|
目を閉じ観念しかけた瞬間どこからか奴らの声がフルボリュームで降ってきた。 『ほらリーダー!使って!!』 『へっ?!』 『なにぼんやりしてんだよ!使えよ!!』 『な…なにを?』 『形代だよっ!まどろっこしいなぁ!!』 『形代?』 『渡したでしょ?!俺等の身代わり。ぼやぼやしてたら取っ捕まって食われちゃうじゃ ねぇかよ!!あの人に!!!!』 ぎゃいぎゃい聞こえる声はなんだか悲鳴じみてて。 言われて自分のまわりを見回してみると…リストバンドとバスタオル…長瀬と松岡から 渡されたもの、と言う事は多分太一のクマも山口のピアスも…がほのかに光を放ってい た。 『まずは俺の。投げて!』 響く長瀬の声にリストバンドを左手首から外し思いきり放り投げて見ると。 リストバンドは描いた放物線の頂点でまばゆい光に姿を変え、僕らの上に降り注いだ。 まるであいつの全開笑顔みたいに…太陽がまるでふたつに増えたみたいな感覚に目を細 める。 『今のうち!』 背を押すような声に我に返りまた駆け出す。 けど…。 『あかんわ、こんなん…いくら走っても変わらへん、おんなじやん!』 砂の斜面は僕を逃すまいとさらさらと。 『相変わらず弱っちいなぁ、日頃の不摂生、反省した方がいいんじゃね?んじゃ松岡さ まの出番かな?リィダァ、俺のタオル取って片方は持ったまま上に向かって投げて?』 『これか?』 紫のバスタオルを手に取って広げる。 そうそう。あ…ねぇリイダァ、くれぐれも片端を持ったまんま、よ?!短辺の……… そこで長辺持ってどうすんのよ!!頭いいのにどうしてそんな肝心なところでぼけるか な、この人は……あのねぇ、全部投げちゃったらほんとシャレになんねぇし、あくまで も上に向かってだからね…あんたの事だからなんかやらかしそうでめちゃめちゃ怖い』 夢の中に現れてもやっぱり松岡は饒舌なんやな…そんな事を思いながら松岡のタオルを 広げて投げる…もちろん注意して慎重に、松岡に言われた通りに。 すると。松岡のタオルはしゅるしゅるしゅるしゅる伸びて《またそのうねって伸びてく さまがなんて言うたらええんか、あいつの切れのいい、けど特徴あるダンスのうねりを 彷彿とさせて…これはむくれるから本人には絶対内緒やけど》地上までの道になって。 ぼーっとみとれていた僕はせっつく声に我に返った。 『おら、そこのジジイ!地上まで辿りつかなきゃ俺の出番が来ねえじゃねぇかよ、さっ さと走りやがれ!』 やっぱり夢の中でだって太一も太一やな…叱咤する声に片足を絨毯状に伸びたタオルの 道に置く。 『すご。ほんまに全然滑らんし崩れんわ…ありがとぉ松岡』 『…礼は後でいいから。いそいで!』 ぶっきらぼうな《間違いなく照れてアヒル口になってるんやろう》口調の声に苦笑しな がら紫の道を走り出す。踏み締められる感触がうれしい。 こんな風に黄色いレンガの道を主人公が辿るのって何の話だったっけ?なんて軽く逃避 モード。ここにあいつらがいたなら突っ込まれる事間違いなしな事を頭の片隅で考えな がら僕はなんとかすり鉢の外側まで辿り着いた。 追ってこられないようにタオルの道の終点を穴に蹴り落とす。 はあはあはあはあ… ここまで来れば大丈夫、そう思える場所まで苦しい息のまま走り抜ける。 ドサリ地面に転がった。 『…んじゃ今度は俺か。リーダー、俺のクマあんたの前後左右に置いて』 『クマ?!』 『…まさか落っことしたとか言わねぇよね』 太一の声の迫力に気圧されて慌てて両脇のポケットを探る…どうやら砂の藻屑にはなっ てなかったらしい。ホッとしながら取り出す。 『前に俺、後ろが山口くん。右が松岡で左が長瀬の。わかった?』 『えーと。前が青、後ろが黄色、右が紫で左が赤…と。これでええか?』 『おっけ。じゃ行くよ?』 ビィーーーーーーン 『ぉわっ?!』 クマたちが光りを放ちながらへたり込んでいる僕の座高と同じくらいデカくなった…と 思ったら僕を取り囲むように4体とも外側を向いた…まるで四天王みたいだ。 と同時にずっと僕の周りに吹き荒れてた砂塵がぴたりと止んだ。 『はあーーーーー』 やっとの事で深呼吸。 何が何だかわからないけどどうやら最悪の状態は脱したみたいだ…………肺いっぱいに 酸素を取り込みながらいつまでも収まらない息に僕は己の体力不足を痛感していた。 『落ち着いた?シゲ』 『……なんとか。