アナタが気付く、その前に。
気付いてる?
自分が疲れてるってコト。
俺達に心配を掛けないようにと。
隠してしまうのがアナタの性分だから。
少しくらいの疲れは自覚さえしてくれない。
だから俺達も。
アナタがそれを自覚する前に癒してしまおうと。
日々、奮闘しているんだぜ?
1.
「おはよぉ・・・。」
いつもより少しだけ覇気の無い声と共に楽屋にシゲが姿を現す。
波情報を確認していた携帯の画面から顔を上げるふわりと笑顔を浮かべた彼と目が合う。
「おはよ、シゲ。」
「今日は早いねんなぁ、ジブン。」
「まぁね。海行ったけど荒れてたからさ、その足でこっち来たんだ。」
あぁ、と窓の外に視線を向けてシゲは頷く。
朝よりも更に厚さを増した灰色の雨雲と大きく揺れる木の枝に納得したらしい。
「残念やね。明日は晴れるとええな。」
「そうだな。」
上着を脱いで傍らに腰を下ろしたシゲに俺は携帯を閉じると向き直る。
そして俺の行動に怪訝そうに首を傾げていたシゲの腕を引くと畳の上に転がした。
「何するん、達也。」
俺の突飛な行動に可笑しそうに苦笑を浮かべてシゲが半身を起こし此方を見上げてくる。
「いつもより早く起きた上にさ、サーフィンが出来なかったから調子狂ったみたいでさ。ちょっと眠いんだよ。」
「それが今の僕の状況にどう関係あんねん。」
「どうせ、収録までの時間は有り余ってるしさ、付き合ってよ。」
「何に?」
俺の悪戯っぽい笑みに、予想がついたのかシゲは笑みを深くして訊き返してくる。
「だからさ、昼寝しようってこと。」
「って、まだ午前中やん。」
「どっちでもいいじゃん、ほら。」
同じように畳の上に転がると半身を起こしていたシゲを促すように傍らを叩く。
シゲは仕方ないと言った様子で、しかし逆らう事も無く素直に隣へと横になる。
「昼寝するんはええけど、打ち合わせはどないすんねん。」
「スタッフが起こしてくれるだろ?」
「僕に寝起きで打ち合わせに行け言うん?」
「冗談だよ、携帯のアラームでもセットしとく?」
俺はくるりとうつ伏せになると、テーブルの上に置いた携帯を手に取る。
そして操作する振りをしてボタンを押すとシゲに向き直る。
「30分後にセットしたから。これでいいだろ?」
「おん。」
俺の言葉に安堵したのか、ようやく目を閉じるシゲに俺は気付かれないように息を吐く。
程なく聞こえて来た穏やかな寝息に小さく笑みを零すと俺はそっと身体を起こした。
「まぁったく、こんなにあっさり眠っちゃうほど疲れてるじゃん。」
楽屋に姿を現した時から気付いていた。
その変化はとても些細なもので、たぶん俺達メンバーしか気付かないだろうもの。
おそらくシゲ本人でさえ自覚していないだろう。
「今だけでも、ゆっくり休みなよね。」
自分の上着とシゲの上着を重ねて肩にかけてやると俺はそっと立ち上がる。
携帯と財布をポケットに入れると音を立てないように楽屋のドアを閉めた。
「あれ、山口君じゃん。おはよー。」
「おう、おはよ。」
階下の自販機へと向かおうと身体を反転させたその時、背後から声を掛けられる。
首だけ動かして後を見ると太一がニカっと笑顔を浮かべて手を振っていた。
俺は身体ごと太一に向き直り挨拶を返すと、その手を引いて楽屋から離れる。
「何、リーダーが寝てるの?」
「・・・鋭いなお前。」
「何を今更。山口君がそうゆう行動取るときって大抵リーダー絡みじゃん。」
俺が何かを言う前にあっさりと楽屋内の状況を当ててみせる太一に驚く。
当の太一は呆れたようにため息をついて首を振った。
「ちょっと飲み物買ってくるから、あとはよろしく。」
「はい、はい。いってらっしゃい。」
