ってろ』そう言い残し駆け出す。後にはその姿勢のまま右手を
差し伸ばした松岡だけが残された。

「やっぱり。ほんとにもう…」

『心当たり』。この間たまたま一緒に行った買い物帰りに見つけた場所、神社に隣接し
た公園の池の畔にしゃがみ込んでるちっちゃな背中。

そりゃ『捕まえちゃかわいそう』ってたしかに言ったけどさ。

真剣にみつめてるのか気付く気配もない姿に『攫われたらどうすんだよ』と心の中溜め
息をついた。
ばさり…持って来てたタオルを被せ声をかける。俺の大事なジャパンブルーのそれ。

「こんなとこにいた…ほんとにこんなに濡れてさ。外に出るんなら傘さすくらいの知恵
はつかいなよ茂くん」

驚いた顔で振り返った茂くんは全身から雫を落していて今度は心だけじゃなく盛大に溜
め息。これじゃ山口くんに秘密にって訳にはいかなそうだ。

軽い体を抱き上げ小脇に抱えて走り出す…冷えた感触に眉を顰めながら。勢いを強めた
雨足の中、トップスピードで駆け戻って玄関を開けた。

「いた!!茂くん、捕まえた!!」

松岡が腕を伸ばして濡れ鼠なちっちゃなシルエットを言葉もなくそのままぎゅっと抱き
締める。

「なんで黙って出てくの!…生きた心地しなかったじゃん」

おいおい、肩が震えてるよ。

「ごめんなぁ、まぼ…」

茂くんも何か感じたのかじっとしてる。頃合いを見計らって声を掛けた。

「松岡、風呂は?暖めた方がいいぜ」

まぼはその言葉に初めて我に返ったように俺らをまじまじと見る。

「わっ!びしょびしょじゃん…すぐに風呂用意するから待ってて!!」

手回しのいいこいつにしては珍しい。それだけいっぱいいっぱいだったって事か…。

『とりあえず』の言葉と共に降って来たバスタオルを被ってふたり。
靴と靴下をうわーとかいいながら脱いでついでに苦戦してる茂くんのにも手を貸す。濡
れてると脱ぎにくいんだよな。

この格好のままあがるのは憚られて手持ちぶさたのまんま突っ立ってたらなんだか茂く
んが俺の顔色を窺うみたいにしてる。
なに?目で聞くとおずおずと手を差し出した。

「なー、なぁたいちぃ…これやっぱりかえしてこなあかん?」

その言葉と共に差し出された掌の上には…。
こないだ見つけたものその2。そういえばあん時からすごい目ぇキラキラせてたっけ。

「持って帰ってきちゃったんだ…」
「やって、雨に濡れててかあいしょーやってんもん」
「かわいそう、って」

それは元々自然のモンで…ええと、いったいどう説明すれば…頭を悩ませてる俺をみつ
めるつぶらな瞳。

「……………」

負けたよ、あいつらの事『甘い』って笑えねえや。

「わかった、俺の部屋に持っといで。『しばらく』だけなら」

その代わりあの3人には内緒だぜ、それが守れるんならな?俺の提案に茂くんは目を輝
かせて飛び付いて来た。

「あんがとーたいちぃそんなんゆうてくれんのたいちだけや」

それはちゃんとわかってんだ…………。
風呂から『後5分くらいだからね〜、しげるくんの着替え出しとくから〜』と松岡の声。
こんな場面をみられたら………だからジャージの裾を捲って茂くんをも一度小脇に俺の
部屋まで行くことにする。気付かれないようにそーっとそっと。

カチャリ
なぜだか詰めてた息を吐き出して笑い合う。

「しぇーふ」

ちっちゃな手でポーズまでとってる茂くんを横目に目当てのものを探す…あ、これならいいか。

「茂くん、これに入れなよ」

渡したのはコレクションのフィギアが入ってた箱、あの透明でべこべこなやつ。

「んーあんがとー」

茂くんはたどたどしい手つきででも出来る限りそぉっと『それ』をべこべこの中に置い
た。『かたちゅむりしゃんここがおうちやでー』そう言いながら。
葉っぱごと千切ってきてたんだ……。