おかげさんで』 汗で顔にはりついた髪と砂粒が気持ち悪いけど。 『じゃあさ、行こうか』 『行くってどこへ?』 『局面の打開に……とどめでも刺す?』 爽やかな声が恐ろしい言葉を告げる。 『とどめ…って『あの人』に?!』 目を見開いて声の方向に向かって首を思いっき り左右に振った。 『……『あれ』は絶対あの人なんかじゃねぇよ』 『…やって』 『もしもあれがあの人ならさ、嫌がられてるって分かっててそれでも無理矢理シゲを捕 まえようなんて思うと思うか!?』 『それはそうやけど……』 それでもそう簡単に割り切れない。だってぱっと見は『あの人』そのものなのに。 『まだ吹っ切れないんだ。ならためしにさ、太一の結界から出てみなよ』 『…結界やったんや、これ』 『気付かず寛いでたのかよリーダー……まあより本質に近く表現するならシェルターっ てとこ』 太一の脱力した声が重なる。 …わ 一歩足を踏み出すとそこは未だ砂嵐の真っ直中。 そして。 『……蟻地獄もっとデカなっとるやん』 縁がどんどん浸食されて巨大化してて…間違いなく僕のいる方へと迫って来てる。 『そんな事する人か?あなたが慕うあの人は!?』 慌てて戻ったクマの結界の中、いつも気遣ってくれたりからかわれたり相談に乗っても らったり…いろんな表情のあの人を思い浮かべる。 『ううん、他の誰がそんなことしてもあの人は絶対そんなことしはらへんわ』 『分厚くフィルター掛かり過ぎな気がしないでもないけど、まあいいや。なら行こ?』 『…どないするん?』 『俺のピアス外して?』 『ぇ、うん』 ごそごそ左耳から外して掌にのせる。 『んじゃ、地面に置いて?そう…結界の外にね、じゃあ行くよ』 言葉と共にピアスが発光したかと思うとぶわっと膨れ上がった。 眩しさが落ち着いたから思わず閉じた目をおそるおそる開く…と。 『ユンボ?』 一般的には『ショベルカー』とか『パワーショベル』とか呼ばれるだろう車体がでん! と鎮座していた。それも1バケット(ガーっと掻いての1掬い)でどれだけの土砂を動 かせるのか予想もつかないビッグサイズのスーパーユンボ…そして屋根にパトライトよ ろしく張り付いてるのは。 『村長?』 『さあ、シゲ』 『なあ、なんでここで村長が出てくんの?』 『さあね、村長も俺らの仲間だし?スペシャル機能つきだよ、楽しみにしてて』 『…何なん?それ』 『それは後のおたのしみ。さあ、それで埋めちゃいな?シゲ』 『埋めるん?』 聞き返す。 さりげない言葉の裏に隠されてる気遣い…僕が『あの人』を直接攻撃するのをためらっ てんのはバレバレらしい。 たしかに『砂漠の主』な存在に砂で対抗したってその場かぎりなダメージしか与えない だろうし致命傷にもならないだろう。とりあえず現状打破が当面の目的なんだし。 『そやな、わかった。クレーン城島…もとい、ユンボ城島久々に出動するわ』 明るい緑の車体のユンボのオペレーター席によじ登って乗り込む。 『しかし久しぶりやなーユンボ、村以来やろか』 たしかにおんなじ免許だからクレーンもユンボもどっちも扱えはするけれど。 『ええと…こっちが油圧の動力系でこっちが…まあなんとかなるやろ』 緊急事態に本能と経験が働いてくれることを祈ろう。 『城島、行きまーす!』 声の方向に向かい特徴ある口調を真似て叫ぶ。 『あのねぇ…』 『あんたはアムロか!!』 『かっけーリーダー!アムロ?!』 『似てないとは言わないけどさ、そんなことに情熱傾けてる場合かよ』 四者四様のツッコミに苦笑。 内輪受けして座が和んだ(と思ってるのはもしかしたら僕だけかも知れないけど)とこ ろでユンボの動力を起動した。 ズズズ…。 重低音とともにキャタピラは動き出す。 『久々なのは分かるけど見てるこっちがはらはらするわ』 そう呟いたのは誰の声か。 滑らかさとは縁遠い動きなのは確かだから反論のしようもないけれど。 しばらく操作するうちになんとか感覚を思い出しては来た。 《どないしょうか》 材料の砂は無尽蔵。どんどん掻き寄せてすり鉢へと落として行ってほとんど埋まった… だけど、はたして効果はあるんだろうか、『砂の王』に。 『後もうちょっと。山にして?』 『こんなんでええん?』 『おっけ』 『でも、ほんまに効くんやろか』 『言ったじゃん、目的は現状打破だって。大丈夫大丈夫。じゃあSP機能、行くよ?』 『何するん?』 『まあ見てなって。