太一の追い払うような手振りに俺は釈然としないものを感じつつ、その場を後にした。
―――***―――
「ただいまー・・・。」
清涼飲料水のペットボトルを3本手に戻ってきた俺は声を潜めつつ、そっと楽屋のドアを開ける。
部屋の中を覗くと太一がチラリと此方を一瞥し頷く。
先程と同じ位置に眠るシゲの姿を確認して俺は部屋の中に身体を滑り込ませた。
「ほい。」
「ありがと。」
中に上がると携帯で何やら打ち込んでいた太一の頬にペットボトルをペタリとくっつける。
太一は携帯を閉じてそれを受け取ると、顔を上げて礼を言った。
「それにしても、よく寝てるね。」
「だなー・・・本人自覚してなかったみたいだけど、相当疲れてたみたいだな。」
「打ち合わせ、俺が代わりに行って来ようか?」
太一の申し出に俺は少しだけ驚いて顔を覗きこむ。
当の太一は居心地が悪そうに視線を反らす。
心なしか頬が紅くなっているのは気のせいでは無いだろう。
「サンキュ、太一。」
「いーえ。」
素っ気無い返事に俺は笑みを零す。
散々俺にはシゲに甘いと言いつつも、太一も十分甘いなぁとつくづく思う。
ムキになって否定するだろうから口には出さないけれど。
「愛されてるねー、シゲさん。」
俺は太一に気付かれないように笑みを深くすると、気持ち良さそうに眠るシゲの髪をそっと梳いた。
2.
「あー・・・腹減ったわぁ・・・。」
収録を終えて、楽屋に戻ってくるなりテーブルに突っ伏すシゲに俺達は顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
いつもメンバーと違うメニューを選ぶ傾向にあるシゲは例の如く、今日の勝負でも同じ展開で一人負けしていた。
先程の収録ではゲスト共々、勝った俺達を恨めしそうに見ていたのを覚えている。
まあこれは番組のルールなので仕方が無いのだけれど。
「なぁ、シゲ。」
「んー?」
今朝からの疲れがまだ後を引いているのかシゲは億劫そうに視線だけ俺に向けて返事を返す。
俺はそんなシゲの様子に気付かれないように息を吐くとみんなに目配せをする。
意図をいち早く理解したみんなは頷き、俺の言葉を待つ。
「この後全員オフみたいだしさ、久しぶりにみんなで飲まねぇ?」
「・・・みんなで?」
みんな、と言う言葉にピクリと反応を示すシゲに俺は思わず笑顔を浮かべる。
メンバーが大好きなこの人には効果覿面ってわけね。
「そう。どっかに飲みに行くのもいいけど・・・そうだなぁ、俺んトコに来るか。」
大の男5人が集まるには誰の部屋でも狭くなりそうだが。
俺の部屋ならば、シゲも度々来ているし気を遣わなくてもいいだろう。
「途中で食材買って行きましょうよ。」
「ちょっと待て長瀬、作るのは誰だと思って・・・!」
「マボ。」
いち早く反応を示した長瀬の言葉に松岡が突っ込む。
しかし怯むことなく満面の笑みで長瀬は松岡を指差す。
「心配せんでも、僕が作ったるで〜。」
「アンタは危なっかしいから、座ってて!」
「はい。」
松岡の反応に料理を作る事を否と受け取ったシゲが長瀬を宥めるようにそう言うが。
速攻で松岡に止められた。
そんな2人のやり取りに俺と太一は顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「ほな、帰るとしよか。」
シゲの言葉に俺達は笑顔で頷くと楽屋を後にした。
―――***―――
「松岡ぁ・・・ホンマに手伝わんでええの?」
「あー、いいから、そっちに戻って座っててよ。」
俺の部屋に着くなり、キッチンへと入っていった松岡。
その後を追うようにシゲもキッチンへと入るが追い払われてリビングへと戻ってくる。
