20061117
『感謝の日だから原点に帰ろ?』そうメールを打ってあの人を連れ出した。
のっそりと下りて来たあの人は皮ジャケットにハンチング。もうそのまんま仕事に入れ
る格好をして路駐した車の前で手をひらひら振る俺んとこに近づいてくる。
「おはよぉ、なんやねんな、どないしたん?たしかに今日は一緒のロケやけど入り時間
昼過ぎやん。こんな朝早ようから」
きょとん、と見開かれたまるい瞳は眠気の欠片も纏っていない。そんなこと言うわりに
眠そうじゃないよね、結構しゃっきりしてんじゃん、そう言ったら苦笑で返された。
「どうせ僕は無駄に早起きや。けどお前やって…あぁ、海の帰りかいな」
「ブッブー今日は海へは行ってませーん」
第一海行ってたら今この時間にここに存在できねぇよ、ドッペルゲンガーじゃあるまい
し。幽体離脱の特技も残念ながら持ちあわせてねぇし、そう肩を竦めて見せる。
「…そういうたらあんまり潮臭ないなあ」
「『潮臭い』って………あんまりな表現だと思わねぇ?いつも言ってるけどさ」
「そぉか?」
「…もういいよ」
どこへとも告げず車を走らせるのを気にする素振りもなく寛いでるのがうれしい。その
うち見覚えある景色になったのか表情が緩んだ。
そう、あなたが察した通り第一の目的地はここ。原宿の合宿所あたり。
車をパーキングに入れて毎度毎度なたわいもないやりとりを交わしつつ肩を並べ歩く。
夜明け直前の街。『眠らない街』なんて言われる東京が多分一番静かになる時間帯…今
この辺りで一番にぎやかなのはたぶん神宮の森のカラス。
「今年は2回目やな」
「いいじゃん、原点回帰原点回帰」
合宿所だったビルは今はもう無いから。だから俺とあなたの節目を見守り続けてくれて
る公園に向かう。
「けどや、ほんまの原点いうんやったら先輩のツアーで行ってた大阪のホテルなんちゃ
うん」
おどけた目をして言ってくるあなた。
『『スカしたやつ(やなぁ)』』そんなお互いさまの印象をいだいた相手とふたり、い
きなり押し出されるようにして出た城ホールのステージの印象はたしかに強烈だ。今と
なってはもう笑い話だけど。
「さすがにあそこまで行ってたら仕事に穴開けるからね。それに実質スタートしたのは
やっぱりここじゃん」
『ひとり』と『ひとり』だったのが『ふたり』になって、漠然とした憧れが少しずつ具
体的なカタチを帯びはじめた場所。
「だんだん明るうなってきたな」
ビルに囲まれてても隙間から朝日は差し込む。
しばらく明けて行く空を口を閉ざしたまま並んでじっと見ていた。
「『あしたはあしたの風が吹く』、か」
「へ?」
不意に浮かんだメロディを口に登らせたらあの人が不思議そうな目をしてこっちを振り返っ
た。
「……………………懐かしいなぁ」
「でしょ?」
一時期なんだか俺らのアイコトバみたくなっていたフレーズ。凹んだり落ち込んだりし
たときの『ドンマイ』代わり。
なんかの時に話が出たら次のアルバムにそのフレーズ丸々の曲が入ってびっくりした。
「めちゃめちゃ懐かしいわ」
♪あした〜はあ〜したの、か〜ぜが
口ずさんでるあなたの横顔、深くなる笑い皺。
「ぐっさんのボーカルやったっけ」
「そう。それで…………さっきのフレーズとセットで思い出した事があんだけど。
いつのだったかもうはっきりとは覚えてないんだけどさ」
目が続きを促してる。
「もう多分結構前のライブMCでさ、どんな話の流れだったのか誕生日の話になって。
そん時たしか話を振られて『ハタチになるのが一番嫌で一番キツかったー』って言った
の、あなた……………………………覚えてない?」
たぶん長瀬はまだハタチちょいってあたりのツアー。
「ぇ?…そう言うたらあったかな、そんなん」
首を傾げ口許に軽く握った拳を当てて考える仕草。記憶を遡るように空を見詰める瞳。
「あ。あったわ。たぶん僕の二十代最後の誕生日が、とか………そんな話からなんちゃ
うかったかな」
「あの頃のあいつらにそのキモチを分かれって方が酷だって今なら分かるんだけどさ、
あなたの言葉がピンとこなくて太一や松岡、長瀬が『ぇ?なんで?』って訳がわからな
いって顔できょとんとしてたのをなんだか不意にすげえ鮮明に思い出したの」
考えるまでもない。15でデビューした長瀬、17だった松岡。太一であのころやっと
ハタチ。
「ぅわ、懐かし〜。そう言うたらあったあった。あん時『こいつらには僕の感覚は通じ
んのかぁ…』ってなんや気分的に凹んだんやったわ」
そんなことを言いつつうんうん頷く頭。
「その言葉をほんとの意味で理解できて尚且つ今残ってんのは俺や坂本、長野くらいで
