5LDK−ss
「ねぇ、シゲ。しばらくの間、ってか時々でも構わないんだけど・・・俺に進行させてくんない?」
「なんなん?藪から棒に。別に構わへんけど。便宜的に流れで僕が進めてるってだけやし」
二本録りのうち一本目収録後。
僕らが持ってるトーク番組の進行を代わってほしいと言ってきた山口が珍しくて楽屋への道すがら僕は首をかしげ足を止めた。
もともとゲストを置き去りにしてメンバーも好き勝手にしゃべってる番組ではあるけれどいつも積極的にゲストの言葉に食いついてくる松岡や太一と違ってこいつや長瀬はたまにぽろっとこぼす言葉が話を広げるのに役立つ、そんな感じのしゃべり方で普段そう口数の多い方じゃないから。
いったいどういう心境の変化だろう。
僕の目線を読み取った山口は続ける。
「春から一本増えるじゃん?その練習も兼ねて、ね」
「あ…ああ。せやな、山口が今やってんのは超強力な共演者が揃ったはるしな」
「そうそう。あの人たちを抑えて俺が、ってのは難しいでしょ?」
次の改編期から始まるこいつの番組は若い子たちと一緒に今のトレンドを探るとかそんな番組だったと思う…たぶん。
「ええよ。て言うても先にプロデューサーさんに話通してOKもらってからやけどな。いくらでもトーク回しの腕磨いたらええやん。僕も進行から解放されるんやったらのんびり楽しませてもらうし」
「そうそう、息抜きも必要だよ。じゃあ決まりね」
また並んで歩き出しながら僕はなんだか不思議な解放感を覚えていた。
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「シゲからはOKもらってPにも話通してきた、次回収録からしばらく俺。だけど別にとりあえず俺が引き受けたってだけだから、いつでも代わるからな」
リーダーが席を外してる合間に山口くんが小声で報告。
「了解。でもしばらくは兄ぃがやったほうがいいよ。でないとあのひと訝しむし・・・そんなところだけは鋭いから」
気ぃ遣いな松岡らしいセリフ。
「だね、それに経験値上げといた方がいいのは方便じゃなくほんとだしね、新番組にむけて。民放とはやり方が違ったり、よりかっちり決まってる部分もあって結構シビアだから」
だから俺も言葉を重ねる。これも紛れもない俺の実感。
「でもほんとにすごいよね。上三人が同時にNHKで番組を持つって・・・それも『まとめて』じゃなくそれぞれ趣が違うの三本だからね」
「まあ時期的に重なったのはたまたまだけど」
なんだか俺らも小声になってこそこそと会話する。
「これでリーダーちょっとは自由にできるかなぁ」
珍しくずっと黙ってた長瀬がぽつりと言った言葉に思いを馳せる。
きっかけはこいつの一言だった。
「ねぇ、これだけみんな番組のMCとかしてるのになんでいっつもこれの司会はリーダーなんすかね?」
長瀬の声に振り返った。前の仕事が押してて珍しくリーダーだけ姿のない控え室。
「ぇ?」
「なんだよ、脈略もなくいきなり」
「唐突だなぁ、また」
「ちょっと前から思ってたんです。太一くんだってぐっさんだって自分の番組持ってるじゃないですか、それにまぼだって十分番組回せますよ。なのになんでこの進行はずっとリーダーなのかなって」
長瀬の言葉に結構三人とも虚を突かれた。
「そういわれればそうだよな・・・なんでだろ」
腕組みする松岡。
「ずっとそんなもんだと思ってからなぁ、そう言われたら深く考えたことなかったわ」
そう言ったのは山口くん。
「う〜ん。なりゆき?」
これは俺。
『頼りない』『名前だけの』そう俺らにいじられるために在るような『リーダー』って肩書き。だけどその肩書き故にあの人の猫背な両肩には本来なら俺らも分担して引き受けるべきいろんなあれやこれや−メンドウクサイモノ−が乗っかってる、それは言葉に出さなくとも認識してたはずだけど。
「言葉を選ぶ、って点ではあの人の右に出る人間はいないからな・・・いざって時に噛む噛まないは別として」
まじめな顔をしてあの人の相棒が言う。
「でもまあ、たしかに全部おっ被せすぎかもね」
たしかに『あの人固定』にしなきゃならない理由はないわ、別に。
「ゲストは行き当たりばったりの日替わりで司会されたらちょっと混乱するかもしれないけどね。リィダァ普段穏やかなトーンなのに実は結構毒吐いたりするじゃん、あの『ボソボソ』って感じの毒舌、結構的確で俺わりと好きなんだよね」
『リーダー命』な弟分の言葉に思わず苦笑。
「「はいはい」」
「なによ、その生暖かい目は・・・ちょっとやめてよ、太一くん!兄ぃっ!」
「進めながらたまに壊れてるときもあるけど、やっぱりどっちかって言うと『次の段取りは』なんてのに縛られてそんなに羽目外せないっすよね、進行って」
長瀬がなんだかえらくリーダー思いでちょっと面食らう。どうした、なにか悪いモンでも食ったか?
だけど。
「だな、たまにはあのオヤジを野に放ってみるのも面白いかもしれねぇな」
松岡のセリフにメンバーが頷いた。
「頑張って下さいね〜」
神妙な顔から一転して手をひらひら振る長瀬。
「なんだよ、その他人事みたいな言い方は」
「だって前に太一くん言ってたじゃないっすかぁ『長瀬が番組回すようになったら地球滅亡の日も近い』って・・・・・・ギブ!ギブ!!って太一くん!」
にっこり笑って近付く俺に長瀬が青ざめながら後ずさる。
「まあ、たしかに『適材適所』って言葉もあるし」
「あいつに仕切らせてたら寿命がどれくらいあっても足りないよ」
そんな会話を交わす二人を背に俺は指の関節をバキバキと鳴らした。
ちょうどそこにもうそろそろ二本目の録りやで〜、そう言いながらリーダーが戻って来る。その顔を見ながら俺たちは素早く作戦の決行を目で確認しあった。
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その結果が今のうち(5LDK)体制だったらいいなぁ、その一点のみからの妄想。
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