右端にあるちっちゃなスイッチわかる?』 『これか?』 『そう。じゃあ押してみてよ』 半信半疑だけど『大丈夫』って言葉を今は信じて見よう。 よくよく見ると村長の横向きなシルエットがついているそれのボタンを思いきって押した。 『『『『『スイッチ、オン!』』』』』 こんな時だけ声が揃う。こんなところが僕ららしい。 ビューーーーーー 村長マークなんだから屋根の巨大村長になにか機能がついてるんだろうな、そんな僕の 読みは当たってたらしく天井部で稼働音がしたかと思うと村長は大量の『水』を僕が埋 めた辺りに向けて吹き出しはじめた………いや、これは水じゃないな。 この匂いは端的に言うと『村』でしか嗅いだことのない…。 『なぁなぁ、村長のクチバシから吹き出してんのってもしかして『無農薬農薬』?』 『あたり。やっぱ分かる?』 『こんなクセの有る匂い、他に知らんもん。分からんほうがおかしいわ』 『無農薬農薬』…そんななんだか矛盾してるような名前をもつそれは村で明雄さんに教 えてもらった『生活の知恵』のひとつですべて自然の材料からつくられる『作物は枯ら さず害虫だけを駆除する農薬』。 でも、なんでこんな場面で? なんでこんな場面で? 『染み込んでくとちょっとの間地面が固まるんだって。そいでから薬液に触れると生物 はみんなしばらく体がしびれて動けなくなるから。その間に突破しよ?……嫌、なんで しょ?苦しんでるのを見るの』 どこまでもお見通しな言葉に苦笑…まあこれはみんなに共通する感覚だろう。僕だけ じゃなくみんなにとっての憧れの人なんだから。 どこかにタンクがあっていったいどれだけの量の液体を吐きだしたのか、見渡すかぎり 辺り一面『水浸し』。 ユンボから降りて穴の周縁部だったところまで歩くと、たしかにあたりの地面は堅く締 まった砂浜よりもなお堅かった。 はぁ。 半ば放心していた僕を促す声。 『シゲ』 『…ん?』 もっぺん、ユンボの方、向いて? 『そうそう』 『まだ終わった訳じゃないっすよ?』 『ここで手を抜いたら元の黙阿弥ってわかってる?』 『だから、こっち向いて』 4人の声に振り向くとさっきまで乗っていたスーパーユンボは影さえなく、代わりにそ こに。 『だん吉?』 そう。見覚えの有りすぎな白い車体が今度はちまり、とそこに有った。ちゃんと僕がつ けたフロントボディの5つの輪っか付きで。 『これで行けばもう大丈夫っすから』 『砂漠の縁までひとっ走りだよ』 『そうそう、スタックさえしなきゃ、ね……』 『不吉なこと言うなよ、太一』 緊張感の欠如した会話に思わず笑ってしまった。 『ありがとぉ』 そう呟いて、馴染んだ運転席に乗り込んでいつものように走り出す。 砂丘を四つ越え五つ越えして走ってくると前方に街のシルエットが浮かびだした。 『街や…やっとここまで来た』 抜けきらなかった緊張がほどけてゆく。 ふぁぁぁ、かみ殺してもかみ殺しても湧いてくる生あくび。 『あかん、なんやめっちゃ眠いわ…』 危ないからだん吉を止め、僕はハンドルにコテンと突っ伏した。 ……………けど、なんでこんなに眠いんだろろう?これは夢の中の話で僕は今眠ってる はずなのに。 意識を睡魔に明け渡す刹那、またみんなの声が聞こえた気がした……。 「リーダー、リーダー?!城島さん?!」 揺すぶられて目を開ける。 あれ…? 「大丈夫ですか?!」 アップで飛び込んで来たのはメンバーじゃなくロケハンに行ってたはずのディレクター やスタッフの顔…………………………あぁ、現実世界に戻ってきたのか。 『大丈夫って何がです?』 そう聞きたかったけど必死な形相な彼らに聞くのは憚られて。 「…はい」 「頭痛とか吐き気は?」 「……大丈夫みたいです」 ゆっくり上体を起こす。体を休めてたはずなのに余計疲れてる気がするのはさっきの夢 が夢だからだろうか……………なんだか油の切れた旧式ロボットみたいにギクシャクし か動けない。 砂を払いつつ周囲を見回すと一様にホッとした表情な彼ら。 「ほんとに、本当に大丈夫ですね?どこも痛かったりしんどくありませんね?」 重ねられる言葉に心配が滲んでる。 「すんません。心配させたみたいで………うっかり寝てしもてたみたいですわ、こんな ちょっとの間やのに」 『申し訳ない』と頭を下げる。 「いやいや、疲れたんでしょう、やっぱりハードでしたから。