変わるもの、変わらないもの




3月の春の短いツアーが終わってほぼ1ヶ月半。久々に打ち合わせで顔を合わせた日、これで仕事あがりだった俺と太一くんで飯を食った。
たまに使う個室の居酒屋。耳障りじゃないくらいの感じで音楽が流れる室内、腹もそこそこふくれ軽くアルコールも入ってテーブルを挟んで斜め前にいる太一くんは上機嫌。
それを確認して俺はこのところずっと心の隅に根っこを張ってる疑問を直接ぶつけてみることにした。

「ねぇ太一くん」

最近あったこととか今日の打ち合わせに関しての雑談とかの合間の静かな空気の中、ちょっと座り直した俺を見て酒で体温が上がったのか重ねてたシャツをパタパタさせてた太一くんが首を傾げる。

「ぁ?なんだよ改まって。もしかしてまだ腹減ってんのか?こんだけ食って」

テーブルいっぱいの空の皿を見渡してそう言いながらわざと『珍獣を見る目』をして俺を眺める太一くん。

「そんなんじゃないっす、もうこれだけ食ったんだし。
ねぇ…………前ちょっと聞いた時、うるせぇって怒られたけど、やっぱり気になって。

いったいどんなこと考えながらあの時太一くんはあんな風に言ったのか。お願いですから聞かせて下さいよぉ」

俺の言葉を聞いて太一くんが思いっきり顔をしかめた。

「なんだ、またその話かよ」
「だって」

俺が言う『あの時』ってのはこないだ4月の改編ん時にあったバンド系音楽の歴史を紹介する特番での太一くんの発言のこと。
春ライブ最終日のその2日後に収録された春の改編用SP番組の終盤、グループサウンズの大スターだった方との笑いを交えながらのコラボをなんとか無事に終えてホッと一息、画面上はホストである俺たち5人でのフリートーク。
一応リーダーが仕切ってるけど他の4人も言いたい放題、そんないつもと同じにみんなでワイワイガヤガヤ言ってる中でその太一くんの言葉は飛び出した。



「あれだけ面白い話が出来て、で歌う時にはあんだけ格好つけられるってすごいね」

ぐっさんが感心したって風に言って。

「これは見習わなきゃいけませんよ」

まぼがうんうん頷きながら被せたその後。




「なんだかんだ(いって)、数十年後ああなってんだろうね、僕ら。ね〜」




なんだか『しみじみ』って感じに聞こえた発言。あんまり聞いたことのない太一くんの断定口調。
もうすでに番組のほぼラストの部分だったってこともあってそれには4人誰も突っ込まずスルッと流れてしまったんだけど。

俺とおんなじであんまり普段『TOKIO大好き』をおおっぴらにしない気がする太一くんの口から飛び出したその言葉はあれからなぜだかずっと俺の心に居座ったままだった。
だから。

無言のまま太一くんの顔をじっと見つめる。まばたきしちゃわないよう力を籠めて……それから出来るだけ下からのおねがい目線で。

先に目を逸らした方が負け、そんな空間で無言の数分間。



はぁっ。
太一くんが大きく溜め息をついた。

「せっかく聞き咎められずにスルッとうまく流れたと思ったのになぁ」

さっきから落ち着きなくいじってた携帯を仕方なさそうにぱちんと閉じた太一くんは開き直ったって顔で腕組みして迫力満点の眼で俺を睨んでくる。

「だって珍しいじゃないですか、太一くん。
たとえばリーダーやぐっさんなんかは『一生TOKIOで』とか『TOKIOで良かった』なんてたまに言ったりしますけど、太一くんがあんな風に言うの珍しかったから…それもテンション上がりきってる『ライブの挨拶』とかじゃなく『電波上』でって。
だからこそ教えて下さいよ、なにかあったんすか」