しょ。ハタチになんのになんにも先が見えてなかった、情け無いもん同盟」
「情け無いもん同盟、言うな……まぁ、けど、今やから言えるんかもしれんけど、あれ
はあれで無駄やなかったよな?」
あの頃を一緒に乗り切ったからこそ聞いて貰える。そのことに意味がある。
「キツいことも結構あったけどね、人生、回り道はあっても無駄はない……近頃なんだ
かそう思うようになった」
「なんや、どこぞの文学青年みたいやな」
立ち上がってまじまじ眺めてくるから後ろから蹴りを入れるふり。
「茶化すなって」
いつもの通り一礼して車に戻るべく来た道を歩きながらまたたわいもない会話に滑り込
んだ。
***
すっかり朝の顔を見せる街を再度突っ切る。
次の目的地は……カーナビに入力しながら俺はこの企みを思い付いた日のことを考えて
いた。
何日か前、軽いロケの後の雑談。近頃のドラマについての雑談から14歳の少女が母に
なるドラマが話題なんだって、あぁ。結構レーティングとれてるらしいな…そんな話に
話題は移って。
けどドラマより現実はある面もっとシビアだよ。世間はマイノリティ(少数者)には冷
たいからねぇ。
そんな話を聞きながら俺の脳裏にはなぜだかむっちゃんの顔が浮かんでいた。
なんでむっちゃん?…………………まあいいや、けど、むっちゃん。元気かな?
うちの最年長なあの人の最愛なおかんむっちゃん。
ひとりで自分を慈しんで育ててくれた『おかん』をことのほか大切にしているあの人。
15で事務所に応募したのも『はよう自活しておかんを楽させたらな、思て』も『自分
の夢』と同じぐらいの比重だったと聞いたことがある。(当人は『そんなこと言うた?
覚えてないわ』とか言いそうだけど)いつかのエイプリルフール、ジョークにまぶして
夢を一度は諦めようとしたのもきっと多分その辺りに繋がってる。
いつだったか多分酒の入った席で陽気に笑いながら『わたしなぁ十代の母のはしりやね
んでぇ、山口くん。シゲちゃん19ん時の子ぉやもん』そんなことを言ってた気がする
むっちゃん…振り返って自分の19を思い出した。
事務所に入って茂くんと出会って……楽しかったけど中ぶらりんで仕事的には鳴かず飛
ばず、自分の頭の上のハエを追うのに精一杯だったころにむっちゃんはあの人を授かっ
たのか。
たしかに高校時代、自分とタメくらいでも『お母さん』になった子はいた…けど、それ
はやはり『突発事態』の末の選択で、周りにそう何人もいた訳じゃなかったと思う。
俺らの時代でそうだったんだから俺らの母世代に十代で自分の中に宿った命を守り育て
る決心をしたむっちゃんの前に立ちはだかった壁はどれほどハードだったんだろう。
すごいなぁむっちゃん。
そんなことを考えてたら今日のこれを思い付いたんだ。
『モノよりオモイデ』そんなキャッチコピーもあるくらいだし、たまにはこんなのもい
いでしょ?
用意してきた『テーマ曲』入りのアルバムを流しながら車は快調に滑ってく。
対向車の目も気にせずふたりして歌いながら。
程なく見えてきた町並みに隣にいるヒトの目が丸くなった。
カーナビの指示だとあの通りの三つ目の角を右折すれば次の目的地。
「……ぐっさん、なんで?」
心底驚いてるのが分かる声。
「カーナビに住所入れただけだよ、そんなの。なかなか会えないって言ってたじゃん、
ちょっとの間でも行ってきたら?あの人きっと絶対喜ぶって」
俺はここで待ってるから。おめでとう、シゲ。
「ありがとぉ」
ちょっと顔を歪め、それからすごくきれいに笑ったあなたが車のドアを開け滅多に見な
いほど全速で駆けていく。
「こけんなよ」
そう呟く。
玄関を開けて久々再会したときのふたりの溢れる笑顔を想像するだけで、なんだか自分
も幸せのおすそ分けを貰ったような気がした。
今日はあなたの生まれた日。
あなたが一歩を踏み出さなきゃもしかすると生まれなかったかもしれないTOKIOの
『一滴目』がこの世に生を受けた日。
年若くしてあなたを生む決意をしてくれたあなたのおかん、むっちゃんにも感謝。
たまにはこんなプレゼントもいいか…………そして、俺もおふくろに電話しよ、そんな
ことを思った。
end.
***
茂さんと茂さんのおかんむっちゃんに感謝します。
今の私にはこれが精一杯;なんだかとても、とても難産でした。
なんとか11月中に書けただけでいいとしよう…一時期は『お蔵入り』しかけた話でし
た。愚痴を聞いてくれて尚且つ励ましてくれたMさんにも感謝します。
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