いえ、大丈夫だったなら いいんですけどね…なかなか目を覚まさなかったから『すわ脱水症状か?!』ってこっ ちが勝手に慌てただけで。あのど迫力な4人の笑顔が脳裏にどアップで迫って来て、こ りゃ番組の、にプラス生命の危機かも……なんて冷や汗かいてました」 一瞬『あのーもしもし?今の言葉って座を和ますためのジョークですよね?』と確認し たいほどの真顔で額の汗を拭ったディレクター。 「とりあえずこれ飲んどいて下さい。今は大丈夫でも水分補給しないと脱水症状一直線 ですから」 そう続けた彼から渡されたスポーツドリンクに口を付けて初めて体が酷く水分を欲して たのに気付いた。一気飲みしたいところだけど体が驚くだろうから少しずつ飲み下す。 なんだか生き返った気分。 ようやくすっきりしてきた意識。ふと、頭に浮かんだ疑問を口に登らせる。 「結局ロケハンっていったいどれくらいかかったんですか?」 「そうですねぇ、結構サクサク進んだんでざっと15分くらいですかねぇ」 「ぇ、15分?」 とするとまだしっかり記憶してるあの立ち回り(僕にとっては大活劇だ)は正味10分 くらいの間の話って事か………現実世界と自分の感覚のずれに驚く。まるで、数分間粥 の煮える間に一生を生きた夢を見ていたとか言う昔の中国の『一炊の夢』って話みたい だ。 そんな事を考えながらよっこらしょ…立ち上がって体に纏わる砂の多さにびっくり…あ れ?現実世界でも砂に埋もれかけてる。 「うわー、なんや髪の中まで砂だらけやん……これやったら水やのうて『砂もしたたる いい男』って感じですかね?」 繰り出した言葉はここにいない松岡に受け止めてもらえるはずもなくスタッフの苦笑を 伴いながら風の中に消えた…。 やっぱり全部夢やったんかな…?自問する。答えなんて出ないってわかってるけど。 リストバンドもバスタオルもクマもピアスも別にそのまんまの状態で手元にある、けれ どまだ全身がすべてリアルに覚えてる。 なんだろう、この感覚。 ……そういや夢から覚める直前に 『リーダーおみやげ期待してますー。また後でねー』 『スタッフの足ひっぱんないでよっ!』 『『無事に帰って来るまでが遠足です』だぜ?くるぐれも迷子になんないよう大人しく して、はぐれんなよ!』 『しびれきらして強制連行しに行く前に帰って来てよ?』 そんな言葉を聞いた気がするなぁ。 まあ、あいつらがいてくれたからこそ……その感覚はずっしりとこの体が覚えてるし。 夢の中でまでフォローされてるこの身がやや情けないけど。 とりあえず土産、奮発しておこうか。 ぐっさんは酒系、長瀬は食べ物系で太一には………この辺り特産の化石?あの化石企画 以来ハマッてるみたいだし。そして松岡。来る前から土産の決まってる奴も珍しい…… あいつには『砂漠の薔薇』………たしかメルズーガで見たような気が。 非常に現実的な参段に耽っていた僕はディレクターの声に顔をあげる。 「さあ、帰りましょうリーダー。首を長くして待っててくれる人達のところへ」 まだ覚醒しきってないとでも思われたのか気遣うようにかかる声。 「そうっすね……でも別に誰も待ってなんかないとは思いますけど」 そう答えた時、吹きつけてきた一塵の風。 正面から吹き付ける風にとっさに目を閉じた僕はスタッフが交した『知らぬは本人ばか りなり』といった包み込むようにやわらかな苦笑を目にする事はなかった。 《すんません、またの機会に》 振り向いて、そう夢で出会ったあの人に思いを送る。 その『またいつか』にまたあいつらが出張ってこないとは言い切れないけど。 砂丘を下ったところに回してくれたという車まで歩きながら、多分みんながいるのだろ う方角を見透かす……見渡すかぎり目に映るのはやっぱり空と砂ばかりだったけれど、 なんだかそこに四人の全開笑顔が蜃気楼みたいに重なって見える気がした。 さぁ、帰ろう。みんなのところへ。 待たれていてもいなくても、僕の居場所はやっぱりみんなの傍らだから。 end. *** お疲れさまでした(滝汗) とろとろやっていたら(切ったり貼ったり色を変えたり)結局一日掛かってしまいました; 5人祭に参加させていただいた文章のこれが完成版です。 無駄に長いです; そして、長くなった分分かり易くなったかどうかは不明です(酷) お読みいただきありがとうございました。感想等頂けると小躍りします。 背景素材提供:トリスの市場さま 格納庫 top
|