これが今の正直な俺の気持ち。

ふぅ。
口を閉ざした俺を見てわざとらしく大きな溜め息をついた太一くん。あ、眉間にくっきりはっきり縦皺3本。

「別に…あれはあの時ほんとにスルッと口から滑り落ちたって感じの言葉で『ああ言おう』なんてあらかじめ思ってた訳じゃねぇんだよ…ほんとに、うん」

気の抜けかけたビールのグラスをくいっと呷ってそれからまた落ちつか無げにまたビールをグラスに注ぐ。まるで自分の言葉を確かめてるみたいな感じに。
良かった今日は少なくともこの前みたいにははぐらかされなさそう。


「ただ」

そこで一旦口を閉ざした太一くんは考え考えって風に続けた。

「ただな、うまく言えねえんだけど…なんてぇのかな、ベタに表現するなら『手応え』、そんなのがあったような気がしたからさ今回」
「手応え?」

…って『ライブの』、っすよね。

「めちゃめちゃ久々なライブだったろ?今回。
初日は久々な上に山口くんの件もあったし、それも含めてステージの上に上がる俺らはもちろんスタッフさえ結構緊張でガチガチだったじゃん。
ファンの子も久々すぎてノリ方忘れてなんだか妙な間があったりでさぁ」

太一くんの言葉に枝豆を口に運ぼうとした手を止める。
たしかにライブはじめ、しょぱなの武道館はお互いに探り探りって感じの滑り出しだったよね、だからうんうん頷いた。

「なんかさあ、俺らだけじゃなくファンの子も含めて誰もが『失敗するまい!』って思ってた感じがしたんだよ。
だからなんだかいつもと同じようで微妙に違う感じの妙な緊張感があってさ。

もしかして『この空気』を引きずったまんまでラストの武道館までいくのかな…ってちょっとびびってたんだ、実は」

……………そうなんだ。

「なんだよその『思い切り驚いてます』って目は。俺は繊細なんだよっ、お前と違って」

ぺし
軽く額をはたかれた。
口をへの字に曲げちょっとムッとしてる顔に慌てて謝る。

「ごめんなさいっ!」

もうしませんっ!
こんなところで話を切られちゃ余計気になって眠れなくなる。

はぁ
手を合わせ拝み倒す俺を見てひとつまた息を吐いてから太一くんは続けた。

「けどさ、そんな余計な心配してた俺を嘲笑うみたいに回を重ねるごとにいい感じに力が抜けてほぐれて来たじゃん、客席のみんなも、それから俺らも。 ステージの上からそんな光景を見ながらぼんやり思ってたんだ」

「なにを?」





「ライブがやれなかったこの二年はさ、たしかに長かったけど……この『待ち』の期間って『ただ過ぎてった』ってだけじゃなかったんだなぁ、ってさ。たぶんファンの子にとっても、俺たちにとっても」
「…」

太一くんの言葉を考える。俺にとっては超長かったこの二年弱が持っていたというその意味について。



「松岡あたりの言葉を借りるとしたら『熟成』、とかそんな表現になりそうな気がするんだけどな」

俺に答えを求める、なんて無謀なことはせずに考え考えしながら(いつもの打てば響く、ってのとは正反対な感じで)言葉を探してる太一くん………熟成、っすか。


「うん、熟成。知ってるだろ?寝かせることによってうまくなるじゃん酒とかチーズとか、それと同じ感じ。
この二年待っててくれる人たちも俺ら自身も『俺らの音楽』に飢えててさ、それをぶつけ合ったのがこのライブで…演ってるとき客席を見ながらつくづく思ったんだよ、『あぁ、無駄じゃなかったんだ』って。
なんかさぁ、飛び跳ねて欲しいところでは思いっきり暴れてさ、聞いて欲しい『ここぞ』ってところはきちんと聞いてくれたじゃん?今回。メリハリっつうかさ。