「追い払われてもうたわ。」
「ま、今日のところは松岡に任せようぜ。シゲの料理はまた今度ってことで。」
苦笑を浮かべてソファーへと腰掛けたシゲにミネラルウォーターの入ったグラスを手渡す。
シゲは怪訝そうに首を傾げながらもグラスを受け取り、俺を見た。
「お酒や無いん?」
「空きっ腹にアルコールは不味いだろ。俺達はともかく、シゲは何も食べてないんだからさ。」
「え〜。」
「えーじゃなくて。ほら、どうせ松岡のことだからすぐ何か持ってくる筈だし。ちょっとの間だけ水で我慢してなよ。」
不満気に唇を尖らせるシゲに太一が苦笑を浮かべ、シゲのグラスに一つ氷を入れてやる。
カラン、と氷の転がる涼やかな音がリビングに響く。
「マボー、まだっすかぁ・・・。」
「お前、さっきアレだけ食ったくせにまだ足りないのかよ!」
「イテッ、太一君痛いっす〜。」
育ち盛り(?)の長瀬には先程の収録で食べただけでは足りなかったらしく。
キッチンを覗き込んで松岡を急かす。
その後から、太一が飛びつきキッチンの前でプロレスを始めてしまった2人に俺とシゲは顔を見合わせて苦笑を浮かべる。
「ちょっと、何やってるのよ2人とも!こんなところで暴れてちゃ、料理を運べないでしょ!」
ちょうど、出来上がったのか皿を手にキッチンから出ようとした松岡がプロレスの寝技で進行方向を塞がれて呆れたように見下ろす。
「やた、食い物〜♪」
「お前行儀悪いぞ!」
美味しそうな匂いに反応した長瀬は太一を背中に背負ったまま立ち上がり、松岡の手にしている皿に手を伸ばそうとする。
ピョン、と背中から降りた太一は長瀬の襟首を持って、キッチンの前から退かせる。
「はい、お待たせ。」
ようやく、キッチンから出ることが出来た松岡は苦笑を浮かべながら、リビングへと入ってくるとテーブルの上に料理を並べる。
先程の収録で出てきた料理にも勝るとも劣らない出来栄えに、俺達はほぅ、と感嘆の息を漏らす。
「美味そうやなぁ・・・。」
「ほら、冷めないうちにどーぞ。太一君も長瀬も早くこっちに来なって。」
いつの間にか再びプロレスを始めていた2人に松岡が手招きをする。
「それじゃ、はい。」
「おん♪」
飲み干して氷だけになっていたシゲのグラスに焼酎を注いでやる。
半分ほど注ぎ、傍らに置いてあったミネラルウォーターのペットボトルを手に取る。
「それじゃ、「「「「いただきま〜す。」」」」」
一旦、グラスをテーブルの上に置き箸を手に取ったシゲを倣うように俺達も箸を持つ。
行儀良く、手をあわせていただきますの挨拶の言葉と共に一斉に料理へと箸が伸ばされた。
「こら、長瀬。いっぺんに肉を取るな!」
「リーダー、よそ見してると無くなるよ。」
「シゲ、ほらこっち。」
「あ〜それ、僕が狙っとったのにぃ〜。」
「マボ〜足りないっすよ〜。」
5人揃えば大騒ぎになるのは当たり前。
近所迷惑にならなきゃいいけど、なんて思いは頭の片隅に追いやる。
隣に座りグラスを傾けるシゲの顔は酔ってきたのか微かに紅くそまっていた。
それでもその表情は楽しそうで、今朝までの疲れの影は一切消えていた。
ふと、みんなを見れば俺と同じようにシゲを見ていてシゲから視線を外した際にお互いに目が合う。
シゲの様子に俺達は顔を見合わせて、安堵の笑顔を浮かべた。
―――***―――
「ホンマ、楽しかったわぁ・・・。みんな、ありがとぉな〜。」
宴の後。
満面の笑顔でシゲからそう告げられて。
俺達がさらに笑みを深くしたのは言うまでも無い。
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