そう、茂くんの手にしっかり握られてたのはちっちゃな『カタツムリ』だった。

「………なぁかたちゅむりしゃん出てこーへん。なんで?」

まあさんざん揺すられてたんだから怯えもするだろうそりゃ。
茂くんこっち、手招きして容器を出窓にのせ窓を開ける。

外は音を全部吸い込むみたいな絹糸みたいな雨降り。しばらくするとしっとり湿気をはら
んだ空気に誘われるかのようにカタツムリがゆっくりと顔を覗かせた。

「わぁ、出てきた〜。かたちゅむりしゃんもう大丈夫、ぬれへんで?」

いや、カタツムリは雨を喜ぶ生き物なんだって……そう教えようかと思ったところで
下から松岡の声。

「しげるくーん、太一くーん、風呂入ったよ〜」

夢中になってて気付かなかったけど、俺ら濡れたまんまじゃん……これで風邪でも引か
そうもんなら。
間違いなくやってくる待遇の悪化を避けるために俺は『かたちゅむりしゃん〜まだあしょ
ぶの〜』と未練たらたらな茂くんを引き摺るように部屋を後にした。フタ、なぁ……雑誌
でものっけときゃいいか、逃げねえだろ。



風呂上がり。思ったより冷えてた体を無理矢理湯船に引きずり込んでホッと一息。
頭をガシガシ拭いてると松岡に薄手のトレーナーを無理矢理着せられた茂くんが袖を一
所懸命まくりながら駆けて来た。

いつのまにか帰ってた長瀬はいつものごとくゲーム中。山口くんは茂くんの髪の毛を拭っ
てやってる最中に逃げられてタオルを持ったままこっちを見てる。

「なぁなぁまたこのあと、たいちの部屋行ってもええ?」
「あぁいいよ」

このやりとりの間になんだか部屋の空気が重くなった気がすんのは気のせい…じゃない。
茂くんにぬるめのホットミルクを持ってきた松岡の表情が硬くなり、タオルを持ってる
山口くんの手に力が籠ったのは見て取れたから。

『わ〜〜い』なんて後ろの人間の葛藤?になんか全然気付かないこのおこさまはこの部
屋を『クーラー要らず』な氷点下の部屋にするつもりらしかった。

「とりあえず、髪の毛のつづき。ホットミルクも飲んどきなよ」

そう言って押しだすと『は〜〜〜い!』なんて優等生な返事をして茂くんは山口くんの
元へと戻ってく。

「はい、リィダァ」
「あんがとぉ、まぼ」

茂くんの掌の大きさに合わせた小振りなマグ。
タオルドライの後ドライヤーをつかって丁寧に乾かされていく髪の毛。自分の髪をそん
な風にすんのなんかほとんど見たことないのに。

ふたりしてさっきの会話が気になるらしい。探りを入れてる。

「シゲ、なんかえらく今日は太一と仲良しじゃん」
「そうだよ、玄関にいんのかと思ったらさっきもふたりしていつの間にか太一くんの部
屋に籠ってたんだから…………なんかあったの?」

「ひ・み・ちゅ」

「「へ?」」

「ひみちゅ、やねん。ぼくとたいちの」













……………………………………ふ……ふ〜ん」
「そぉなんだーーーーーーーーーーーーーーーーー。『ひ・み・つ』ねぇ」

ふたりの後ろに渦巻くのは吹き上がる火炎そしてそれと対極なブリザードなオーラ。

『あ〜ぁ』内心で溜息をついて緊急避難を決意する。

「茂くん、行こっか」
「うんっ! vvvvvvvvvvvvvv」

語尾に見えるハートマークに更にオーラがパワーアップ。やさぐれてるな〜。
茂くんが傍にいるかぎり直接的な被害を被ることはない、それだけを救いにして俺は茂
くんと俺の部屋へと駆け上がった。



その後も俺の部屋に暇があれば入り浸りな茂くんにあの手この手で情報戦やら懐柔やら
仕掛けて『俺の部屋お客』に付いてふたりが聞き出したのは次の日。

けど、わかったからって何にも出来ないでしょ?長瀬はともかくとして。
『ぬるぬる嫌いな』みんなに気ぃ遣ってんだって、わかって欲しいもんだよ。


毎日、イヤそうな顔をしながらでも白菜やキャベツの外葉を分けてくれる松岡や、
「なぁ今度は『おたまちゃん』連れてきたらあかん?」そう上目遣いで聞く茂くんに
タジタジな山口くんには悪いけど、俺は結構この生活を楽しんでいた。















                             end.



**************

これも欠片を保存して下さっていた方への御礼の品です。
リクエストは

> ちびシゲを甘やかすリズム隊にも懐くけれど、無関心気味な太一に
> 甘えるちびシゲ。実は悪い気がしない太一・・・みたいな。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お話、だったんですが、ちょっと私には高度過ぎたようです。(爆)
するっとリクの端っこでも掠めてると良いのですが。


本当に本当にありがとうございました!!
2005.07.11








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