特にSUGAR。
ホール中のみんながお前の言葉に耳を傾けてその後しんと静まったのに歌いながらジンとこなかった?お前」

太一くんの問いかけ。


瞼の裏、あのシーンが蘇ってくる。

ライブ本編ラストの曲、SUGAR。ツアータイトルにした、この二年間を『逢いに行くから』って七文字の言葉に閉じ込めた曲。
『ただ静かに聴いて俺たちの思いを感じて欲しい』そう願う俺やメンバーのこころを受け止めて手拍子したいのを抑えてくれてたあの静かな優しい空気、幸せな空間。

「感動しましたよね、オーラスの日なんかちょっとうるっと来ましたもん」
「だろ?俺なんか毎回鳥肌立ってたもん」

いろんなものが溢れてぐっさんもまぼも泣いてたあの日。



「あん時はもうそれだけでいっぱいいっぱいでそんなとこまで頭回んなかったんだけどな。
一区切りついて改めて振り返ってみた時、多分二年前の俺らじゃあれほどきれいに静まり返りはしなかったんじゃないか、てそんな気がしたんだよな」

バラードで静まるのを見越しての間奏途中での『太一く〜ん』や『まぼぉ〜!』なんて声援。ありがたいんだけど今ここは聞いてくれないかな、聞かせるようなステージングをしなくちゃな、なんて話にたまになったのを思い出す。

「だからそれが『あの言葉』に?」
「あぁ」

やっと足元が固まってきたかなって気がしたんだよな、もうすぐ15年目突入だって今になって。

「だからそろそろ、もう言ってもいいかなって」

ぬるくなったビールのグラスをひっつかむような勢いで呷った太一くん。
そっぽを向いた横顔がうっすらあかい。それはたぶん酒のせいだけじゃない、太一くんの本気を移した紅。



「なんだかんだ(いって)、数十年後ああなってんだろうね、僕ら。ね〜」


…………そうか、あれは『祈り』なんだ。あの断定口調も。



横顔を見つめてたらぽっかりそんな言葉が浮かんだ。

二年前と変わるもの、そして変わらないもの。ひとつひとつ頭の中に浮かべて指折り数えてみる。








「そういえば」

どれくらいたっただろう、不意に太一くんが声を上げる。



頭上に疑問符を浮かべ、きょとんとした俺の表情を見て苦笑を浮かべる太一くん。

「思い出したんだけどさ、」

そう話をつないだ太一くんはなんだかすげぇ楽しそうにクスクス笑ってる。

「そういえばリーダーもこないだ飲んだ時そんなこと言ってたよ…やっぱりなんでか俺のあの言葉にこだわっててさぁ。
なんだかんだ言ってやっぱりどこか似てるよな、お前とリーダー」

そう笑う太一くんの表情は意識してないからこそこぼれたって感じのとても優しいもので。

音楽がふたりをつなぐ接着剤みたいになってからはふたりの間にピリピリした感じはなくなったしこのごろよく話してる、ってのも知ってるけど……そんな真面目な、ていうかそんな突っ込んだ話もするんだ、ってなんだかびっくりした。

…これは『変わっていくもの』だな。

ぼんやりとそんなことを思う。
変わるもの、変わっていくもの、変わらないもの。



でもこの先どんなに変わっていっても5人でいればきっと大丈夫。



浮かんだ思いに思わずにやけてしまった俺は太一くんに気味悪がられるまで笑い続けた。


                                                                      end.

***

祝、15年目突入!!
いつまでも5人で、いつまでも魅せて下さい。出会えた幸運に感謝。

いったいいつの、何の話なんだ…。
元ネタは4月にO.Aされた『宴会テイメント』での太さんのっちっちゃな一言…それを妄想の及ぶ限り、ということで膨らませてみました。出来れば夏ライブまでにUPしとくべき話だったんですがずれにずれてこんなことに;
凸凹智太コンビ、大好きなんですが動かすのは大変でした…。


お読み頂きありがとうございました、良ければ突っ込みお待ちしています。

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