なみだ。


 目の奥の熱さと鼻の奥のむず痒さとを我慢して、俺達は なんとかライブを一旦締めると、そそくさと舞台袖に引っ 込んだ。
 俺達と言っても、正確にはグループ五人のうち四人だ。
俺は、そして太一も松岡も長瀬もきっと、早くステージか ら下りたかったんだ。
 だって大誤算だ。
 このツアーの地方のラストが奈良だと決まってすぐに、 俺達四人は「城島茂を泣かそう計画」を発動した。だって、 奈良だぜ?あの人が過ごした土地だ。
 まず気合い入れて(もちろんライブは毎回気合い入れる けど、特にだ)奈良でのライブを絶対に盛り上げる。それ から、最後の挨拶はあの人に喜んでもらえるようなこと (まあ、要は素直な気持ち)を四人が言葉にする。そうい う計画だった。
 そしたら、きっとあの人は泣くだろうと俺達は確信して た。最後の最後に挨拶の番が来て涙を浮かべて言葉に詰ま るあの人を四人でもみくちゃにしてやろうって、そこまで 考えてあの人がいないところで盛り上がってた。
 それなのにさ。

「なんや、四人とも」
笑顔のスタッフ達に手を挙げて言葉を交わしながらステー ジ脇の廊下まで出るとシゲは立ち止まって俺達の顔を見回 した。
「ファンに見せられんな、そんな顔」
目をそらしたって、顔を背けたって、俺達四人が泣いてる のはバレバレだった。そして、シゲは笑顔だ。
「あー、もー、だってさぁ」
そう言って、長瀬がぐすっと鼻をすすった。
「リーダー泣かそうって計画だったのにさ」
太一は眉間に深い皺寄せて、でも、こらえきれない涙が目 尻に溜まってる。
「あんな風に言われたら色々と思い出しちゃって、なんか、 もう、ね」
松岡はもう素直に泣いてる。
「せっかく、普段は口にしない素直な気持ちを、ああやっ て言葉にしたのにさ」
俺は無理に笑ってみたけど、その拍子に涙が落ちて頬を流 れた。
「素直な気持ち?」
シゲはぱたりと瞬きした。不思議そうに首を傾げる。けど、 それから、ふわりと笑った。
「山口も、太一も、松岡も、長瀬も、皆が僕のこと大事に 思うてくれてるのなんて言葉にせんでも知っとるわ、阿呆」
皆、何も言えなくなった。
 途端に耳に響くのは閉じた扉の向こうから聞こえる「ア ンコール」の声。ファンの子達が呼んでる声だ。
「ほら、お客さん達が待っとる」
シゲは歩きだした。ああ、そうだ、楽屋に戻って顔拭かな いと、ステージに出られない。
 狭い廊下を五人で歩く。その先頭にいたシゲがゆるりと 身体を返した。
「長瀬、ありがとぉな」
ぽんぽんと腕を叩かれて、長瀬はまた、しゃくりあげた。
「松岡、ありがとぉ」
頬を撫でられて、松岡は泣きながら何度も頷いた。
「太一、ありがとぉ」
背中をなだめるように叩かれて、太一はこくりと深く一つ 頷いた。
「山口」
目が合って、俺の身体は強張った。だってさ……。
「ホンマに、ありがとぉな」
ああ、また泣いちゃうじゃん。せっかく、おさまってたの に。お客さん達、待ってるのに。
「も、勘弁してよ」
肩を抱かれて、素直に首を傾けたら、シゲの衣装に俺の涙 が染みを作った。
「ホント、アナタは……最高のリーダーだよ」
シゲは笑ってる。俺達四人は泣いてる。だけど五人の気持 ちは一緒だ。
 楽屋の前まで来ても聞こえる「アンコール」の声に俺は 心の中で「ごめんね」と謝った。

 ごめんね、もうちょっと、待ってて。
 こんな顔じゃ、皆のとこに行けない。
 もうちょっとだけ、待ってて。

 やまない「アンコール」の声は、優しい海鳴りみたい だった。


***

このところ日参している<しばし>の天津風さまのサイトで4949番をゲットした記念に書いて頂いたお話です。
うちのレポを参考にして頂いたそうで…がんばってレポした甲斐がありました。
あの感動がよみがえってくる感じです。もう、うちで書く必要はないかな〜、とか思ったり。
天津風さま、お話&掲載許可ありがとうございました!


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